舞台『ハリー・ポッターと呪いの子』舞台手話通訳付き公演を実施 カーテンコールではキャスト全員が手話で挨拶
2022年に開幕し、2025年7月にはロングラン4年目に突入する舞台『ハリー・ポッターと呪いの子』東京公演。本公演では、聴覚に障がいのある方にも楽しんでもらえるよう、5月17日(土)・24日(土)に舞台手話通訳付き公演を実施。両公演とも舞台手話通訳対象席は完売した。
サポート内容はロビーや客席で手話通訳スタッフが案内をサポートし、場内アナウンスの際も手話通訳を実施した。字幕機器の貸し出しスペースも設け、筆談ボードやコミュニケーションボードも追加設置して対応。
本番中は、舞台に向かって左側のエリアに舞台手話通訳対象席を設け、客席エリアに設置した台の上で舞台手話通訳が行われた。通訳者はキャストが着用している衣装と同じグリフィンドールのローブを着用。緻密に構成された舞台手話通訳で、聴覚に障がいのある方にも舞台『ハリー・ポッターと呪いの子』の世界を臨場感たっぷりに堪能してもらうことができたそうだ。また、舞台手話通訳対象席の⼀部に設けた“抱っこスピーカー対象席”では、持参してもらったスピーカーを音響機器と接続し、音の振動も楽しんでもらうことも行われた。
カーテンコールでは、ハリー・ポッター役の吉沢悠が手話で通訳者を紹介。そして、最後は出演者全員で、手話で挨拶した。
本作の舞台手話通訳付き公演の実施が決まったのは2024年7月。その後舞台手話通訳を務める田中結夏と江副悟史、手話監修の森田明と打ち合わせを重ね、台本を渡してから約3か月の準備・稽古を経て、本番を迎えたとのこと。
舞台手話通訳は、講演会等の通常の手話通訳とは表現方法が異なり、登場人物の性格や雰囲気、演技を手話通訳に反映させることが求められる。ただ台詞を手話で表すだけだと伝わらないため、観客が感情移入できるような表現工夫が必要。すべての台詞を訳すと時間が足りない場合は、複数人のシーンにおいて、その中の1人のセリフの通訳に絞りながら、話している相手のセリフを受けているようなリアクション等も取り入れる「ミラー通訳」という手法を使うことも。
また、役の名前についても、指文字で表現するだけではなく、役によってはサインネーム(手話で表現するあだ名)を決めておる。例えば、ハリー・ポッターは額の傷を表すような仕草がサインネーム。主要な人物のサインネームを決めるのにも⼀苦労だったそう。さらに本作では、魔法や、架空の物の名前が多数登場するため、それらの表現をどのようにするかなど、検討を重ねた。5月に入ってからは通し稽古を何度も行い、本番に備えた。観劇した方からは、「臨場感があって楽しめた」、「字幕機器だけだと感情を追えないので、舞台手話通訳のおかげで感情移入できた」などの感想が寄せられた。
今後も、舞台『ハリー・ポッターと呪いの子』は多くの方に楽しんでもらえるよう、鑑賞サポートに取り組んでいくそうだ。
舞台⼿話通訳者 コメント
■⽥中結夏(舞台⼿話通訳者・⼿話通訳⼠・俳優。これまでにミュージカル『SIX』、ミュージカル『アニー』、等、
20作品以上の舞台⼿話通訳を担う)
本作品の舞台⼿話通訳付き公演は⽇本では前例がないため、それぞれのキャラクターのサインネーム(⼿話で表現するあだ名)や、劇中で使⽤される固有名詞、呪⽂等のより良い表現を求めて、ペアである江副さんや⼿話監修の森⽥さんと共に何度も検討を重ねました。お客様の「ハリー・ポッター」シリーズの知識量には個⼈差があるので、マニアの皆様も初⾒の皆様にも楽しんでいただけるような翻訳のレベル感をチーム内で⼀致させることも重要なポイントでした。
作品や出演者の皆様を好きになっていただきたい⼀⼼で通訳しているので、お客様のこれからの観劇体験に台本には多数の付箋と書き込みがあり、努⼒の跡が垣間⾒えます。繋がるきっかけになればとても嬉しいです。2025年に⼊ってからは舞台⼿話通訳付き公演をご覧くださるお客様の⼈数⾃体が圧倒的に増えたことを実感じ、背筋の伸びる思いでいっぱいです。引き続き、より良い舞台⼿話通訳のかたちを追求し、お客様に⼼から作品を楽しんでいただけるようなアクセシビリティとなるよう、⼀つひとつ課題と向き合ってまいります。
■江副悟史(俳優。⽇本ろう者劇団代表。株式会社エンタメロード代表取締役)
「ハリー・ポッター」はファンが多いので、呪⽂はどう表現するのか、それぞれのキャラクターをどう演じていくのか、本作品ならではの名⾔(教訓)もきちんと解釈を理解し、どう⼿話で表現していくか、⽥中さんと監修の森⽥さんと⼀緒にかなり悩みました。準備がとても⼤変だったので、終えた時はまず、「はぁ…楽しかったぁ」と思いました(笑)。
お客様から多くの拍⼿をいただいた時は、舞台関係者皆の、「ろう者のお客様にも楽しんでもらいたい」という思いが⼀つの形になったことを実感し、感謝の気持ちでいっぱいになりました。
今年、⼤きな舞台で相次いで舞台⼿話通訳が実現し、ろう者のお客様から「楽しかった!」「⼿話で⾒て楽しめるっていいね!」などの⾔葉をいただけて、幼い時、「(ろう者が)もっと楽しめる時代がいつか来ると信じて」と励まされた記憶を思い出しました。
まだ障がいのある観客が100%楽しめる時代とは⾔えないと思いますが、ようやくスタートラインに⽴てたかなと思います。