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まちに時告げるメロディー…釜石市民歌 85歳女性、市役所で熱唱「人生の応援歌」感謝込め

かまいし情報ポータルサイト〜縁とらんす


 釜石市内で毎日朝と昼、そして夕方の3回、防災行政無線から流れてくるメロディー...その曲は「釜石市民歌」。時を告げる「愛の鐘」(通称)として親しまれ、市民に耳なじみはあるが、「歌詞を知っているか」「歌えるか」といったら首をかしげる人も少なくないのではないか。そんな市民歌に励まされ、生きる力をもらってきた女性がいる。「市民歌、ありがとう」。そう何度も繰り返す、その人は長年、ある願いを持ち続けていた。「市役所前で歌いたい」。1日、多くの人に支えられ、その希望をかなえた。

 釜石市民歌は1937(昭和12)年の市制施行を記念して作られた。作詞は広瀬喜志、作曲は「長崎の鐘」「六甲おろし」「栄冠は君に輝く」などで知られる古関裕而が担当。鉄の都や港など、当時の市の産業を象徴する言葉が多く盛り込まれている。郷土の歴史を表す市民歌を受け継ぎ、郷土愛を深めてもらおうと、95(平成7)年、大町に石碑を設置。2005(同17)年からチャイムとして防災無線で市内全域に放送している。

 市民歌は私の応援歌-。そう話すのは、特別養護老人ホーム仙人の里(同市甲子町)に入所する若山節子さん(85)だ。1日、市役所本庁舎の玄関前。施設の職員が寄り添う中で、小野共市長や市職員らと共に5番まで熱唱し、「一緒に歌えて幸せ」と穏やかに笑った。

右手には握りこぶし。自身を鼓舞するように歌う若山さん


市職員らも若山さんと向き合って歌声を重ねた


 若山さんは中妻町出身で、4人きょうだいの一番上。幼少期に戦争で父を亡くし、母を助け家族を養うため、中学卒業後に上京して働いた。知り合いがおらず、慣れない土地での生活は孤独で寂しさが募り、仕事や人間関係にも悩み、「死にたい」と何度も思ったという。

 そんな時は多摩川の河川敷などで市民歌を思い出し、歌って自分を元気づけた。「ひとり寂しくとも、帰りたくても、帰れなかった。歌にどれだけ励まされたか…人生の応援歌です」。市民歌は生きる支えだった。

 結婚したが、夫は早世。静岡県・熱海のホテルで長く働いた。6年前、神奈川県内で交通事故に遭い、左足を骨折。手術した3日後には脳梗塞となり、左半身が不自由になった。車椅子生活となり、4年前に妹の釜澤典子さん(83)が暮らす釜石に帰郷。同施設を短期利用し、今年1月から長期に切り替えて生活する。

 幾度もつらい思いをしたが、その都度、市民歌を歌って困難を乗り越えてきた若山さん。施設でも毎日歌っていて、2年前からは何度も「感謝の気持ちを込めて、市役所の前で歌いたい」と職員に伝えていた。いつも一緒に歌っていた千葉敬施設長(64)らが、9月に開いた施設の敬老会に参加した市の保健福祉部長に相談。熱意を市が受け止め、実現した。

小野共市長(右)や千葉敬施設長(左)らも声を合わせた


 ♪おおこの命 釜石市~。2番の歌詞の最後のフレーズが若山さんのお気に入り。この日も感極まった様子で、胸に手を当てリズムをとりながら一言一言大切そうに声にした。一番元気が出る言葉であり、必ず涙が出る言葉でもあるという。

 希望をかなえた若山さんに「これから先は?」と聞いてみると…。「景気のいい時、戦争も見てきたけど、釜石は素晴らしいまち。自然の中でおいしいものを食べて、元気に楽しく過ごしたい。釜石市民歌、ありがとう。何十年も長生きできそう」と首をかしげてほほ笑んだ。

願いをかなえて元気いっぱいの若山さんと妹の釜澤典子さん(奥)


 そばで見守った釜澤さんは「責任感が強く、私たちのために苦労してくれた。願いをかなえてもらい、ありがたい。周りの人たちに本当に良くしてもらった」と目頭を押さえた。小野市長は「市民歌が生きる希望になっていたと聞き、市長としてこれほどうれしい話はない。誇らしい」と感激していた。

大町の目抜き通り、青葉通りに近い歩道の一角に釜石市民歌の石碑がある


 今回の市民歌熱唱には「多くの市民に歌ってもらうきっかけに」との思いもあるようだ。市職員に「歌えますか?」と聞いてみると、「1番なら」と答えが返ってきた。記者の私は……改めて歌詞を確かめようと、石碑を見に行ってみた。制作された当時のまちの様子を表す言葉の多くは、今の釜石が目指す姿にも重なる気がした。

 ♪仰げ颯爽(さっそう) 三陸の…。防災無線から流れるそのメロディーが聞こえたら、歌詞を口ずさんでみたい。「とりあえず1番は歌えるように」

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