【「マイクロ・アート・ワーケーション」の「住民との交流会in清水町」】 アーツカウンシルしずおか主催。「アートとは何か」を巡る対話
静岡新聞論説委員がお届けするアート&カルチャーに関するコラム。今回は9月24日に清水町のサントムーン柿田川で開かれた、アーツカウンシルしずおか主催「マイクロ・アート・ワーケーション(MAW)」の住民交流会から。
2021年にスタートしたMAWは、地域住民とアーティストの出会いを促進する取り組み。公募に応じたアーティストが4~7日間、指定の地域に滞在し、住民と意見交換も行う。地域との交流で得たインスピレーションをアーティストの表現の糧にしてもらうのが狙いだ。
今年は8月から、37人のアーティストが自治体、市民団体、企業など13の受け入れ先を訪ねている。顔ぶれは詩人、ダンサー、俳優、作家、彫刻家、画家などさまざまだ。各アーティストは訪れた土地を歩いて歴史や文化、生活を学び、自らが感じたことをウェブツール「note」で発信している。住民との意見交換会も開催し、地域の課題を聞き取ったり、アーティストとしてのアイデアを提供したりしている。
9月24日の住民交流会は、清水町で開催。会場はMAWの歴史上初めて商業施設として名乗りを上げた大規模モール「サントムーン柿田川」だった。現代美術家の増山士郎さん(英・北アイルランド在住)と、ダンサーののばなしコンさんが、住民ら8人と意見を交わした。
最も興味深かったのは「何がアートなのか」という問いを巡る増山さんと住民らとのやりとりだった。柿田川湧水の水源から竹のレールを連ねて流しそうめんを行うという、「アート的発想」に基づくイベントを提案した増山さんは、真意を次のように語った。
「僕は美術館をはじめとしたハコモノで展示されるアートの垣根を超えることをやってきたタイプ。地域資源である柿田川の源泉に竹を『インストールする』というのがアート的だと思った。構築物ができることで、土地に根ざした彫刻作品的な存在にもなり得る」
住民からは「モノがアートなのか、コトがアートなのか」「イベントを実施することがアートなのか」などの投げかけがあった。増山さんはこう応じた。
「非日常的に生きているアーティストが提案するアイデアは、非日常を瞬間的に現出させる。それは、住民の目には当たり前のようにそこにあったと写るもの、見落としていたものの価値に気づく瞬間だ」
アートとは、ビジュアルとして提示される「かたち」だけではない。人々の行動や思考に刺激を与え、場合によっては変化を促すような概念、存在こそがアートなのだろう。その姿がおぼろげに見えてきた。(は)