山本餃子
住宅に流れる焼き餃子の香り
御成通りの喧騒を横切って少し歩いた先——観光の熱をすっと通り抜けた、生活の匂いが漂い始める静けさの中に、山本餃子はあります。
店構えに派手さはありませんが、風に揺れる赤い提灯と暖簾、イメージキャラクター・餃子くんの丸い看板には不思議な引力を感じます。
地元の人が親しみを込めて“ヤマギョー”と呼ぶ、餃子の専門店です。
手探りで育てた味わい
店内はカウンター7席だけの、いわゆる"うなぎの寝床"。入り口の簾から透けた光が、奥まで柔らかく届きます。
開業は2011年9月。店主・リオさんはそれまで外資系輸送会社に勤めていました。料理の修行はしておらず、店をやりながら手探りで味を作っていったといいます。
「鎌倉には有名な邦栄堂製麺さんがあるので、皮は最初からそこのを使うと決めていました。その後は、干しシイタケでだし感を出したり、見つけた調味料を試したり」とリオさん。「開店当初のお客さんが食べていた餃子は、今の味とは全然別物かも(笑)」
餃子の味は、お店と一緒に育ってきました。
"変わらない"という仕事
餃子定食(1,000円税込)を頼むと、まず小皿の“おかず”が出てきます。餃子が焼き上がるまでの、ちょっとした腹ごなし。
この日は「冷製ナスヨーグルトソース」と、塩でいただく豆腐でした。
続いて餃子、ごはん、鶏だしの塩スープが並びます。スープはささみからだしをとり、ねぎとしょうがで風味付けした、澄んだ一杯。
「これを飲むと体調がわかる」と語る常連がいるほど、体にやさしく沁みていきます。
すべて化学調味料は不使用。にらとにんにくを加えないのも特徴で、女性客が多い理由のひとつになっています。
「奇抜なアレンジ餃子は作りたくないんです」とリオさん。「餃子は毎日食べるものではないけれど、"どこに行っても餃子"という人もいます。うちの味を気に入ってくれて、週に1回リピートしてくれる人もいる。そういう人たちに向けて、うちの定番の味を、何回でも同じように作れるようにしたい」
料理には作り手の人柄がにじむものです。
この、地に足のつくような安心する味には、リオさんに会いたくなるのと同じように、時折ふっと戻りたくなります。
焼き音と氷の音が響くカウンター
カウンターの向こうで餃子が焼ける音を聞きながら、昼間から冷たいレモンサワーを楽しむ。そんな光景が似合う店でもあります。
ランチ営業が中心で、餃子定食は言うまでもなく不動の人気。それに加え、アルコールメニューが豊富で、季節の野菜を使ったおつまみが並ぶ日もあります。
アルコールとの相性は、餃子屋さんなればこそです。
「アーティストや個人経営の方が多い鎌倉という場所柄、明るい時間から飲む姿は珍しくありませんからね。ランチ時だというのに、誰も定食を頼まず、目の前で全員餃子をつまみに飲んでいる日もあって……これはさすがに、羨ましくなってしまってちょっとつらいですけど(笑)」とリオさんは笑います。
客層は観光客が半分、もう半分は地元の常連。雑誌やSNSの口コミを見て訪れる人もいれば、隣の病院帰りのおばあさんがふらりと立ち寄ることもあります。
世代も背景も違う人たちが肩を並べて餃子を頬張る、その自然な風景も、ヤマギョーの魅力です。
選んだ「餃子屋」という生き方
カウンターに座れば、独特のインテリアが目に留まります。20代の頃に渋谷の専門学校でインテリアを学んだ、リオさんのセンスが息づきます。
インテリアやアパレル、貿易など異業種での経験を経て、震災を機に「好きなことをして死にたい」と決めたリオさん。図書館に通う道すがら見つけた和菓子屋の元工房を改装し、わずか数か月で準備を整え当店を始めました。
「餃子屋になります」と会社に退職を告げたときは、あまりに突飛な話に、上司たちから笑われたそうです。
「お店をやるなら餃子」と思わせたのは、かつて足繁く通った東京・田町の『名前のない餃子屋』。文字通り看板はなく、掘っ立て小屋のようで、おばさんがひとりで切り盛りしていました。焼き餃子2種と水餃子、ご飯、瓶ビールだけのお店でした。
その潔さと味わいに夢中になり、自分のお店を持つとしたら——というイメージが固まっていったといいます。
頬がほころぶ"タミ絵"のタッチ
壁に飾られたユーモラスな日本画は、リオさんのおばあさんが80歳を超えてから描き始めた作品たちです。おばあさんの名前から“タミ絵”と呼ばれ、季節ごとに掛け替えられます。
カラフルで、動物も人間も草木もみんな横並びで、同じ風景の中で笑っています。当店の穏やかな雰囲気を演出している、陰の立役者です。
小豆島出身だったおばあさんは、映画『二十四の瞳』のロケ地となった分校の卒業生。お客さんの中に、お父さんがその分校の校長先生だったという方がいた縁から、「二十四の瞳映画村」内のギャラリーで個展が開かれたことがあります。店内では“タミ絵”の画集(1,800円税込)を手に取ることもできます。
リオさんが歩む"餃子道"
2022年10月には11周年を記念し、市内の公会堂・大町会館でパーティーが開かれました。コロナ禍で1年遅れとなった周年でした。
ドラマ『深夜食堂』のエンディング曲で知られる、親交のあるスーマーさんのライヴもあり、常連たちは大いに盛り上がりましたが、締めの挨拶でリオさんが口にした言葉が、ずっと印象に残っていました。
「これからも“餃子道”を突き詰めていきたい」
リオさんにとっての“餃子道”って何なんだろう。ずっと聞いてみたかった問いを投げてみました。
「他のことをやっちゃいけない気がするんです。いつまでも餃子を包んでいたい。それが使命のように思えて」とリオさん。「手を拡げると、とっちらかって、自分の芯がなくなってしまう怖さがある。だから、地味に、滋味に継続していく——そういうことかもしれません」
リオさんは続けます。
「餃子の字のごとく、"食"という行為を介して、エネルギーを交歓できる場というのが料理屋の醍醐味だなと日々思います。 そして、"食べる=時間とともに無くなるもの"を作るということが、自分の性に合っているように思えるんです」
今、リオさんが関心を持っているのは、台湾のベジタリアン料理と、素食や乾物を使った料理。そこから餃子作りに活かせるヒントを探しているそうです。
それは"変える"ためではなく、"深める"ため。
「今のまま、このままおばあさんになっていきたい」とリオさんは言います。
アウトロ
リオさんがひとりで営む山本餃子は、カウンターだけの小さなお店です。
もしこの店を訪れることがあったら、焼き音に耳を傾けながら、ゆっくりとその時間を味わってみてください。
餃子が焼きあがるまでの静かな待ち時間も、きっとこの店の一部です。
最寄り駅
JR横須賀線, 鎌倉駅
住所
鎌倉御成町9-6
駅徒歩
JR鎌倉駅西口より徒歩5分
営業日
水曜日, 木曜日, 金曜日, 土曜日, 日曜日
営業時間
11:30-19:30/18:30L.O
営業時間詳細
餃子売切れにより早じまいの場合があります。来店の際は、お店のInstagramをご確認ください。
定休日
月曜日, 火曜日
予約
不明(店舗にお問い合わせください)
電話番号
080-4474-7179
受付開始
登録なし
受付終了
登録なし
予算(下限)
1000
予算(上限)
3000
支払い方法
現金, QRコード決済
支払い方法詳細
QR決済はPayPayのみ
手数料
無し
席数
7席
席の種類
カウンター席
席の種類詳細
カウンターのみ
個室
無し
貸切
不明(店舗にお問い合わせください)
喫煙可否
全席禁煙
駐車場
無し
最大駐車台数
店舗向かいコインパーキング有
設備・サービス
落ち着いた空間
コース内容
無し
ドリンクメニュー
ソフトドリンク, ビール, 日本酒, 焼酎
利用シーン
ランチ, デート, 子ども, 友人, お一人様
アクセス
隠れ家レストラン
サービス
お子様連れ
可能
公式サイト
https://www.instagram.com/yamagyo/