【不登校】新学期・夏休み明けに子どもの心を救う 親の4つの「言葉」〔子どものストレスの専門家〕が解説
新学期がつらい子どものために親ができることは? 子どものストレスマネジメントの専門家に、思春期特有のSOSに気づくヒント・声かけのコツを聞きました
【画像】不登校・心の悩み「相談先」リスト いざという時に知っておきたい相談窓口「不安そうだけれど、何を聞いても返事がない」「急に怒りっぽくなった」
いずれも思春期の子どもによくある姿。とくに夏休み明けには登校を憂鬱に感じる子どもが増え、中学生では9月を境に不登校が始まるケースも多くなっています。
「励ますつもりの一言がかえって子どもの心を追いつめてしまうのでは」と、かける言葉に迷うこともあるのではないでしょうか。
子どものストレスマネジメントの専門家である小関俊祐先生に、思春期特有のSOSに気づくヒントや声かけのコツを聞きました。
新学期・休み明け なぜ子どもはつらくなるのか
子どもにとって、夏休みは楽しいもの。しかしその一方、自由度の高さが心身の不調につながったり、登校が不安になったりすることもあると、小関先生は指摘します。
生活習慣の乱れによる不調
夏休みなどの長期休暇中は夜更かしやゲーム時間が増え、生活時間は不規則になりがち。睡眠不足や食欲不振、疲れやすさなど身体的な不調につながる恐れもあります。
しかも、休みの期間が長いほど、生活リズムの立て直しは難しくなります。
思春期特有の精神的・身体的変化や心の揺れ
小学校高学年から中学校、高校にかけては、成長期特有のさまざまな身体的変化に、悩みや不安を感じがちな時期。
また、大人よりも物事を深刻に受け止め、「夏休みが終わったら、また一からやり直しだ」と悲観的に考える子どももいることでしょう。
小関先生……「楽しいことよりもネガティブなことに目が向きがちなのは誰しもありうることです。ストレスを乗り越えたという経験を、少しずつ積み重ねられるとよいのでは」
人間関係・学校での要因
「私、学校イヤだなあ」「私も」──そんな友人とのやり取りやSNSでネガティブな感情を共有し合い、憂鬱な気持ちが大きくなるケースもあります。
加えて、夏休み前の友人トラブルや勉強への不安、部活動の悩みなどが未解決のまま残っている場合も、学校に向かう足取りは重くなりがちです。
我が子の小さなSOSに気づくには
思春期に入ると、子どもの気持ちは読み取りづらくなるもの。親は「言葉以外の変化」に注目しながら、子どもが出すサインを見極める必要があります。
こんな様子があったら気に留めて
身体的な変化として、小関先生は以下を挙げます。「眠れない・食べられない」ことに加え、「寝すぎる・食べすぎる」もSOSのサインのひとつ。
単に、「よく寝て・よく食べている」のではなく、いつもと違う様子なら注意が必要です。
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《身体的なSOSサインの一例》・眠れない/寝すぎてしまう
・食べられない/食べすぎてしまう
・頭痛や腹痛など、身体の痛みとして現れることも
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心のSOSも、落ち込みや泣くことだけにとどまりません。
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《心理的なSOSサインの一例》・落ち込み、しくしく泣く、無気力
・怒りっぽい/激しく怒りを表す
・「寝なくても元気」など、不自然な高揚感が現れることも
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SOSサインに気づくための方法
思春期の子どもは、親が「悩んでること、ない?」と聞いても「別に」「何も」という返事が多いかもしれません。「何かあったら言ってね」と伝えつつ、さりげなく気を配ることが大切です。
とはいえ、夏休みの間じゅう様子を注視するのも、親子共に疲れるもの。
小関先生は、ときどき「どう? 夏休み楽しい?」と軽く聞きつつ、「いつもと違うことはないか」という視点で見守ることを勧めます。
小関先生……「『おやすみ』と自室に入る時間と実際に就寝している時間が大きく異なるなど、見えにくい様子にも注意しましょう。また、口の重い子どもの場合は、他の親とのネットワークが役立つ場合も。子どもが親に直接言えない悩みが、別のルートから入ってくることがあります」
もし、子どもが何らかの形でSOSサインを出していると感じたら、親はどう接すれば良いのでしょうか。
子どもを救う「4つの言葉」とNGワード
小関先生は、「家庭の雰囲気や親子それぞれの個性はさまざま。子どもへの声かけに、初めから正解・不正解が決まっているわけではありません」と言います。
大切なのは、対話をしながら一緒に考えるスタンス。声かけの例を参考に、「我が家なりの最適解」を探っていきましょう。
【1】「あなたはどうしたい?」
子どもが学校に行きたくないと訴えたら、子どもの気持ちを掘り下げ、一緒に解決策を探す姿勢を示すことが大切です。
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【声かけ例】「どうしたい? 今日できそうなことと、できなさそうなこと、どんなことがある? できそうなことだけできるように、先生に一緒に相談してみようか」
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逆に避けたいのは、
「お母さんも仕事があるのに、わがまま言わないでよ!」
と𠮟ったり、
「勝手にしなさい! もう知らない!」
と突き放したりすること。このような対応だと、子どもの不安は増大しがちです。
一方、
「お休みしましょう。ゲームでもテレビでも、好きに過ごして」
と、放任するのもNG。学校を休ませる必要があるケースももちろんあります。しかし、単なる放置では、問題が解決しないまま、生活リズムが乱れてしまう恐れもあります。
【2】「ほかの可能性は?」
思春期の子どもは、狭い視野の中で悩みがち。
例えば、子どもが「友達にLINEを既読スルーされた。嫌われているんだ」と悩んでいるとします。
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【声かけ例】「まあ、そういうこともあるかもね。ほかにどんな可能性がありそう? 例えば、あなたがお母さんのLINEを既読スルーしているときって、嫌いだから無視しているの?」
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こんな声かけをすると、子どもは、「別にそうじゃないよ。忙しいだけ」「返事しようと思っていても、忘れることもあるよ」などと答えるのではないでしょうか。
同じく、夏休み明けを前に「どうせ僕なんて勉強できないし」「私には友達が少ないから学校に行きたくない」などと言っていたら、「ほかの考え方があるかもしれないよ」など、ちょっと違った視点をもてるような声かけをしてあげましょう。
小関先生……「いい意味で思考を揺さぶり、ちょっと緩めてあげる。そうすることで、子どもはほかの考え方があることに気づき、楽になるかもしれません」
【3】「どうしたらいいと思う?」
小関先生は「子どもたちは小さいころから『自分でできることは自分でやりなさい』と言われることが多かったのでは」と指摘します。
小関先生……「自立心を育むためにはいいことですが、『甘えてはいけない』と思いこんだり、困ったときのヘルプの出し方が分からなかったりすると、本当に援助が必要なときに隠すことになりかねません」
大切なのは、自分でできることと、できないこととを正しく見きわめる力。そして、自分でできないことを、誰に、どのように、どんなタイミングでヘルプを出すか、適切に選択する能力です。
そこで効果的なのは、まず親が子どもに頼ること。
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【声かけ例】「お母さん、最近○○で悩んでいるんだよね。どうしたらいいと思う?」
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小関先生……「僕自身も、我が子に『お父さん、仕事に行きたくないなあ。励ましの言葉をちょうだい』と言うことがあります。親が自らの弱さや感情を子どもに共有することで、子どもも親に相談しやすくなりますし、『こうあるべき』という固定観念を和らげる効果もあるのです」
【4】「できそうなことを一緒に考えよう」
もうすぐ夏休みが終わるのに、課題に手をつけていない。そんな気がかりが積み重なり、学校へ行けなくなる子どももいます。
親の焦りも無理ないことですが、余裕をなくして𠮟っては元も子もありません。
実は、こんなときこそ問題解決力を高めるチャンス。子どもの気持ちを受け止めつつ、親が一方的に答えを出すのではなく、子どもと一緒に解決策を考えてみましょう。
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【声かけ例】「できそうなやり方を探そう。どんな方法があるかな?」
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「先生に相談する」「開き直って答えを写す」「友達に手伝ってもらう」「親が手伝う」など、実は対応の選択肢はたくさん。
子ども自身に「これならやれそう」と思える選択肢を選ばせ、実行をサポートしましょう。
小関先生……「幼いころのように親が一方的に提案するのではなく、一緒に解決策を考えることが大切です。子どもは『できなかったから学校を休む』以外の選択肢にも気づけるようになります」
とはいえ、いざ子どもが「学校がつらい」と言い出したり、部屋から出てこなくなってしまったりしたら、親は動揺するもの。時には最悪のケースを想像し、胸が苦しくなることもあるのではないでしょうか。
後編では、子どもの自殺など深刻な問題を防ぐ親の対応・家庭で取り組めるストレス対処法を、状況別にお伝えします。
深刻な悩み 相談先の例
小関先生が作成に携わった「子どもとのかかわりを通して育む 保護者と子どものこころの健康」に掲載されている、困ったときの相談先を紹介します。
◎市町村の児童家庭相談窓口
子どもや子育ての心配や悩みの相談、アドバイスの提供などが得られる。「自治体名+子育て相談」などで検索。
◎児童相談所虐待対応ダイヤル
子育てが辛いと感じるときなどに相談できる全国共通ダイヤル。TEL:189(いちはやく)。
◎こどもの心の診療機関マップ(国立研究開発法人 国立成育医療研究センター)
子どもの心の診療ネットワーク事業による、子どもの心のケアを行っている病院やクリニック等の検索マップ。「こどもの心の診療機関マップ」で検索。
◎こころの健康相談統一ダイヤル
電話をかけた所在地の都道府県や政令指定都市が実施している「こころの健康電話相談」等の公的な相談機関に接続。TEL:0570-064-556(ナビダイヤル)
引用:特定非営利活動法人 日本医療政策機構(Health and Global Policy Institute; HGPI)
「子どもとのかかわりを通して育む 保護者と子どものこころの健康」
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子どものストレスマネジメントをテーマに、小関俊祐先生にお話を伺う連載は前後編。
思春期特有のSOSに気づくヒントや言葉かけについてお聞きしたこの前編に続き、次回の後編では「夏休み明け・新学期」の前に知っておきたい親の対応と、家庭で取り組めるストレス対処法について伺います。