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“地獄そば”とはどんなそば?明治時代から続く北千住の老舗『きそば 柏屋』は遅めのランチも大歓迎!

さんたつ

きそば 柏屋_DSC_0303

北千住駅の西口から歩いてすぐの千住ほんちょう商店街にある『きそば 柏屋』。明治37年(1904)に創業して以来、同じ場所で営業し続ける老舗そば屋だ。メニューはそば、うどんだけで約50種類、丼ものや定食、おつまみを含めると約100種類もある。定番の一つ、地獄そばには山菜やエビ天などがどっさり盛られていてボリューム満点。

きそば 柏屋(きそば かしわや)

明治時代から地域で親しまれてきた老舗そば屋

江戸時代に旧日光街道の宿場町「千住宿」として栄えた北千住エリア。千住宿は江戸近郊で最大級の宿場だったと言われている。現在のサンロード宿場通り商店街をはじめとした北千住駅周辺のにぎわいは、その名残なのかもしれない。

駅の西口側に位置する千住ほんちょう商店街も、平日の昼過ぎにもかかわらず人通りが多い。そんな商店街の中程にあるそば屋が、明治37年(1904)創業の『きそば 柏屋』だ。いまの建物は1970年頃に建て替えられたものだが、店舗の場所は創業当時からずっと変わっていない。

出入り口の上に店名が大きく掲げられている。のれんの文字は、右から左に読む昔ながらの表記。

『柏屋』を切り盛りしている5代目の沼嵜真一(ぬまざきしんいち)さんによると、かつて千住には、そば屋がたくさんあったという。

「昔は千住だけで、そば屋さんが40軒近くあったみたいですね。それがいまでは数軒しかない。基本、後継ぎがいなくて辞めちゃうんですよ。うちは自分のところの土地でやっていますし、地元の常連さんに支えられているのがデカいですね」

4人掛けのテーブル席が並ぶ1階。壁のメニュー名が書かれた木札から歴史が感じられる。

近所に住んでいる年配の方や駅周辺に勤めるビジネスパーソンなど、お客さんの約7割は地元の人だ。『柏屋』が地域で愛されている理由の一つは、通し営業をしていること。15~16時台でも気兼ねなく食事できるため、仕事の都合でお昼に休憩を取れない人たちから重宝されている。実際、取材に伺ったのは平日の15時だったが、客足が絶えることはなかった。

2階も客席になっているため、席数は多い。基本的にどこもテーブルとイスのスタイルだ。

また、2012年に東京電機大学の東京千住キャンパスが開設された頃から、若いお客さんも増えている。テレビやSNSといったメディアで取り上げられるようになったのも同時期で、とくに土・日・祝日は若い人がよく来るのだとか。

2階の客席にある床の間は、かつてこの部屋が座敷だった名残。装飾品の詳細はよくわからないそう。

「歴史があるから生き残れる、とは思っていない」と沼嵜さんは言う。だからこそ、時代の流れと共にお店をアップデートしている。内装やお手洗いなどを新しくしたほか、メニューの数を増やしてきたのもそのためだ。

ランチには具材てんこ盛りの地獄そばがおすすめ

『きそば 柏屋』の魅力を語る上で避けて通れないのが、メニューのバリエーションの豊かさ。そば、うどんといった麺類は50種類以上、さらに丼もの、定食、おつまみなどを含めれば、約100種類にのぼる。沼嵜さんいわく「だんだん増えていきましたね」とのこと。

「毎日来てくれるような地元のお客さんを相手にしているので、メニューの数は大事なのかな、と思っています。季節ものとか、メニューに載っていないものも何品かありますよ」

そば、うどんを中心としたメニューがズラリと並ぶ。季節限定や丼もの、定食なども見逃せない。

豚天ぷらそば1150円や牡蠣そば1400円など、気になるメニューが多すぎて悩んだものの、今回は地獄そば1200円を注文した。名称の由来は、近所にある金蔵寺の言い伝えから。

「閻魔様を祀っているお寺さんなんですけど、その閻魔様が町娘に化けてそばを食べに来たっていう昔話があって。名前に関しては閻魔様にちなんで、という感じですね。地獄といっても別に辛いわけじゃないんですよ。地のものを使った、いわゆる山菜そばです」

山菜やエビ天、煮卵などの具材を惜しみなく盛り付けた地獄そば。唐辛子をかけたら地獄っぽいかも。

麺類は+150円で大盛りにできるが、『柏屋』のそばは生の状態で約200gもある。ゆでたら250~300gほどになるため、大盛りでなくても麺の量は多めだ。

つゆのベースには、かつお節と、かつお節の中でも旨味や香りが強い宗田節を使用。ひと口すすれば、品のある甘みとまろやかな塩味、そして香り高い出汁の旨味が体の芯に染み渡っていく。

のどごしがいい細めの麺は、しなやかでなめらかな食感に仕上がっている。甘めのつゆとの相性も◎。

トッピングは各種山菜を中心に、エビの天ぷらや煮卵も存在感あり。ワラビやタケノコ、ゼンマイ、細竹、スナップエンドウなどが生む、多彩な食感と風味に箸が止まらなくなる。濃厚な煮シイタケも味わいに変化をもたらす名脇役だ。

ワラビ、タケノコ、ゼンマイといった山菜がモリモリ。スナップエンドウが入っているのもポイント。

続いて長さ20cmほどあるエビ天にかぶりつく。プリプリの身にはしっかり甘さがあり、ふわふわの衣に染み込んだつゆが、じわっとあふれ出す。

具材の主役でもおかしくないくらい立派なエビの天ぷら。プリッとした身の食感にハマる。

煮卵は、いわゆる落とし卵のような状態で、白身はしっとりなめらか、黄身は半熟と固ゆでの中間といった印象。生でも半熟でも固ゆででもない、絶妙なバランスがたまらない。

煮卵の白身を割ってみると、中にはキレイな黄身が。つゆに浸してじっくり味わいたい。

各具材をつまみつつ、そばをすすり、つゆを味わう。ランチにぴったりな麺の盛りのよさもさることながら、最後まで単調さを感じさせない具の多さは特筆すべき点だ。

『柏屋』が年中無休で営業していた頃の常連さんに、週5で通い詰めて毎回おろしそばを頼む方がいたという。こういうタイプの常連客は、かなり珍しいに違いない。けれど『柏屋』のそばには、毎日食べても飽きない奥深さがたしかにある。

「なるようになる」の精神で老舗の5代目を継承

お父さまの後を継ぎ、『きそば 柏屋』の5代目となった沼嵜さん。だが、若い頃は家業を継ぐ予定ではなく「行き当たりばったりで来た」と笑う。

「もともと私、21歳まで自動車整備業をやっていましたから。でもまあいろいろとあって、親父に呼び戻されて。それでまず親父が昔いたホテルに行って6年ぐらい料理を学んだんですよね。最初の3年はイタリアン、あとの3年はフレンチをやっていました」

1階に飾られている額縁を見ると、明治から昭和にかけてのお米とそばの値段が記されていた。

無事に修業を終えた沼嵜さんが『柏屋』に入ったのは27歳のとき、2006年頃だ。『柏屋』は1904年創業なので、その当時で既に100周年を迎えていた。家業を継ぐのは、さぞかしプレッシャーがあっただろうと思いきや「何も考えていなかったですよ」とキッパリ。

「先祖は親父にしか会っていないので、当時はそこまで重く考えていなかったんです。とりあえずいま続けられれば、それで仕事は果たした、と。いまとなってはプレッシャーもあるし、自分の代で潰しちゃいけないと思いますけどね」

「常連さんとのつながりがあるのは、接客が上手な従業員たちのおかげ」と沼嵜真一さん。

常連さんたちに愛されているこのお店が、もしなくなってしまったら悲しい。後継者について沼嵜さんはどう考えているのだろう。

「息子たちはいますけど、そこは本人次第だと思っています。無理矢理レールに乗せる気はないので。もしやるなら本人のモチベーションでやらないと、この先の飲食業界はそうそう耐えられない。だから後継者が生まれるかどうかはわからないです。もう運命ですよ。なるようになる」

肩肘張らず、流れに身を任せるように、しなやかに生きる。そんな沼嵜さんの生きざまは、いまの時代にうまくマッチしているのかもしれない。『柏屋』がいまなお地域の人々に求められ続けていることが何よりの証拠だ。

きそば 柏屋(きそば かしわや)
住所:東京都足立区千住2-32/営業時間:11:00~20:00LO/定休日:水/アクセス:JR・私鉄・地下鉄・つくばエクスプレス北千住駅から徒歩5分

取材・文・撮影=上原純

上原 純
ライター
東京都出身。編集プロダクション勤務を経て、2018年からフリーランスに。雑誌やWeb媒体で、グルメやビジネスなどの取材記事を中心に幅広く執筆。カレーとスイーツ全般、とくにチョコレートには目がなく、毎月コストコに通ってお菓子を買い溜めする。ブリティッシュロックやハードロック、ヘヴィメタルなどの音楽が原動力。

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