【ロケ密着①】映画『ゴールデンカムイ』はこうして作られた。北海道・二風谷で行われた杉元・アシㇼパの「コタン」シーン、美術スタッフが込めた想い
明治末期の北海道を舞台に、一癖も二癖もある魅力的なキャラクター達が、莫大なアイヌの埋蔵金を巡り、繰り広げる壮大なストーリー。北海道出身の漫画家・野田サトル先生による大人気コミックを原作にした、実写映画『ゴールデンカムイ』が全国で大ヒット公開中です!
作品のメイン舞台が”北海道”ということで、地元の放送局である、私たち HBCも制作に協力!
HBCが運営する「Sitakke」では、これまでも作品の魅力を『ゴールデンカムイ沼』特集でお伝えしてきましたが、なんと今回、映画『ゴールデンカムイ』のロケ現場で独自インタビューを実施ッ!
映画『ゴールデンカムイ』はこうして作られた。3人の男たちの“本気”。
⇒次の記事:【ロケ密着②】映画『ゴールデンカムイ』ロケ現場で「アシㇼパ役・山田杏奈さんのセリフって…」アイヌ語・文化監修者の感想は
2023年2月に行われた映画撮影の現場で、美術担当の磯見俊裕さん、アイヌ語・文化監修の中川裕さん、そして監督の久保茂昭さんにお話を聞きました。Part1となる今回では、美術担当の磯見俊裕さんへのインタビューをお届けします。
2月某日、北海道・平取町「二風谷」。体の芯から凍てつくような冬の日でした。早朝、まだ日が昇りきる前から始まったのは、主人公・杉元佐一を連れて、アイヌの少女・アシㇼパが「コタン(アイヌの集落)」を訪れるシーンの撮影です。
「しっかり自然と向き合って映画をつくる」美術担当・磯見俊裕さんの想い
「アイヌの文化や考え、そして土地のこと。しっかり勉強しながらやらないと。『ゴールデンカムイ』という作品に関わるなら」。
真剣なまなざしでこう打ち明けてくれたのは、美術担当の磯見俊裕さん。今回のシーンで使われた「コタン」のセットも手掛けたという磯見さんに、本作に込めた想いをお聞きしました。## 学ぶことからはじまった…『ゴールデンカムイ』の世界観をつくるために
『ゴールデンカムイ』が実写で映画化されるという話を聞いたのは、2021年頃でした。そこから原作を読んで、年明けに久保茂昭監督にお会いして…まずはいろいろなお話をしましたね。
原作で描かれている中でも、(重要な)ポイントっていくつかあると思いますが、なかでも、アイヌの少女・アシㇼパが住んでいる、このコタンですよね。実際、明治の頃に、こうしたコタンが残っていたかというと…なかなか残っていなかったとは思うのですが、ある意味で、世の中の一つの対比として、映画の中でもしっかり描きたいと思ったんです。
(映画製作の準備を進めるにあたって、)アイヌの文化や考え、そして土地のこと。しっかり勉強しながら、ちゃんとしないといけないなと。
何度も北海道を訪れ、地元の方々の協力のもとで制作をスタート
それで、2022年の2月に、監督やプロデューサーと北海道を巡ったんです。文献もいろいろと集め、事前に調べてはいましたが、わからないことも多かった。やっぱり僕らは道外の人間なので。
そこから3月、4月と、美術チームと共に北海道を訪れ、地元の色々な方たちに協力を頂き、実際に北海道の空気を吸いながら準備を進めてきました。
その中で、秋辺デボさん(アイヌ語・文化監修)ともお会いして、自分たちが作っていきたいものを共有して、いろいろなアドバイスをいただきました。
たとえば、映画の中で使う「マキリ」(アイヌの伝統的な小刀)も、アシㇼパの「マキリ」と、アシㇼパの父・ウイルクの「マキリ」は共通点があるデザインがいいんじゃないかとか。そういったお話を重ねる中で、秋辺デボさんから、二風谷でアイヌの伝統的な工芸に関わる職人さんたちを紹介いただいたんです。
原作者の野田サトル先生も、二風谷の方々が作ったマキリとかキセル、矢筒だとかを、(モチーフとして)頼まれていたということもお聞きしました。僕たちもその方々にお話を聞きに行って、(映画の小道具づくりやセットづくりを)進めてきました。
自然との調和を考えて手掛けた「コタン」の風景
このコタンのセットも、二風谷や、日本各地でチセ(アイヌの住居)造りをしている方々の協力のもと、進めてきました。
(史実では)チセは、植物のカヤを使って作る地域が多いようですが、基本的にはそれぞれの地域でよくとれる、地域に適した植物で作られるそうです。チセの建て方も、(当時は)釘があるわけじゃないし、シナ(落葉広葉樹)の繊維などでロープをつくって、くくっていたそうなんです。
セットをつくるにあたって、このあたり(ロケ地)の地域は、柳とハンノキが多いので、この景色に合った材料を用いることにこだわって、ハンノキを多用しました。
自然と向き合いながらつくる『ゴールデンカムイ』の世界観
チセの建て方については、いくつか資料もありますし、全国のチームの中には大工もいますので、資料を読みながらある程度きちんと作ることはできます。ただ、すべて資料に基づいた作り方をしていると、1つのチセをつくるのに2か月くらいかかってしまうんですね。材料のことなどもありますし。
この場所にコタンの集落をつくって、チセを建てようと決まったのが2022年の6月くらい。今回のセットのように、7軒のチセを建てるとなると…14か月はかかってしまいます。
ですので、外側だけを撮影に使用するチセは、外側はしっかりチセの作り方に倣(なら)って組み立てて、内側は一般的な「小屋組み」の方法で作成するなどの工夫をして、製作期間を短縮しました。また、雪が降ってからセットを作るのは困難なので、2022年の夏ごろから作業をして...
今回のシーンを撮影するために、雪が降るのを待っていました。
映画『ゴールデンカムイ』、自然の風景にも注目を
本当は、通常の撮影の観点からすると、アシㇼパが住むポンチセ(小さな家)を、コタンの真ん中に配置したかったんです。でも、アシㇼパのおばあちゃんが一人で住んでいるポンチセが真ん中にあるのはおかしいんじゃないか、やっぱり、コタンの真ん中には、ポロチセ(村長家族が住む、ポンチセより大きな家)があるべきだと。そういったことも踏まえて設計しました。
あとは、撮影の時期と、朝日が昇る方角やタイミングなども計算をしました。
映画の中で、杉元がチセを出ていく朝のシーンがあるんですけど、そこではきれいな朝日が見られると思いますよ。
この(ロケをした)土地は、もともと、人々の暮らしと、自然がきれいに調和するような場所だったんだと思うんですよ。いまもそこの川にはヤマメなんかもいるみたいですし。
本当は、ここで狩猟をして暮らしていくとなると、この広さだと、チセ5軒くらいがちょうどいい。そんなに多くの人数を養える場所ではないんです。ですので、映画用のセットも、もともと5軒だけつくるつもりだったのです。でも、撮影にあたって、ちょっと上のほうが寂しかったので、2軒追加して7軒になってはいますが(笑)
可能な限り、自然と向き合いながら、撮影用のセットも作っていかないとだろうなと。『ゴールデンカムイ』という作品をつくるなら。特にコタンに関しては、原作の肝となる場所でもあるので、僕らもちゃんとしようということで、みんなで勉強して進めてきました。
もともとの土地を生かしたセットにこだわっているので、映画をご覧いただく際にはそのあたりも意識してみると、面白いかもしれませんね。
映画 『ゴールデンカムイ』 概要
映画『ゴールデンカムイ』は、全国東宝系にて大ヒット公開中です。
■原作: 野田サトル「ゴールデンカムイ」(集英社ヤングジャンプ コミックス刊)
■監督: 久保茂昭
■脚本: 黒岩勉
■音楽: やまだ豊
■主題歌: ACIDMAN「輝けるもの」(ユニバーサル ミュージック)
■アイヌ語・文化監修: 中川裕 秋辺デボ
■製作幹事: WOWOW・集英社
■制作プロダクション: CREDEUS
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取材:HBCスタッフ
文:Sitakke編集部 ナベ子 (『ゴールデンカムイ沼』特集)