阪神・中野拓夢の犠打が飛び抜けて多い理由、首位独走の「陰の立役者」
2016年をピークに減少傾向
「2番打者最強論」が唱えられ始めたのはいつ頃からだろうか。アメリカではもはや定説となっており、日本はではそこまで浸透していないとはいえ、2番打者の役割は変わりつつある。
かつては先頭打者が出塁すれば2番打者が送りバントで走者を進めてクリーンアップで得点を狙うのが最もオーソドックスな攻め方だった。
実際、シーズン最多犠打記録は2001年、宮本慎也(ヤクルト)の67犠打。2位は1991年、川相昌弘(巨人)の66犠打で、3位タイに2011年の田中浩康(ヤクルト)、2013年と2014年の今宮健太(ソフトバンク)、2016年の中島卓也(日本ハム)が62犠打で並んでいる。
1990年代から2010年代半ばまで犠打は重要視され、2番打者の大切な仕事のひとつだったことが分かる。
しかし、メジャーリーグの影響もあり、近年は打順構成も多様化。2番に長距離砲が起用されることも珍しくなくなった。年度別の最多犠打は表の通り、2016年をピークに減少している。
今季の中野が49犠打ペースと多い要因
2018年以降で最も多くの犠打を記録したのは2022年、甲斐拓也(ソフトバンク)の38犠打。30犠打に届かないシーズンも4回あった。
しかし、今季は中野拓夢(阪神)が前半だけで31犠打。ここまで90試合にフル出場しているため、143試合に換算すると49犠打ペースとなる。
2位は菊池涼介(広島)、友杉篤輝(ロッテ)、滝澤夏央(西武)の14犠打だから中野だけが飛び抜けて多いのだ。なぜなのか。
阪神は3番・森下翔太、4番・佐藤輝明、5番・大山悠輔のクリーンアップをほぼ固定して戦っている。日替わり打線の日本ハムは前半戦だけでクリーンアップが59通りあるのに対し、阪神はわずか5通りしかない。いかに打順が固定されているか分かるだろう。
そして、このクリーンアップが結果を残している。特に佐藤は25本塁打、64打点でリーグ二冠、森下もリーグ2位の16本塁打、60打点と2人でタイトルを争っている状況だ。
さらに1番の近本光司はリーグ3位の打率.29222、リーグ2位の出塁率.357をマーク。逆に見逃せないのは、森下がリーグ最多の13併殺打、大山悠輔がワースト2位の12併殺打を記録していることもある。
出塁の多い1番と併殺は多いが長打も多いクリーンアップに挟まれた中野は、確率的に送った方が得点につながりやすいのだ。
とはいえ、中野もリーグ4位の打率.29216、出塁率はリーグトップの.361と打てる選手であり、いわゆる「バント職人」と呼ばれるようなタイプではない。盗塁もリーグ3位の14個決めており、違うチームなら1番を任されるだけの実力を持っていると言える。
それにもかかわらず、ハイペースで犠打を決めている貢献度の高さはもっと注目されるべきだろう。前半戦リーグ最多の306得点を記録している阪神。派手なアーチを描くクリーンアップに比べると目立たないが、中野は首位独走の陰の立役者なのだ。
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記事:SPAIA編集部