コスパが高い理想のベスト年収は?手取り額を試算してみた
「給料は多ければ多い方が良い!」というのはある意味誰にとっても正義ではありますが、給料が増えれば増えるほど税率は累進的に上がっていくため、額面に対する手取り率はどんどん下がってしまいます。
それ以外にも、給料が一定以上の額を超えてしまうと、公的支援や手当などがいざという時に受けられなくなってしまうこともあります。
そこで今回は、働き方と税金などのバランスを考えた上で、手取り率がよく、公的支援や各種手当などをすべて受けることができて一番得する「コスパの良い年収」の理想ラインはいったいどのあたりなのか。扶養家族ありの世帯の場合で考えていこうと思います。
給与年収が増加すると手取り率は減る
年収が増えると手取り額が増えることは間違いありませんが、年収の増加額と手取りの増加額は決して同じではありません。なぜなら給料からはさまざまなものが控除されており、その中には累進性のあるものも含まれているからです。
給料から天引きされるもの(控除)
給料は、額面通り支給されるわけではありません。基本給に残業代などの時間外手当や通勤手当などが合算された額面金額から、税金や社会保険料などが控除された金額が皆さんの銀行口座へ振り込まれます。したがって、皆さんの手取り額は以下のように算出されます。
手取り額=額面給与(基本給+残業手当+通勤手当など)-控除(税金+保険など)
基本給にどのような手当が支給されるのかは会社によって異なりますが、控除に関してはおおむねどの会社も同じです。そこで、給料から何が控除されるのかを簡単にまとめてみます。
源泉所得税・・・累進性あり。税率は最低5%から最高で45%まで復興特別所得税・・・所得税額の2.1%。平成25年から平成49年(令和19年)の間まで住民税・・・累進性はなく、税率は一律10%健康保険・・・給料から算出された標準報酬月額に一定の料率(約6%前後)を掛けた金額が給料から天引き。ちなみに、この料率は事業所の所在地によって微妙に異なる厚生年金・・・健康保険と同じく、給料から算出された標準報酬月額に9.15%を掛けた金額が給料から天引きされる雇用保険・・・就業している事業の内容によって、給料(および交通費など)の0.3%から0.4%程度が天引きされる
上記のように給料から天引きされるもののうち累進性があるのは所得税だけですが、最高税率は45%にも上るため、給料が増えれば増えるほど額面に対する手取り率はどんどん減っていくことになります。
年収が増えることのデメリット7つ
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年収が増えると良いのは言うまでもありませんが、年収が増えることにより不利になることもいくつかあります。
年収が増えるデメリット 所得税率が上がる
年収が増えると、下図のように所得税率も上がっていきます。
引用元 国税庁HP(https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/2260.htm)
ですから、外資系企業に勤める年収5000万円くらいの独身の方であれば、間違いなく年収の半分以上は所得税と住民税が占めることになります。
年収が増えるデメリット 給与所得控除額が収入に対して少なくなる
給与所得者の場合、必要経費(のようなもの)として以下の給与所得控除が認められています。
引用元 国税庁HP(https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1410.htm)
たとえば年収が300万円の場合であれば、300万円×30%+8万円=98万円の給与所得控除が認められています。したがって、300万円-98万円=202万円を給与所得控除後の金額とし、この金額をベースに税金の計算が行われます。つまり、給与所得控除の金額分だけ税金を安くしてもらっているわけですね。
これは年収が上がるにつれて段階的に増えるようになっていますが、年収が850万円を超えると、以降はどれだけ増えても給与所得控除は195万円と一定になってしまいます。つまり、これ以上増えると給与所得控除のコスパが悪くなってしまうわけです。
年収が増えるデメリット 配偶者控除が受けられなくなる
配偶者の年収が103万円以下の場合、配偶者を控除対象配偶者とする48万円の配偶者控除を受けることができます。
しかし、年収が900万円を超えると配偶者控除は減額されはじめ、年収が1000万円を超えてしまうと、これが一切受けられなくなってしまいます。
したがってその分だけ所得税や住民税が増額することになります。
年収が増えるデメリット 児童手当が廃止される
児童手当は中学卒業までの児童を養育している家庭に支給されており、たとえば子供が1人で配偶者の年収が103万円以下の合計3人家族の場合であれば、0歳~3歳未満までは月額1万5000円、3歳から中学を卒業するまでは月額1万円特例給付が支給されています。
したがって、中学を卒業するまでの間に合計で1人あたり約200万円の児童手当が支給されることになります。
しかし、夫婦のうち高い方の年収が960万円を超えると、児童手当は廃止されてしまいます(ただし特例給付として月額5000円が支給されています)。
年収が増えるデメリット 基礎控除がなくなる
年間所得が2400万円以下であれば基礎控除として誰でも48万円の控除が認められていますが、2400万円を超えると段階的に減額され、2500万円を超えると基礎控除が一切認められなくなります。
年収が増えるデメリット 住宅ローン控除がなくなる
住宅ローンを組んで住宅を購入すると、住宅ローン控除を受けることができます。たとえば令和3年に住宅ローンを組んだ場合であれば、最大で年間40万円の税額控除を10年間受け続けることができます。
しかし、年間所得が3000万円を超えると、住宅ローン控除を一切受けることができなくなります。
年収が増えるデメリット 公的支援の多くを受けられなくなる
年収が高くなると公的支援も受けられなくなります。たとえば住宅を購入した場合最大で50万円が支給される「すまい給付金」や、教育費負担軽減のための「高等学校等就学支援金制度」なども、年収が一定額を超えると受給することができなくなってしまいます。
コスパの良い理想の年収の定義と条件
ここまでのお話を踏まえた上で、コスパの良い年収をシミュレーションする前に「コスパの良い年収」の定義とその前提条件を決めておきたいと思います。
コスパの良い年収の定義
何をもって「コスパが良い年収」とするのかは、人によって異なります。したがって、ここでは以下の2パターンを「コスパの良い年収」として考えてみます。
・完全非課税
・所得税率10%
ちなみに、所得税率10%とは株式の売却益や配当金などに課税される税率と同率で、しばしば「金持ち優遇の低税率」と揶揄されています。したがって、完全非課税とこの税率10%の2種類をコスパの良い年収の税率と定義し、次章でのシミュレーションに用いることにします。
コスパの良い年収を計算するための条件
コスパの良い年収は、本人が独身なのか結婚しているのか、また子供などの扶養家族がいるのかどうかによって異なります。そこで、コスパの良い年収を計算するための条件として、世帯構成を以下のように定めます。
本人、配偶者(年収103万円以内の控除対象配偶者)、子供(15歳以下の扶養家族)の3人
これらの条件をもとに、コスパの良い年収がどのあたりになるのかを実際にシミュレーションしてみます。
コスパの良い理想の年収完全非課税なら220万円
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所得税や住民税が非課税となる範囲内で最も高い収入を考えた場合、年収およびその明細は以下のようになります。
所得税や住民税は非課税で額面に対する手取り率は84.5%とかなり高いですが、年間の手取り額が185万9880円のため、これだけでは家族3人で生活していくにはかなり難しいと思われます。
配偶者の収入と児童手当を加える
配偶者は控除対象配偶者であり、かつ15歳以下の子供が1人いる条件ですから、この手取り額に配偶者の収入と児童手当を加えてみます。すると世帯収入の手取り額は以下のように変化します。
配偶者の年収は100万円ですから非課税ですし、児童手当も課税されることはありません。ひと月あたりで使うことができる金額は約25万円ですから、この状態では将来のために貯蓄をすることは難しそうですが、物価の安い場所であれば、何とか暮らしていくことはできそうです。
非課税の範囲内で副業をしてみる
これらの収入に加え、非課税の範囲内で世帯主と配偶者の二人が副業をしたらどうなるかを考えてみます。
世帯収入の大半を担っている世帯主が副業に割ける時間は限られていますから、現実的に狙えそうなのは年間20万円以下の雑所得です。
年末調整済みの給与所得者であれば年間20万円以内の雑所得は確定申告の必要がありませんから、課税される心配はありません。内容としては、ポイントサイト経由でクレジットカードなどを作成してポイントを稼ぐ「ポイ活」や、アンケート調査などに協力して1件あたり100円前後のものを複数こなす程度でも、年間20万円であれば十分に射程圏内です。
いっぽう配偶者については、世帯主と比べると自由に使える時間があると考え、年間65万円の事業所得を副業として行ってみます。年間65万円の収益を上げるためにはひと月あたり5万円前後を稼がなければなりませんからハードルは少々高くなりますが、決して不可能な数字ではありません。
副業で得られた事業所得を青色申告で申告すれば青色申告控除として65万円が認められるため、こちらも年間の利益が65万円以下であれば所得税や住民税が課税されることはありません。
これらの副業収入を組み合わせると以下のようになります。
先ほどと比べると100万円近く世帯収入が増えるため、ひと月に使える金額は30万円を超え、随分と楽になります。ここまで世帯収入を上げることができれば、やり方次第では、将来のための貯蓄も決して不可能ではなくなります。
ちなみにこの金額(383万9880円)は、独身で年収500万円の場合の手取り額とほぼ同じです。
コスパの良い理想の年収所得税率10%なら600万円
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所得税率が10%で、かつ、あらゆる公的支援を受けることができる範囲内の年収を考えた場合、今回の条件であれば世帯主の年収は600万円前後がベストバランスと言えます。
完全非課税のケースと比べると手取り率は79.0%に下がりますが、それでも所得税や住民税がかなり抑えられているため、かなり高い水準と考えて良いでしょう。
配偶者の収入と児童手当を加える
こちらも、先ほどの完全非課税のケースと同じように配偶者の収入と児童手当を加えてみます。
これで、月額約49万円の手取り額となるわけですから、将来のための貯蓄や自宅の購入も十分に考えることが可能になります。
非課税の範囲内で副業をするとどうなるか
この状態で、先程と同じ条件で副業を行うとどうなるのかご紹介します。
ここまで来ると世帯単位での手取り額は月単位で約56万円となるわけですから、3人家族が暮らしていくのであれば十分すぎる金額です 。ちなみにこの金額(672万1500円)は、独身で年収925万円の場合の手取り額とほぼ同じとなります。
また参考までに、世帯主の年収が1000万円、配偶者が専業主婦で子供は15歳以下が1人の3人家族(副業なし)の場合の世帯収入は、以下のようになります。
両者を比べてみると、給料の額面は400万円違うものの、最終的な手取り額の差は75万円程度しかありません。年収1000万円の家庭の方が年収600万円の家庭よりも財布の紐が緩みがちであることを考えると、上手く節約すれば年収ほどの差を感じなくても済むでしょう。
コスパの良い理想の年収を決めるのは結局自分次第
年収が上がると給料の額面に対する手取り率は悪くなるため、いわゆる「コスパ」は悪くなりますが、その分だけ勤めている会社や同僚、国や地域などに対して貢献することができるようになります。
逆に、手取り率を上げるために所得税や住民税を非課税にしようとすると、年収を極端に下げなければならないため、これもあまり最善の選択枝とは言えません。
いずれにしても、どれくらいの年収がベストバランスなのかは、1人1人のライフスタイルによって千差万別です。これから先の長い社会人生活を送るにあたり、この記事がご自身の人生にとってどれくらいの年収が理想的であるのかを考えるきっかけになれば幸いです。