“誰でも使えるはず”なのに——産後ケア、届かぬ現実
今日は、「産後ケア」のお話です。先週、「出生数が初めて70万人を下回った」というニュースがありました。「子どもを産みたい」と思える環境づくりも大切ですが、今、注目されているのが、「産んだ後」のサポート=産後ケアです。これは、産後のお母さんが「ひとりの時間」を持ったり、育児の相談ができたりするサービスで、宿泊型や訪問型など様々な形があります。
産後ケアが銭湯にやってきた!
今回は、神奈川県でちょっと珍しいスタイルの産後ケアを提供している助産師さんがいるということで、現場に行ってきました。NPO法人コハグの大貫 詩織さんのお話。
NPO法人コハグ 大貫 詩織さん
「産後ケア銭湯」というサービスを運営しておりまして、地域の中にあるスーパー銭湯の中に、産後ケアの機能だけを出張して、助産師とか、保育士だとかのチームでお伺いをして、赤ちゃんをお預かりして、その間に親御さんにはゆっくりお風呂に入ったり、ご飯を食べたり、休憩を取っていただいたりするというようなことをやっております。
元々私が自分自身の産前からスーパー銭湯という場所がすごく好きで。産後って子育てをしながらゆっくりお風呂に入ることも難しいし、ゆっくり温かいご飯を食べることも難しいし、ゆっくり1人でちょっと休むっていうこともすごく難しいんですが、それを1つの施設の中で全部できるっていう場所がスーパー銭湯だなと思ってまして、その場所に助産師がいてくれれば、これは凄く素敵なことになるんじゃないかなと思ったのが場所を選んだきっかけでした。
産後ケア銭湯は、「湘南台温泉・らく」の中で実施されています
スーパー銭湯の営業中に行うため、このような看板もありました
藤沢市のスーパー銭湯「湘南台温泉・らく」。その一角に託児スペースを作って、「赤ちゃんの面倒は見ておくので、お母さんはお風呂にどうぞ」と、産後ケアを実施しています。
こちらのスーパー銭湯は、3階建ての大きな施設で、一日ゆっくりするにはちょうど良いようです。朝10時~夕方4時まで、最大6時間、面倒を見てくれるので、その間お母さんたちは好きなように過ごせます。
ちなみに、一般的な産後ケアはの多くは市町村が運営していて、病院や助産院が委託を受けて実施。一方、「産後ケア銭湯」は月に2回の開催。2年前にスタートし、生後1~4カ月の赤ちゃんが対象。料金は7980円。これにスーパー銭湯の利用料(千円弱)が加わりますが、毎回6人の定員はすぐに満席になるそうです。
「助産師さんがいるから、安心できる」利用者の声
では、実際に来ていたお母さんたちは、「産後ケア」、どう感じているのか?感想を聞いてみました。
2ヶ月です。結構細切れ睡眠なので、ゆっくりできてなくて退院してから。
3ヶ月です。看護師さんとか助産師さんとかが面倒を見てくださってすごい安心できるし、病院だとまた入院してるみたいな感じがしちゃって落ち着かないなって思って。
今、4ヶ月になりました。ちょうど旦那も育休中で利用しました。(旦那)今日2人で来てます。助産師さんがいるので、じゃあ2人で育児をしようってなった時に向けて、今困ってるんだっていうのを、気軽に聞ける。
今3ヶ月です。ゆっくりさせてもらって、かなり。あっという間でした。何してたんだろうっていう記憶ないぐらいあっという間でした。
温浴施設の一角に、ベッドが並べられています
お風呂、マッサージ、ご飯に仮眠…みなさん本当に満喫されていて、銭湯という場所の魅力も感じました。とはいえ、こうした民間のサービスは一部。じゃあ、もっと身近にあるはずの「行政の産後ケア」はどうなのか?利用者に聞いてみると、「思っていたより使いづらい」という声が多く聞かれました。
予約、4カ月、手続き、費用…「壁だらけ」の産後ケア
市の方でも(産後ケアが)あるんですけど使ってなくて。利用日の1週間前までに申請しないといけなくて、「明日使いたいな」とかができない。
産後ケアって大体生後4カ月までしか使えないところが多くて。4ヶ月って結構あっという間。せめて1年ぐらい使えたらいいなっていうのは、すごい周りの友達とかも言ってます。
利用するには様々な「壁」があるようです。まず、使いたいと思った時にすぐに申し込めない「予約の壁」。さらに生後4ヵ月までに対象を絞る「4ヵ月の壁」(寝返りを始める月齢で、人員的に現場の対応が難しい)。加えて、「費用の壁」。特に民間の宿泊型のサービスだと一泊5~6万円が相場だそうです。
こうした様々な「壁」に跳ね返されて、実際に利用できているのは、お母さんたちのうち、わずか1割という報告も、こども家庭庁から出ています。
「誰でもどうぞ」が通用しない。「4ヶ月の壁」の背景にあるもの
なぜここまでニーズがあるのに、制度がうまく機能していないのか?その背景を、大貫さんに聞きました。
NPO法人コハグ 大貫 詩織さん
自治体の中に、産後ケアを提供できる事業者がどれだけいるか。受け皿がどれだけあるのかっていうのは、かなりばらつきがあるところで。地域によっては、産後ケアの施設が1個しかありませんとか、そういったところもたくさんありますよね。そうすると、「ご希望の方、誰でもどうぞ」という風にしてると、予約枠が全く確保できなかったりする。だからこそ限られた資源の中で、利用者を「本当に大変な方」と制限したり、月齢「4ヶ月まで」と制限をせざるを得ない状況っていうのもあると思います。
私も自分が子育てした時に眠くて泣くんだ自分ってびっくりしたんですけど、夜中に「眠いよ」って泣いてるお母さんがスマホでちょっと検索して「朝になったら、ここで産後ケア銭湯をやってる。予約取って行こう。よしあと4時間経てば寝れる。よし踏ん張れる」っていうお母さんが増えたらいいなと思います。
大貫さんによると、受け皿がまだまだ少ないようです。
「誰もが使える産後ケア」というを、こども家庭庁は掲げて制度を広げてきましたが、「近くにない」「予約が取れない」といった声ばかり。制度はあっても、使えなければ絵に描いた餅。制度をつくるだけじゃなくて、「どうしたら届くか」も、考えていく段階になっているようです。
(TBSラジオ「森本毅郎・スタンバイ!」取材:田中ひとみ)