“全力の今”をドラマティックに描く! ミュージカル『新テニスの王子様』The Fourth Stage ゲネプロレポート
2024年8月9日(金)東京・日本青年館大ホールにて初日の幕が開いた、ミュージカル『新テニスの王子様』The Fourth Stage。その本番直前のゲネプロの様子をレポートする。
「U-17 WORLD CUP(アンダーセブンティーン ワールドカップ)」という大舞台で世界を相手に戦っているU-17(アンダーセブンティーン)日本代表チーム。彼らの次の対戦相手は9連覇という驚異の強さを誇るドイツだ。第一幕、幕開け早々全選手揃ってのオープニングナンバーでグッとアドレナリンを放出させたら……そこからはもう試合、試合、試合! どちらがセミファイナルを勝ち抜けるかの熱いぶつかり合いあるのみ、だ。
第1試合はドイツ代表のQ・P(パース・ナクン)vs 日本代表の鬼 十次郎(岡本悠紀)。“クオリティ・オブ・パーフェクト”と“元日本ナンバーワン”の戦いだ。静かにたぎる感情を噛み締めながら試合の中で経験値を増やし、“究極”の域へとその手を伸ばすQ・P。優しい歌声を響かせ無邪気にコートを駆け巡る姿から一転、後輩たちの道標となるべくまさに鬼と化して全力で勝ちへの執念を見せつける鬼。タイプの異なる選手の対比も鮮やかだった。
第2試合はドイツ代表のダンクマール・シュナイダー(冨森ジャスティン)&ベルティ・B・ボルク(ハルバーソン太陽)vs日本代表のデューク渡邊(大久保圭介)&仁王雅治(内海太一)のダブルス。驚きと楽しさと個性を詰め込んだ一戦である。ペアとしてのコンビネーションの厚みでナイスプレイを重ねるドイツに対し、仁王のイリュージョンによりデュークまでもが息を合わせて“麗しのフォーム”を見せる新鮮な展開も。
続いては第3試合のシングルス。ドイツ代表となった手塚国光(手島章斗)vs 日本代表の幸村精市(藤田浩太朗)が“自分のために戦う”ことに向き合い、今できるすべてを出し合って、じっくりじっくり、誠実かつ大胆に力強い試合を見せつけてくれる。
ここで挟まれるのが、アメリカ代表のラルフ・ラインハート(ルーク・ヨウスケ・クロフォード)vs スペイン代表の越前リョーガ(井澤勇貴)の試合。どうやらそこにある“因縁”は、『新テニスの王子様』という物語のこの先の波乱を大いに示唆しており……というところで第一幕が終了。第4試合ドイツ代表のミハエル・ビスマルク(バーンズ勇気)& エルマー・ジークフリート(チャーリー)vs日本代表の種ヶ島修二 (秋沢健太朗)&切原赤也(古川流唯)のダブルスから第二幕となった。ここではエルマーと赤也の“変則シングルス”を経てのダブルスという予想外の展開の中、それぞれの心の忘れ物の回収と未来への一歩が綴られた。
そして互いに一歩も引けない状況で迎えた最終戦、第5試合はドイツ代表のユルゲン・バリーサヴィチ・ボルク(ザック小林)vs日本代表の平等院鳳凰(佐々木 崇)のシングルだ。現役最強プロとしても名の通ったボルクに、のっけから持てる全ての技で挑んでいく平等院。しかしボルクは無駄のない動きで確実にかわしていく。さらに相手に記憶障害を起こさせる“螺旋の洗礼”を発動し、平等院はタイムループのように利くはずもない同じ攻撃を繰り返すことに——。
ここまでのどの試合もその展開一つひとつに釘付けになり、手に汗握りながら選手たちのファイトに心奪われてきたが、これほどまでに凄まじいテニスプレーヤー魂に触れることもなかなかないほどに圧倒的な試合となったボルク・平等院戦、命懸けのテニス。試合終盤、もはや1対1の試合ではなくチーム対チームの精神のぶつかり合いなんだと日独全体のうねりが広がっていく決着のナンバーに辿り着いた時には、辛さと苦しさの先にあった楽しさを見つけることができ、本当に胸のすく思いに満たされた。誰もが誰かを信じ、支え、心を寄せながら、自分もしっかりと立っていくのだと思える場にいられる幸せ。そんなあたたかくかけがえのない青春像が、ここにある。
冒頭にも触れたが、試合、試合、試合のたたみかけとなっていく本作は、舞台上をなるべく広く使って“スポーツ”を見せるという目的もあるのだろう、舞台上は非常にシンプルだった。大きく円形のスペースを取ったテニスコートエリアとネット以外はほぼセットがなく、それが試合のダイナミックさを際立たせている。一方でフランス代表のトリスタン・バルドー(鮎川太陽)やスペイン代表のアントニオ・ダ・メダノレ(當間ローズ)、ロミオ・フェルナンデス(Sion)の登場シーンではセットや振り付けもゴージャスにショーアップされたイメージが広がっていた。そんなバランスもまたテニミュシリーズの魅力。ミュージカルの面白さが多方面に散りばめられてこそのテニミュだ。
ドイツ戦の間はサポートに回っていた越前リョーマ(今牧輝琉)と跡部景吾(高橋怜也)も新たな仲間のとてつもないテニスの連打を目の当たりにし、もはや“試合したいチャージ”は満タン。エピローグでは次に向けてほとばしる情熱やある種の悔しさをも吐露、次の爆発へと思いを繋いでいた。
“この試合”に至るまでの各々が過ごしてきた時間と“全力の今”をドラマティックに描いたドイツ戦。その大きすぎる余韻を噛み締めつつ、まだまだ誰も知らない新テニミュが待っているぞ、という期待も新たになる充実の一作である。
キャストコメント
■越前リョーマ 役:今牧輝琉
猛暑の中で新テニミュの公演を行うのは初めてなので、すごく新鮮な気持ちです! The Third Stage から約1年ぶりの本公演になるのですが、フランス戦を経てドイツ戦ということで、国も増えてよりカラフルな公演になるのではないかなとワクワクしています。いつもより日本代表としてのキャストは少ないですが、一人ひとりの存在感や僕たちが創り上げてきたものを実感しながらの稽古は、ここにはいない日本代表の姿が思い出せるようで楽しかったです。リョーマはドイツ戦で試合がないのですが、ベンチにいる佇まいや試合を観ている姿を観ていただくことで感じてもらえることもたくさんあると思います。ドイツ戦もしっかり観ていただきつつ、視界の端でリョーマを感じてもらえたら嬉しいです(笑)! 新テニミュのテーマは“愛”だと思っているんですが、僕たちキャストももちろん、作品を愛する皆さまがいたからこそ、ミュージカル『テニスの王子様』シリーズは 20年以上続いてきた作品だと思っています。22年目に入って最初の本公演を新テニミュ The Fourth Stage 組が盛り上げていきますし、応援してくださるファンの皆さまと一緒に全力で戦っていきたいと思います。最後までよろしくお願いします!
■平等院鳳凰 役:佐々木 崇
この日を待ちに待っていました。今回の The Fourth Stage はエンターテイメント性、ドラマ性がたっぷり詰め込まれた作品になっております。3時間半が、体感としてはあっという間に感じられるくらい詰まった作品になっています。平等院鳳凰としてはボルク戦が集大成だと思っています。僕が平等院をやらせていただくことになった The Second Stage の頃から、この試合は絶対やりたい!と強く思っていて、今回その願いが叶うことになりました。原作を読んで平等院とボルクのこの試合にとても感動しました。その感動を舞台上で皆さまに感じていただけよう、ボルクと一緒に稽古をしてきましたので、実際の試合さながらの興奮をお約束します。作品の中でも、滅んで、そして蘇って、毎公演死ぬ気で向かっていきます。ミュージカル『テニスの王子様』シリーズがなぜ20年を超えて長く愛されているのか、今回観に来ていただければ納得していただけると思います。ぜひ劇場に足をお運びください、よろしくお願いします。
■ユルゲン・バリーサヴィチ・ボルク 役:ザック小林
初日を前にして緊張はしていますが、昨年より舞台に慣れてきたので、今はとてもワクワクしています。昨年と同じように、公演の期間は一瞬で終わってしまうように感じると思うので、もう始まってしまうことが悲しくてちょっと泣きそうです。ボルクの見た目は、ストイックで厳しく怖いと思いますが、本当の中身は優しいところもあります。例えばすごくチーム想いでみんなにベストを尽くしてほしくて、何でもサポートしたり気を配ったりするキャラクターなので、ここまで演じてきてボルク自身をもっと好きになりました。ボルクを演じられることを嬉しく思います。今回はドイツの本戦なので頑張っていきたいと思います。当然、ドイツが勝つので、楽しみにしていてください!
■アントニオ・ダ・メダノレ 役:當間ローズ
僕自身スペインにルーツがありまして、今回アントニオ・ダ・メダノレを演じさせていただくことをすごく楽しみにしていました。稽古の時から早く初日を迎えたいとずっと思っていたので、この日を迎えられて本当に嬉しいです。ファンの皆さまに早く観ていただきたいです! メダノレはまだ謎が多いキャラクターなのですが、ただならぬ強者のオーラが感じられるところが魅力だと思います。今回の公演ではとにかくセクシーに演じたいと思います(笑)。それからスペイン代表の曲がめちゃくちゃカッコイイです! 曲が流れた瞬間に皆さまをスペインに誘えると思うのでぜひ楽しみにしていてください。実は昨年スペインに行って、自分のルーツに関わるお仕事ができたらいいなと思っていたところに新テニミュのお話をいただいたんです。なので僕が今回メダノレを演じられるのは運命の巡り合わせだと思っています。スペインでは、サグラダ・ファミリアに行ったのですが、そこで建築家・ガウディの「良いこと、美しいものを作るために技術は大事だけれど第一に愛が必要」という意味の素晴らしい言葉に出会い感銘を受けました。今回の The Fourth Stage で僕たちのサグラダ・ファミリアを作りたいと思います! 最後まで応援よろしくお願いします。
取材・文=横澤由香