【5月17日開幕】発達障害当事者と非当事者の溝をどう埋める?展覧会「修復の練習」共催シンポジウムーーオールマイノリティプロジェクト代表に聞く
「発達障害当事者と非当事者の溝」とは?オールマイノリティプロジェクト代表 大島郁葉先生インタビュー
発達障害の当事者が社会的孤立・孤独に陥らないフェアな社会の実現を目指すAll Minorities Project(オールマイノリティプロジェクト)。2025年5月17日より、ビジュアル展覧会「修復の練習」共催シンポジウムが開催されます。今回は、本プロジェクトの代表である千葉大学子どものこころの発達教育研究センター 大島郁葉先生のインタビューをお届けします。
LITALICO発達ナビ編集部(以下――)オールマイノリティプロジェクト 2025年ビジュアル展覧会「修復の練習」共催シンポジウムの開催、おめでとうございます!今回のテーマ「修復の練習:当事者と非当事者の溝を埋める」についてお伺いします。大島先生は研究者・支援者としての立場から、発達障害当事者の方と関わる機会が多いと思いますが、「発達障害当事者と非当事者の溝」とは、具体的にはどんなことがあげられるでしょうか?また、「修復の練習」という言葉に込められた思いを教えていただけますか?
大島郁葉先生(以下大島先生):ご質問ありがとうございます。「発達障害当事者と非当事者の溝」とは、当事者性の差異について述べています。発達障害を頭で理解していることと、発達障害の方がその体験に基づきアイデンティティとして理解している感覚は、大きな温度差があるように思うからです。私は、当事者と非当事者の温度差があるという事実をお互いに認識したほうが、当事者の方とより率直な話し合いができるように思っています。また、非当事者がより謙虚な気持ちになって、当事者の体験に耳を傾けるきっかけにもなると思っています。
「修復の練習」というタイトルは、本展示会のキュレーターである金澤韻さん(かなざわ こだま)さんが考案したものです。
何か分かり合えないことがあって誤解を招いても修復可能性があるのだということを示したのだと思います。また、修復できなくてもそれはそれで構わないと私は思っています。多様性というのはそんなに楽しいものではなく、各々が努力を強いられることでもあるので、誰とでも無理してまで仲良くする必要はないし、距離をとったり、連絡を絶ったりする方法もあるのかなと思います。みんなで仲良くなろうという小学校教育の呪いのようなものを私たちは引きずらなくていいのかなと思っております。
「修復の練習」シンポジウム、聴講のおすすめポイントは?
――本シンポジウムには、精神科医の本田秀夫先生(信州大学医学部 子どものこころの発達医学教室教授)、当事者研究者の仲田真理子先生(筑波大学人間系助教)、和田恵先生(福島大学人間発達文化類講師)が登壇されるとのことで、どんなお話が聞けるのか大変楽しみです。第0部「イントロダクション」、第1部「私たちの身近にある分断と修復」、第2部「社会の中の修復を取り巻く課題」、第3部「修復の練習」という構成になっていますが、聴講のポイントや、どのような方に聴講をおすすめするか教えていただけますか?
大島先生:ありがとうございます。私は司会なのですが、仲田先生と和田先生は研究者でもありますが当事者の立場でもあるので、かなりリアルな話が聴けるのではないでしょうか。この中にも出てきますが、発達障害のある人が無理をしない生活や価値観とはどんなものか、どうすれば自分の自然体を受け入れられるか、何を大事にして、何を捨ててきたか、社会的な価値観とのせめぎ合い……といった、濃い体験談がありますので、ぜひどのパートも楽しみに聴いていただけますとうれしいです。
京都の古民家を貸し切り、第一線で活躍するキュレーターによる現代美術展としての楽しみ方も
――今回はシンポジウムの開催と共に、現地参加イベントとして京都の古民家で展覧会が行われるそうですね。展覧会の見どころや、特にこだわった点などがあれば教えてください。
大島先生:今回は現代美術の第一線でご活躍されているキュレーターの方をお呼びして企画していただいたので、美術展としてのクオリティの高さは担保されていると思います。また、東京ばかりではなく、京都にしたのは、一軒家を貸し切りで展示スペースとすることができて、ゆっくりとしたスペースで展示が可能なこと、その他、魅力的な美術の展示が多方で行われていること、いつも東京である必要がないから、などの理由があります。この展覧会では、オールマイノリティプロジェクトで紹介してきた漫画の描きおろしなどもありますのでご覧いただけますと幸いです。
――最後に、「発達ナビ」をご覧いただいている皆さまへメッセージをお願いします。
大島先生:発達ナビをご覧の皆様は、当事者の方や、当事者のご家族の方も多くいらっしゃるかと思います。世の中には発達障害のままではまずいからこうしなさい、こういう学習方法があります、といった不安を煽る方法でトレーニングをさせたがる支援施設が割とあると思います。発達障害との付き合い方は、少なくともそのような欠陥モデルで捉えない支援者を見つけることが第一歩ではないかと思っています。よい支援者に巡り合い、よくよく自分の特性について理解し、どんな生活が皆さんや皆さんのご家族がたのしくて幸せになるか、ということを一緒に考えていけることを祈っております。「修復の練習」の対談は、そのような皆様の良いヒントになり得ると思いますので、ぜひご覧いただけますと幸いです。
おわりに
発達障害当事者やその家族(マイノリティ)として、日々の生活の中で孤独や生きづらさを感じることがあるかもしれません。非当事者(マジョリティ)中心に形成されてきたこの社会で、発達障害当事者が心地よく生きていくためには何が大切なのか、本シンポジウムを通じて思いを巡らせてみてはいかがでしょうか。
【詳細】
オールマイノリティプロジェクト
2025年ビジュアル展覧会「修復の練習」共催シンポジウム
開催日程:2025年5月17日(土)~2025年6月1日(日)
・シンポジウム
視聴方法:オンデマンド配信
・ビジュアル展覧会「修復の練習」
入場料:無料
場所:The Terminal KYOTO(京都府京都市下京区新町通仏光寺下ル 岩戸山町424)
(コラム内の障害名表記について)
コラム内では、現在一般的に使用される障害名・疾患名で表記をしていますが、2013年に公開された米国精神医学会が作成する、精神疾患・精神障害の分類マニュアルDSM-5などをもとに、日本小児神経学会などでは「障害」という表記ではなく、「~症」と表現されるようになりました。現在は下記の表現になっています。
神経発達症
発達障害の名称で呼ばれていましたが、現在は神経発達症と呼ばれるようになりました。
知的障害(知的発達症)、ASD(自閉スペクトラム症)、ADHD(注意欠如多動症)、コミュニケーション症群、LD・SLD(限局性学習症)、チック症群、DCD(発達性協調運動症)、常同運動症が含まれます。
※発達障害者支援法において、発達障害の定義の中に知的発達症(知的能力障害)は含まれないため、神経発達症のほうが発達障害よりも広い概念になります。