仕事、家事、育児に「時間が足りない」背景に睡眠や余暇の不足? 働く意欲や子育てにも悪影響
横浜市立大学医学部看護学科の三浦武助教と大学院国際マネジメント研究科の原広司准教授らの研究グループは4月14日、結婚・子育て世代へのアンケート調査の結果、「時間が足りない」と感じる「時間貧困者」は、睡眠時間や余暇時間が少ない傾向にあることが明らかになったと発表した。
また、時間貧困が、幸福感や精神的健康度の低下、社会的孤立感、仕事への満足度の低下とも関係していることが調査で明らかになった。
仕事、家事、育児、「やるべきことが多く、時間が確保できない」
仕事と家事を両立する働く世代は、仕事や家事・育児など、さまざまな役割を同時にこなさなければならず、「仕事の負担に加えて家事や育児の時間も求められるため、「自分の時間を持てない」と感じることが少なくない。
こうした状況では「やるべきことが多すぎて、十分な時間が確保できない」と感じることがあり、研究グループではこうした状態を「時間貧困」状態とした。
研究グループは時間貧困を引き起こす背景に、「家事・育児の負担が一部の人に偏りやすく、仕事を優先する風潮も、時間貧困を深刻化させる要因」と指摘し、こうした状況は、「個人の休息時間を削り、心身の健康に悪影響を及ぼす可能性がある」と警鐘を鳴らしている。
睡眠時間7時間以下で「時間貧困」の傾向強く、子供の暮らしや成長にも影響
今回の調査では、平日の睡眠時間が7時間を下回ると、時間貧困指標の合計点数が高くなり、時間が足りないと強く感じる傾向が確認された。
また、平日の余暇時間が3時間を下回ると、時間貧困指標の合計点数が高くなり、時間が足りないと強く感じる傾向が確認された。
さらに、時間貧困指標の合計点数が高くなり、時間が足りないと強く感じるほど、主観的幸福感が低くなる傾向が確認された。主観的幸福感は0を「不満」とし、10を「満足」とする10段階で評価した。
仕事の満足感も、時間貧困指標の合計点数が高いほど満足度が低くなる傾向が確認された。仕事の満足感も、0を「不満」とし、10を「満足」とする10段階評価で確認した。
結果から、時間が足りないと感じている回答者ほど、睡眠時間や余暇時間が短い傾向があることが明らかになり、休息や気分転換の時間を十分に確保できていない状態だった。
時間が足りないと感じている回答者は、幸福感が低く、心理的ストレスや社会的孤立感が強い状態で、仕事への満足度も低い傾向が見られ、研究グループは「暮らしに時間のゆとりがないことが、心身の健康や人間関係、働く意欲にも影響を及ぼしている可能性」を指摘している。
また、研究グループは「働く世代の睡眠時間の減少や心理的負担、社会的孤立は、その後、子供にも影響を及ぼす可能性があることが、これまでの研究でも指摘されている」とし、「働く世代の時間的ゆとりを確保することは、親自身だけでなく、子供の暮らしや成長にもつながる重要な課題であることが考えられる」と結論付けている。
横浜市大の研究グループ、「主観的時間貧困尺度」の日本語版を開発
研究グループでは、今回の研究の実施にあたり、時間貧困の実態を把握するための国際的な指標である「主観的時間貧困尺度」の日本語版を開発し、信頼性と妥当性を検証した。
日本語版開発には、横浜市立大学の医学・看護学・経済学・データサイエンスなど、さまざまな専門分野の研究者がかかわり、内容の調整と検討を重ねた。
研究グループによると、日本語版の開発で、これまで可視化が難しかった時間の使い方や日常生活における負担感の定量的な把握が可能となったほか、働き方や子育て支援、地域政策の検討にも活用できるという。
アンケート調査は、時間貧困の実態とその影響を明らかにすることを目的に、横浜市在住の結婚・子育て世帯1万世帯を対象に実施、1979人から得た回答を分析した。
横浜市大の研究グループの発表の詳細は同大の公式プレスリリースで確認できる。