見づらい資料と見やすい資料の違いとは。パワポ芸人・トヨマネが実例と作り方を徹底解説
あの先輩が作っていた資料、めちゃくちゃカッコよかったな……。
SNSで話題になっていたあのスライド、すごく見やすかったな……。
そんな憧れの資料は、Microsoft PowerPoint(以下、パワポ)を使って作られていることが多いです。
ビジネスパーソンにとって身近な、資料作成・プレゼンテーションツールのパワポ。しかし、自由自在に使いこなし、見た人を引き込むような資料を作るのは簡単ではありません。
憧れの資料をマネしたはずが、情報を詰め込み過ぎて見づらくなったり、図やイラストを活用して見やすくしているつもりがかえってごちゃごちゃしたり。パソコンを前に、頭を悩ませた経験をお持ちの方は多いはずです。
一体、パワポ資料ってどうやったら見やすくなるのだろう。
そんなモヤモヤをぶつけたのは、パワポ作成の達人、通称“パワポ芸人”として活動されているシリョサク株式会社代表のトヨマネ(豊間根青地)さんです。今回、編集部が作成したパワポ資料を添削していただきつつ、「クオリティの高い資料を作るコツ」やその定義について解説していただきます。
これを読めば、あなたのパワポ資料が「変わるはず」。
トヨマネ(豊間根青地/とよまね・せいち)。1994年東京都生まれ。東京大学工学部卒。サントリーで通販事業のCRM・広告などを担当する傍ら、趣味のPowerPointで作成したスライドがTwitterで反響を呼び、11万人以上のフォロワーを集める。「くだらないけど、ためになる」をモットーに、スライド作成に役立つノウハウや、クスっと笑えるネタ画像を各種SNSで発信している。2022年に独立し、「資料をもっとおもしろく。」を目指すクリエイティブカンパニー「シリョサク株式会社(旧:株式会社Cataca)」を創業。著書に『秒で伝わるパワポ術』『秒で使えるパワポ術』(KADOKAWA)https://shiryosaku.co.jp/( https://shiryosaku.co.jp/ )
世の中には「タイトル」や「サマリー」のないパワポ資料があふれかえっている
——今回はパワポ資料をつくるにあたっての極意やコツをお伺いしたいのですが、まずはこちらでご用意したパワポ資料の添削からお願いできないでしょうか。パワポは1ページで、「今日着ていく服をAIがアドバイスしてくれるアプリ」のプレゼンを想定したサービス概要資料です。
トヨマネ:なるほど……。最初に申し上げると、この資料は決して悪くないです。クオリティの高い資料に必要な要素がかなりそろっていると思いますよ。
——えっ? 正直、「ごちゃごちゃしていて見づらいかも」と思っていたので意外な反応でした……。
トヨマネ:ただし、直した方がいい部分もあります。そこを指摘するうえでも、まずは「良い部分」について解説しますね。
初歩的なことですが、頭にきちんとタイトルが書かれているところは良いですよね。そして資料のサマリー(資料についての概要)もある。また、サマリーやアプリの仕組みの図など各ブロックにもタイトルがついていて、何の説明をしている資料なのかがパッと見て分かるようになっています。とても見やすいと思います。
《画像:タイトルとサマリーがあることでまず「何の資料なのか」が分かる》
意外かもしれませんが、世の中にはタイトルやサマリーがない資料があふれかえっているんですよ。どれだけ情報を盛り込んでも、タイトルやサマリーがなければ結局何が言いたい資料なのかが分からなくなってしまう。
その点、この資料はよくできています。例えば図を見ると、矢印の中に説明が記載されているのですが、その説明がどれも同じ粒度になっているんです。「コーデ提案」「提案」「学習」と、ぜんぶ体言止めで統一されていますよね。これを私は“情報の粒がそろっている”と表現するのですが、人によってはこれができていないことも多いです。
《画像:矢印が何を示しているのかが分かる言葉になっている》
例えば、「コーデ提案」が「コーディネート」と記述されていたとしましょう。すると、“コーディネートをどうするのか”が分からないんです。コーディネートを提案するのか、渡すのか、インプットするのか、それが分からないと「提案」や「学習」と粒度が違うので並べると違和感が出るんです。
まとめると、この資料は「情報の整理がうまい」と言えるのではないか、と思います。
要素配置の極意は「視線誘導」を利用すること
——逆に直した方がいい部分もありますか?
トヨマネ:ありますね。では、私が修正したスライドをお見せしましょう。
——ぜんぜん違いますね! ぐっと見やすくなって情報が整理された印象です。どこをどのような意図で修正したのか教えてください。
トヨマネ:まず、文字の大きさや太さ、色を変えるなどして、情報の優先順位が分かるようにメリハリをつけています。ちなみに、おすすめのフォントの種類は「游ゴシック」「メイリオ」「BIZ UDPゴシック」の3つです。太字とグリーンの部分こそこの資料で重要な部分だと強調し、「マイスタイリスト(仮)」というアプリの話をしているんだということを伝えています。
次に図の配置を変更しています。というのも、日本人は文字を左から右、上から下に読むので、こうした資料でも視線がそのように動くんです。つまり、左上から右下に視線が流れていくわけですね。
《画像:文章を読むように左上から右下に視線が流れていく》
では修正前の資料に立ち戻ってみましょう。タイトルとサマリーを除いて、左上に何があるかというと、「天気の情報をアプリが取り込む」という機能の説明です。そして左下に「AIがユーザーの登録した情報を学習し、提案する」AIに関する説明が配置されており、右下に「コーデ提案」と「毎日確認」というユーザーの行動に関する説明が配置されています。
《画像:散らばった要素を矢印で中央と結び、インプット・アウトプットを示している》
この図はアプリの利用イメージですから、アプリを使う際の手順に沿って視線誘導した方がいいでしょう。つまり、「ユーザーがアプリに情報を登録する」部分がスタート地点ですから左上に配置して、逆に天気などの外部情報を右側に持ってくるのです。こうすると、視線の流れとアプリの利用の流れが一致してより見やすくなります。
《画像:修正後の資料では、ユーザーの行動の流れに沿って配置されている》
また、このスライドを大きくブロックで分けると「タイトルとサマリー」と「サービス利用の流れ」の2つになると思うのですが、そうなるとちょっと浮いてしまうのが「サービスを使うメリット」の部分です。
《画像:右上に「サービスを使うメリット」が配置されている》
「サービス利用の流れ」の図と同じ場所に入っていますが、これはサービスの流れではなく別の情報なので、独立したブロックにした方が見やすいでしょう。今回は図の下にスペースをつくり、そこに3つのメリットをまとめて入れました。こうすることで、視線が上から下に流れた際、サービスの利用イメージを掴んだ後にサービスのメリットが分かるという自然な理解の流れがつくれるように思います。
《画像:中央ブロックとは別に下部ブロックを作り、「サービスを使うメリット」をまとめた》
色とイラストは“なんとなく”使わない。選ぶときのコツとは?
——トヨマネさん修正後のスライドを見ると、色使いもずいぶん違いますね。
トヨマネ:基本的に色は1色、多くても2色に抑えた方がいいと思います。というのも、パワポの中で「特定の色を使わなければならない理由がある」ケースってほとんどないんですよ。
例えば、青いコーポレートカラーの企業と赤いコーポレートカラーの企業を並べて比較するみたいな場合は意味があります。でも、今回のアプリの場合は比較ではありません。アプリ概要の背景がオレンジである必要はないし、矢印に色を付ける必要もありませんよね。
パワポ資料における色とは、「何色を使うか」が大事なのではなく「どこに色を使うか」が大事なんです。単色の資料の中に色があると、そこが目立ちますよね。だから、目立たせたい場所に1色だけ別の色を使うのが正解です。
《画像:修正後の資料では強調したい箇所に緑を使い、その中で明度を変えたり、緑に近しい黄色を使ったりしてメリハリを付けている》
今回の資料で主役となるのは真ん中に配置されているアプリの概要です。ですから、この部分を目立たせる意味で背景に色をつけました。
色と同じように使い方に注意したほうがいいのが、イラストです。元の資料のイラストの使い方にそこまで問題があるわけではありません。「天気の情報」の部分に天気のイラスト、「ユーザー」の部分にユーザーイメージの女性のイラストが使われていて、見やすいです。
強いて言えばイラストの雰囲気が統一されていないのとカラフルで悪目立ちし、大事な箇所がどこなのか見にくいのが気になったので、単色のアイコンに変更しました。文字情報オンリーよりもイラストがあった方がぱっと見でイメージしやすくなりますが、情報量が増えて、印象がイラストに引っ張られる危険もあるので、目立ちすぎないように気をつけることが重要です。
——目立ちすぎないようにするために、具体的にはどのような工夫が必要なのでしょうか?
トヨマネ:そもそも、イラストはその資料の雰囲気を決定づけるほどインパクトがあるので、なんとなく使わないでいただきたいんです。例えば、スペースが空いてて寂しい印象だから適当なフリー画像を配置して埋める、みたいな使い方はよくありません。
よく使われている「いらすとや」も、1つでも使った瞬間に資料のイメージがすべて「いらすとや」に染められてしまう。なので、ポップなノリを伝えたい時にはいいですが、そうではないビジネス資料には不向きです。
《画像:非常に種類が豊富で使い勝手が良いものの、テイストが染められてしまう》
——たしかに「いらすとや」はイラストのタッチだけですぐに分かりますよね。
トヨマネ:はい。ですから、イラストを使うなら資料のトンマナ(トーン&マナー。雰囲気やルール)に合うものをしっかりと選ぶ必要があります。また、イラストではなく「アイコン(記号的で無機質な図)」を使うのもおすすめです。先ほど添削した資料でも修正版ではアイコンを使いました。アイコンの方がイラストよりもインパクトを抑えられるので、余計な印象を与えにくくなると思います。
《画像:ユーザーやAIを示すものは無機質なアイコンを使用している》
なお、イラストを使うコツとして“イラストで説明しすぎない”ことがあります。イラストで説明しようとすると、具体的なイラストを探さないといけませんし。
——「イラストで説明する」とはどういうことでしょう?
トヨマネ:例えば「先生がテストの採点をする」という内容を説明するのに、つい「テストの採点をしている先生のイラスト」を探して、貼りつけたくなりませんか? そうやって具体的なイラストを探し始めると、なかなかぴったりのイラストが見つからなくて、いろいろな素材からピックアップすることになって、結果イラストのテイストがばらばらになってしまうんです。
そうではなく、「先生がテストの採点をする」という説明にイラストをつけるなら、先生っぽさが少しでも出ていればいいので「何かを話している感じの人」のイラストで十分です。具体的な説明は文字や口頭で補足するわけですから、イラストは抽象的で構わないんです。
——ちなみに、写真についてはいかがですか?
トヨマネ:パワポ資料に使う写真には2種類あります。「具体的な写真」と「雰囲気だけの写真」です。具体的な写真は、必要であれば入れましょう。例えば、アプリの説明をするために実際の画面の写真を見てもらうことは必要ですよね。
一方でよくあるのが後者、すなわち背景にうっすらイメージ写真を入れるようなケース。この場合は写真はあくまでイメージであり、飾りです。別にその写真である必要はないわけです。こういう写真は余計な情報を与えるだけなので使わないほうがいいでしょう。
具体的な写真か、それとも雰囲気だけの写真か分からなくなったら、「別の写真で置き換えてもいいか」を考えてみてください。その写真でないとダメなら使うべきですし、別の写真で代替できるなら雰囲気写真なのでなくしてOKです。
ただし、雰囲気を演出したい場合など、時と場合に応じて使う方がよいと判断する時は使ってください。「雰囲気だけの写真は使わなくていい場合が多い」という大原則は押さえた方がいいですが、写真に限らず「どんな場面でも絶対に当てはまる普遍的なルール」はありません。
デザインは二の次でいい。「誰に何を伝えるのか」整理できているか?
——添削を通じて、「資料における分かりやすさ」とは何なのかが理解できたような気がします。ここからは今回の資料に限定せず、クオリティの高い資料を作るためのポイントについてより掘り下げてお話をお聞きします。そもそも「クオリティの高い資料」とはどんな資料なのでしょうか。
トヨマネ:何をもって「クオリティが高い資料」とするのかというと、これはもう「目的達成の度合いが高い資料」です。この目的によって資料の作り方も変わります。例えば、今回添削したパワポが「社内会議で新しいサービスのコンセプトを1ページで発表する」ための資料だったなら、今回の作り方で正解といえるかもしれません。
ですが、もしこの資料が「ユーザーに向けてアプリの使い方や仕組みを説明する資料」だったとしたらどうでしょうか。おそらく出すべき情報も見せ方も違うものになるはずですよね。アプリの実際の画面を載せるとか、動画で埋め込むとか、もっとユーザーの利用シーンに即した資料が正解になるかもしれません。
このように、資料は同じ中身であっても目的によって良し悪しが変わってくるものなんです。まずは「何を(誰に)伝えるのか」という“What”があり、その上でTPOに応じてどんな味付けをするのかというデザインの“How”があります。この両方が適切な資料が、クオリティの高い資料といえるでしょう。
——資料をつくる時って、「ビジュアル化しないといけない」という先入観があるので、ついHowに着目してしまいがちだと思います。
トヨマネ:ぶっちゃけHowを考えるのは二の次で構いません。それよりも真剣に考えてほしいのがWhatです。Howは味付けなので、なくてもクオリティの高い資料は作れますが、Whatのない資料のクオリティは絶対に高くなりません。
——では、どうすればWhatを意識できるのでしょうか。
トヨマネ:徹底的に相手目線になるしかありません。資料を見る受け手がどんな情報を求めているのか、受け手にどんな行動をとってほしいのか、何を伝えればその行動をとってくれるのかを考えることが重要です。そのためには、受け手と日頃からコミュニケーションを取り、リサーチをして受け手のことを深く知ることが効果的です。
「情報の構造化」こそ、整理されたパワポ資料の共通点
——ただ、Whatを把握できたとしても、実際の資料作りが苦手という人も多いと思います。
トヨマネ:資料作成が苦手な人に多く見られる特徴として「伝えたいことを箇条書きにできない」ということがあります。資料を作る前に、まずその資料で何を伝えたいのかを箇条書きでまとめてみてください。それがうまくいかないのであれば、資料を作る以前に自分自身が伝えたいことをまとめ切れていない状態なんです。
箇条書きとは、すなわち「構造化された情報」なんです。例えば、今回添削した資料であれば、一番言いたいのはサマリーにまとめたサービス説明の部分ですよね。「AIコーディネート提案アプリ」であること、「ユーザーは服の写真を登録するだけでいい」こと、「アプリは気象情報などをもとにコーディネートを提案してくれる」こと。これらを説明したいわけです。
そうすると、これら3つのサマリーに対して、さらにロジックツリーが付け加えられるはずです。例えば「アプリはその日の気象情報などをもとに天気や気温に合わせたコーディネートを提案してくれる」を掘り下げて説明するツリーとしては、「天気予報のAPIで情報を取得」「予想気温や降水確率も取得」「直近の近隣で行われるイベント情報」「ファッションに関わる情報・ノウハウ」といった情報を追記できます。
《画像:サマリーから派生した情報が配置されていて、無駄がない状態》
このように、あらかじめ情報を構造化することで、情報同士の関係性や優先順位がはっきりするのです。すると、スライドのデザインもスムーズかつ的確に行えるはずです。なぜなら、構造に従ってスライドをブロックに分割し、要素を配置していけばいいだけですから。同じツリーの情報同士を近くに配置して、矢印で関係性を示すといった具合に。
資料を作成する前に、まずは箇条書きや口頭で内容をきちんと説明できるかやってみてください。それができないなら構造化ができていないということ。そもそも口頭で分かりやすく説明できない資料をパワポで作っても、うまくいくわけがないんです。
“資料不要論”を掲げる企業に対して思うこと
——資料作りにおける基本的な考え方がよく理解できましたが、一方で資料のクオリティを上げるうえではインプットを重ねるなどして、「デザインの引き出し」を増やすことも大事かと思います。引き出しを増やすためのポイントはありますか?
トヨマネ:まずは、職場に一人はいる“資料作成のうまい人”を徹底的に研究すること。それ以外でいうなら、デザインに関しては配布されている二次利用可能なテンプレートをどんどん利用するのがいいと思いますよ。インターネットを検索すればデザイナーさんが作成したクオリティの高いテンプレートがいくらでも見つかりますから。
——最近は「資料を作らないし、使わない」という企業が増えています。資料のプロとしてそうした潮流をどう見ていますか。
トヨマネ:実は私もパワポの資料なんて使わなくていいならそのほうがいいと思っています。誤解なく伝わるのであれば、文章だけでもかまわない。だって、資料の目的は相手に伝えることですから、資料を使わずに伝えたいことが伝わるならその方が時間もかからないし、合理的じゃないですか。
資料不要論を掲げている企業というのは、別に伝えることを放棄しているわけじゃなくて、パワポのようなビジュアル資料で伝えないことにしたというだけなんです。だからそういった会社はPowerPointを使わない代わりにWordなどで伝えていることが多い。
ただし、「文章で正確に伝えること」と「パッと見て分かりやすいこと」は両立が難しいものです。文章を読んで理解するのは時間がかかりますからね。例えば忙しい経営者にプレゼンするような場合は、内容をすべてWordの文章で伝えるのではなく、一目で理解できるパワポ資料にした方が適切なことも多いでしょう。
——結論として、トヨマネさんが考える「クオリティの高い資料」とは何でしょう?
トヨマネ:結局のところ、「クオリティの高い資料」とは「目的達成の確率が高い資料」であり、そのために適切な手段を選ぶという結論に帰結するんです。
取材・文:山田井ユウキ
撮影:小野奈那子