【福田富一栃木県知事・第4回】社会問題「ヤングケアラー」。栃木県の支援策は?
近年社会的に大きな問題となっている「ヤングケアラー」。一般に「本来大人が担う家事や家族の世話などを日常的に行っている子ども」を指します。
栃木県では2023年4月に「栃木県ケアラー支援条例」を施行しました。実際にどのような支援を行っているのか、こども政策課 児童家庭支援・虐待対策担当主幹の廣瀬正憲さん、主事の平澤好実さん、ヤングケアラー・コーディネーターの岸裕子さんの3人にお聞きしました。
栃木県が「ヤングケアラー」支援に取り組む理由とは
――「ヤングケアラー」とはどういった子どもを指すのか、明確に定義されていますか?
こども政策課 児童家庭支援・虐待対策担当主幹 廣瀬正憲さん(以下、廣瀬さん):「栃木県ケアラー支援条例」では、ケアラーとは「高齢、障害、疾病等の理由により援助を必要とする家族、身近な人その他の者に対し、無償で介護、看護、日常生活上の世話その他の援助を提供する者」で、ヤングケアラーとはそのうち18歳未満の者と定義されています。一方、「子ども・若者育成支援推進法」が改正され、2024年6月12日に施行されました。これによってヤングケアラーが支援の対象として「家族の介護その他の日常生活上の世話を過度に行っていると認められる子ども・若者」と明記されました。
――となると、子ども自身が自分で負担が大きいと思ったら、ヤングケアラーだということでしょうか?
廣瀬さん:ヤングケアラーかどうかは、非常に難しい面があるのが実情です。家族の世話をすることで勉強や生活に支障が出る、自分も辛いと感じる、あるいは勉強をしたくても家族のお世話で時間が取れない、やがて進学にも影響が出てくるとなると、ヤングケアラーと気づきます。一方で、ただ以前から家族のお世話をしていて、それが当たり前の状況だと、自分がヤングケアラーだという認識がないケースも多いんです。外部からの指摘によって気づくこともあります。
――外部からの指摘。外部とは、学校の先生などですか?
廣瀬さん:そうですね。宿題をしてこない、忘れ物が多い、また授業中に眠そうにしているなど、学校の様子から担任の先生が気づく場合もあります。また介護を必要としている家族がいると、訪問介護士さんが自宅を訪問しますよね。そのときに子どもがお世話をしているのを見て、ヤングケアラーではと気づくこともあります。
――栃木県では、ヤングケアラー問題をどのように捉えていらっしゃいますか?
こども政策課 児童家庭支援・虐待対策担当主事 平澤好実さん(以下、平澤さん):ヤングケアラーの問題は、子どもたちの身体面・精神面に大きな影響を与えています。家族の世話や家事のために学業や進路、友人関係に影響が出てしまうケースも考えられます。にもかかわらず、家庭内のデリケートな問題ですから、誰にも相談できずにひとりで抱え込んでしまう子どもも少なくありません。家庭内だけでは解決できない面もあり、社会全体で支えていくことが課題となっていると感じます。 栃木県が2022年にヤングケアラーに関する実態調査を行った結果、「お世話をしている家族がいる」と回答した児童・生徒は小学6年生で12%、中学2年生で8%、高校2年生で5%いました。国の調査との数字の違いはありますが、実際に家族のお世話をしている子どもたちがいるのは事実です。
――ヤングケアラーという言葉が生まれたのは近年のことですが、昔からこのような事情を抱える子どもたちはいたのでしょうか?
こども政策課 児童家庭支援・虐待対策担当 ヤングケアラー・コーディネーター 岸裕子さん(以下、岸さん):ヤングケアラーは昔からいたと思います。今思えば、私自身も一時的に家族の世話や手伝いをしたことがあるので、ヤングケアラーだったのかもしれません。ヤングケアラーは、お世話をした期間で決められるものではないですからね。 核家族化、ひとり親家庭の増加、そして少子化が進んでいる現在では、極端な話、親が体調を崩すと子どもはヤングケアラーになってしまいます。昔と今では社会構造が変わったことも、ヤングケアラーが増えている要因の1つといえるのではないでしょうか。
まずはヤングケアラーの認知から。家族全体を支援することが重要
――ヤングケアラー問題に対し、栃木県で取り組んでいることはありますか?
平澤さん:まずはヤングケアラー支援について社会に認知してもらえるよう、2024年2月に「とちぎヤングケアラー・フェスティバル」を行いました。支援をしている団体だけでなく、当事者が参加する形にして、同じ境遇の人と話す場や、普段できない遊びの場を作りました。
――みなさんに知ってもらうことは大事ですね。しかし既に自分がヤングケアラーと感じている人は、そういったイベントに参加しにくいような気がしますが……。平澤さん:確かにそうですよね。ただアンケートで「困ったことをどうやって相談したいか」と質問したところ、直接話を聞いてほしいという声が多くありました。実際に会って話をすることも大切にしています。 その他にもYouTubeでヤングケアラー理解促進ムービー「今日も私たちは家に帰る」を公開しています。
(おとな向け)
(中高生向け)
ドラマ仕立てで当事者の感情を想像しながら見ていただけるので、分かりやすいと好評をいただいています。
――認知度向上のほかに、どのような支援策を行っているのですか?
廣瀬さん:支援対象者の状況によって支援策は違います。たとえば高齢で介護が必要な家族をお世話している場合は、介護サービス等を紹介できます。金銭的な支援ではなく、さまざまなサービスにつないでいくことになります。
岸さん:親によっては、子どもを頼りにしたい意向があるのかもしれません。しかしそうなれば子どもも大変です。だから困っている家族を丸ごと支援したいと考えています。
「ヤングケアラー」と言われるとショック?親と子ども、両方の気持ちを否定しない
――ヤングケアラーの子どもを助けることは重要ですが、親としては、「あなたの子どもはヤングケアラー」と言われたら、厄介者扱いされていると思うかもしれません。子ども自身も「あなたはヤングケアラー」と言われるとショックなのではないでしょうか。
平澤さん:親からすると、子どもがヤングケアラーかもしれないと思うと不安に感じるでしょうし、うちの子に負担をかけているの? お手伝いをしてもらってはいけないの? と思うかもしれませんね。
岸さん:子ども自身も、一方的に「あなたはヤングケアラーだ」と言われると、自分のしてきたことを否定されたように感じるかもしれません。子どもはお手伝いをしたいと思っているかもしれませんし、その思いは大切にしたいのです。 生活や進路に影響が出るようであれば相談してほしいと思いますが、子どもの状況も気持ちもそれぞれに違います。子どもが傷つかないように、親も心の中で泣かないような支援を、といつも模索しています。
――今後の取組についても聞かせてください。
廣瀬さん:政策はまだ始まったばかりです。今後も「とちぎヤングケアラー・フェスティバル」を開催し、学校と連携するなどして、まずは「ヤングケアラー」について知ってもらうことに力を入れていきます。 当事者だけではなく、ヤングケアラーを知る人が増えれば、辛い思いをしている子どもたちに気づき助けられるかもしれません。栃木県はもちろんのこと、社会全体で取り組んでいきたい課題だと思います。
編集後記 ヤングケアラーは、自分では気づかないケースもあります。またお世話をしたいという子どもの気持ちや親の葛藤も尊重しなくてはなりません。それぞれの家庭で抱える問題が違うだけに、支援策は多岐にわたるといえそうです。まずは社会全体でヤングケアラーを知っていく。それが大切な一歩になりそうです。
※取材は2024年6月に行いました。記事の内容は取材時時点のものです。