“声優”という仕事のリアルがわかるおすすめ本『大塚明夫の声優塾』『声優魂』
SBSラジオ「TOROアニメーション総研」のイチオシコーナー、人気アニメ評論家の藤津さんが語る『藤津亮太のアニメラボ』。今回は声優の大塚明夫さんが書いた本についてお話を伺いました。※以下語り、藤津亮太さん
声優志望者必読の2冊!
今日は大塚明夫さんが、声優について書いた本を2冊ご紹介しようと思います。1冊目は、2015年に出た『声優魂』(星海社新書)。ご本人のキャリアにも触れていますが、基本的には声優という仕事の大変さと魅力について書かれています。帯と表紙の見返しには「声優だけはやめておけ」との厳しい言葉もあり、はっきりといろいろ書かれているのが印象的な本です。
もう1冊が『大塚明夫の声優塾』(星海社新書)。これは2016年に出た本なのですが、徳島の「マチ★アソビ」というイベントの再録です。声優志望者から募った受講生は、台本に出てくる4人のキャラクターをどういうふうに読み取ったかというキャラクターシートに記入。1人のキャラクターを選んで演じて、事前にその音声を提出。イベント当日に大塚さんが1人1人のお芝居を聞いて講評していくという内容で、それがそのまま本になっています。
どちらもとても面白い本なのですが、両方で伝えたいのは声優という仕事にはいろいろな側面があるけれども、技術は裏切らないという点です。
『声優魂』にあるエピソードをざっくり紹介すると、こんな内容です。
世間からそんなに上手くないと思われてる人でも人気のある場合があります。それには、それ以外の要素、「華がある」とか「かっこいい・かわいい」から始まって、エンターテイナーで場を盛り上げる力がすごくあるとか、そういうトータルの力があって、その人気があるわけです。
そして得てして、そういう人が持っている“武器”は、天賦の才の度合いが高い、その人が最初から持っているものである場合が多いです。
それに比べ、技術は自分で努力し、磨くことができます。選ばれる声優になれる根拠として、技術だけは自分の力で伸ばしていける武器なんです。技術が裏切らないというのは、自分が努力した分だけちゃんと返ってくるということなんですね。
また『声優魂』の中では、声優の仕事を音楽に例えて解説している部分もあります。
例えば大塚さんは、台詞には楽器演奏と同じようにコードがあると説明します。だから、仕事をする人間は、コードを読む力と、自分のコードを操る技術力が必要になるわけです。
センスのある役者はコードへの感性がとても強く、最適なコードを素早く察知することができますし、少しのアドバイスにも機敏に反応できるそうです。長台詞になると、そのあたりの腕は全部バレますし、非常に細やかなコードのコントロール能力が必要になる、という指摘も書かれています。
逆にコードから外れた音をあえて使えるのは、よほどの名プレーヤーか、ど下手だけという指摘もありますが、これが難しいところで、正しいコードしか押さえられない役者というのはそれはそれでつまらない印象を与えてしまう…ということもあるそうです。この2種類のバランスをどうとるかがお芝居では難しいところだそうです。
『声優魂』に書かれていることは基礎編で、大塚さんの考えた原理原則が書かれていますが、『声優塾』には、実際に声優志望者の演技を聞いて大塚さんが講評したことが書かれています。
滋賀県在住、21歳女性の例をご紹介しましょう。大阪の養成所まで毎週レッスンに通っている人ですが、彼女が書いたキャラクターシートを前提に聞いて、大塚さんは「ずいぶん意地悪に聞こえるね」と言うんです。分析ではそう書かれてない。「自分なりにキャラクターを理解しているけど、それが音になってないよね」と。
なぜこんなに分析とずれてしまうのか。そこからその女性のお芝居をひとつひとつ分析して、できていることとできていないことを解説していきます。そういうところがすごく丁寧に書かれたおもしろい本で、実際に受講した人たちが出した音声が聞けるようにQRコードも付いています。
技術というのは伝える技であり、それを活かして仕事をしていくのが声優の一つ大きい側面で、『声優魂』の中ではスタジオミュージシャンみたいだという話が書かれています。
スタジオミュージシャンは自分で練習をしてきて、現場へ来たら、そこで言われたことができないと駄目。声優にもその側面があって、でもその技をちゃんと身につけていくことは、自分を裏切らないんですよね。ただ売れるかどうかは別問題。だから逆に言うと、そこまでしてと思わないならやめてもいいんだよ、誰がやれと命じたわけではないんだからということが書かれています。
声優という職業は厳しさの裏返しだけれどこれだけ面白いものだよ、この山をどうしても登りたいなら登ってこいと語っている2冊です。読むと声優さんのお芝居に対する感覚が研ぎ澄まされますので、ぜひ読んでいただきたいと思います。