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Sakana AI・秋葉拓哉のキャリアを牛久祥孝が深掘り! なぜ「研究一筋は“違う”」と思ったのか?

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Sakana AI・秋葉拓哉のキャリアを牛久祥孝が深掘り! なぜ「研究一筋は“違う”」と思ったのか?

エンジニアが聞きたい○○な話

前回の対談で、チューリングの青木俊介さんと互いのキャリア観について語り合ってくれた研究者の牛久祥孝さん。対談のバトンを手渡す相手のリクエストを聞いたところ……

牛久さん:Sakana AIの秋葉拓哉さんのキャリアについて、過去から現在までさかのぼって聞いてみたいです。

……とのこと。そこで今回は「秋葉拓哉さんに聞きたい『秋葉さんのキャリアの全て』」をお送りします!

オムロン サイニックエックス リサーチオーガナイザー兼プリンシパルインベスティゲーター 牛久祥孝さん(

@losnuevetoros

2014年3月、東京大学情報理工学系研究科博士課程修了。同年4月、NTTコミュニケーション科学基礎研究所(CS研)に研究員として入所。16年より東京大学講師(原田牛久研究室)。18年10月、オムロン サイニックエックスにてプリンシパルインベスティゲーターに就任。Ridge-iのChief Research Officer、東北大学非常勤講師、合同会社ナインブルズの代表も兼任する

Sakana AI Research Scientist 秋葉拓哉さん(@iwiwi)

東京大学大学院情報理工学系研究科で博士号を取得。国立情報学研究所に入所し特任助教を務めた後、Preferred Networksへ転職。その後、Stability AIを経て2023年12月よりSakana AIに入社し現職

パソコン大好き少年・秋葉拓哉が誕生するまで

牛久:「尊敬する人と対談させてもらえる」と聞いて、真っ先に思い浮かんだのが秋葉さんでした。エンジニアと研究者、両軸で日本をけん引している秋葉さんのキャリアの変遷をお聞きできたらうれしいです。

秋葉:僕も牛久さんをリスペクトしているので、対談相手に指名していただき光栄です。牛久さんはいつも周囲の人を巻き込みながら研究をリードしているので、「自分もそうなりたい」と常々思っています。

牛久:非常に恐縮です……! 早速秋葉さんのお話を聞いていきたいのですが、ぜひ今回は、現在の秋葉さんを形作った原体験を探っていけたらと思っていまして。プログラミング大好きな秋葉少年はどのように誕生したのでしょうか。

秋葉:めちゃくちゃ昔まで遡るのですが、パソコンを触り始めたのは小学生の頃です。きっかけは覚えていなくて、いつの間にかプログラミングに興味を持っていました。「パソコンに1番詳しい人になりたい」と考えていたんです。

とはいっても、小学生時代はプログラミングを学ぶ方法や環境が身の回りになかったので、簡単なHTMLを触っていただけでした。

牛久:僕も最初に触ったのはHTMLでした。親がJavaを書いていたのでかじってみたこともあるのですが、子どもの頃はさっぱり分からなくて……懐かしいですね。

プログラミング言語に触れたのは中学生になってからでしょうか?

秋葉:そうですね。僕にとっては中学1年生の時が一つ目のターニングポイントでした。

僕が通っていた麻布中学校にはパソコン部があって、活動の一環として先輩が後輩にC++を教えるのがスタンダードだったんですよ。そこでプログラミングの基礎を教えてもらいました。

パソコン部は文化祭の展示にも力を入れていたので、僕自身もゲームを作って展示したりしていました。全ての展示の中から入場者投票で順位が付けられるのが通例だったのですが、パソコン部は優勝の常連だったんです。僕が麻布中学校に入学した理由も、「パソコン部が盛んだから」なんですよ。

牛久:その頃にはすでにパソコンが大好きな少年になっていた、と。その後、高校時代には国際情報オリンピックでメダルを獲得されていますよね。当時の活躍を見て、初めて秋葉さんの名前を知りました。

高校卒業後は、東京大学理学部の情報科学科に進学されていますが、この選択の背景は?

秋葉:「コンピューターに1番詳しい人になりたい」という思いは変わっていなかったので、情報科学科へ進むことに迷いはありませんでした。

小中高ではいろいろな教科を一定は学ぶ必要があったけど、これでやっとコンピューターの勉強に没頭できるようになった、と胸が高鳴りましたね。興味の濃淡がはっきりし過ぎているが故に学習に偏りがあったので、そこらへんの影響で社会に出てから苦労することもありましたが(笑)

牛久:秋葉さんは大学在学中からプログラミングコンテストに出場したりインターンに参加したりと、アクティブに活動されていましたよね。特に印象に残っている経験を教えてください。

秋葉:大きな契機となったのが、大学3年生の頃に経験したPreferred Infrastructure(PFI)のインターンです。視野が一気に広がったことを覚えています。

それまでプログラミングコンテストにばかり熱中していた僕にとって、アルゴリズムの実装で社会にインパクトを与えようとする姿勢はとても新鮮に感じました。何てかっこいいんだろう、って。

それを機にもっといろいろな企業のインターンに参加したいと思うようになりましたし、大学院での研究のモチベーションも上がりました。

牛久:開発面と研究面、その両面で刺激を受けたんですね。その後はGoogle Japanのインターンに参加されていますが、なぜGoogleに?

秋葉:いわゆるビッグテックで働いてみたかったんです。大企業が大勢のチームでどうやって開発を進めて、品質を保っているのか……つまり、集団開発のノウハウを学びたいと考えていました。

でも、当時は大手の外資系テック企業で日本オフィスを持っているケースが少なくて。

牛久:確かに、その理由だったら必然的にGoogleになりますね。インターンでは具体的にどんなことをされていたんですか?

秋葉:Google日本語入力がリリースされて間もなかったので、そのプロジェクトに携わっていました。具体的に担当していたのは、入力が誤った時に「もしかして:○○」と訂正する機能のプロトタイプです。

PFIでも、Google Japanでも、実際に集団開発に参画して学んだノウハウは今の仕事にも活きていますね。

「研究一筋」ではないキャリアを選んだ理由

牛久:同じ研究者として秋葉さんのキャリアにとても興味があるのですが、インターンに参加した後に進む道として研究者を選んだ理由は何だったのでしょうか?

秋葉:今振り返ってみると……なのですが、心から「研究がしたい」とだけ思っていたかというと、そうではなかったかもしないなと思うんです。

なぜなら、僕は「自分が個人として能力を発揮して社会に最大限インパクトを与える方法」を模索していたから。その結果、当時は研究者の道が最善だったんですよね。

牛久:めちゃくちゃかっこいいじゃないですか……!

秋葉:でも、研究って本来はそういう姿勢で取り組むものじゃないとも思うんですよね。例えば、自分の能力を示すために研究者になる、ってちょっと邪な気がするなって。

博士号を取得した後に国立情報学研究所に所属するまでは、研究者として前線を走り続けるルートに乗っていました。順当にいけば准教授になって教授になって……というキャリアが考えられた中で、結果的に純粋な研究者を辞めたのは、自分の中には学問に対する根本的なモチベーションが不足していると気付いたからなんです。一つの学問を深めていくイメージを持てなかったんですよね。

牛久:確かに、アカデミアの道を走り続けられる人は、どんな状況になっても「この問いを解き明かしたい」という強烈なモチベーションを持っていることが多いですよね。そうでないと続けられない、とも言えるかもしれません。

当時の秋葉さんは間違いなく研究者として活躍していましたが、秋葉さん自身が実現したいこととのズレを感じていたんですね。

秋葉:また、一つの分野だけでなく、コンピューター全体に関心があることを活かしたいとも思っていました。なので、民間企業に移りました。当時、ディープラーニングが世界中で注目を集めていましたよね。その新技術に魅力を感じて、Preferred Networks(PFN)へ入社したんです。

牛久:ここで研究者とエンジニアという秋葉さんのキャリアの土台が完成したのですね。

ただ、研究者とエンジニアのコミュニティーは近いようで若干距離があると僕は感じていまして。秋葉さんは、コミュニティーの違いについてどのように感じていましたか?

秋葉:おっしゃる通り、研究者とエンジニアのコミュニティーには距離がありますよね。ただ、僕の場合はその距離を縮められる能力を活用してキャリアを築いてきたようにも思います。

まだリサーチエンジニアリングの体制が整っていない時代だったので、研究者がツールを作ったり、ツールを作っている人が論文を書いたりと、まだまだ分業が進んでいなかった。研究とエンジニアリングの境界がハッキリとしていないからこそ、両方を行き来しながら上流から下流まで幅広いプロジェクトに関わることができました。

「AIに没頭したい」Stability AI、そしてSakana AIへ

牛久:その後、Stability AIに転職されますよね。どんな背景があったのでしょう?

秋葉:生成AIの時代の訪れを感じていたので、その技術に没頭できる会社に行きたかったんです。Stability AIであれば、画像生成にもテキスト生成にも最前線で携わることができます。生成AIに100%集中できると思ったんですよね。

現在はAI研究の第一人者であるデビッド・ハーが日本で立ち上げたSakana AIにジョインしています。

牛久:Sakana AIについてもぜひお聞きしたいと思っていたんですよ。先日発表された論文も拝見しました。基盤モデル開発を目指すとのことですが、企業としては「どこでお金を稼ぐか」という問題もありますよね。

秋葉:現時点では、ビジネス面で成果を出すよりもコアとなる技術の育成にフォーカスしています

AIに関するビジネスを手掛ける場合、すぐに成果を上げたいならGPUを購入して大きな基盤モデルを構築するのが最もてっとり早いですよね。経営者視点に立つなら、投資に対するリターンが分かりやすい手段です。そこに抗ってまで「研究に投資する」という決断ができる企業は少ないと思います。

Sakana AIは、まさにその決断をした企業です。つまり、投資する対象は人。優れた技術者を迎え入れて、AI研究に対する独自のカルチャーを作ろうとしています。

牛久:生成AIの領域では、スケーリング則に則ってLLM開発に舵を切っている企業がほとんどの印象がありますよね。その点、研究へ力を入れているSakana AIは独自の立ち位置を確立しているように思います。

人に投資しているとのことですが、メンバーにはどのような方が多いのでしょうか?

秋葉:機械学習や基盤モデル開発に強みを持つエンジニアや研究者を中心に、さまざまな人材が集まっています。

牛久:そんな中で現在秋葉さんが描いている展望について、ぜひ最後に聞かせてください!

秋葉:純粋に「面白い」と感じる領域の研究や開発に注力していきたいですね。

最近は研究者と開発者のはざまに立つリサーチエンジニアリングのポジションも脚光を浴びています。独自の経験や知識を活かしながら、これからも興味を引かれる技術に対して、積極的に研究や開発を進めていければと思います。

文/中たんぺい 編集/秋元 祐香里(編集部)

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