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第9回 AEWにて初の王座戴冠を果たした”竹下幸之助”が目指す、正真正銘のトップスターへの新たなスタートライン

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第9回 AEWにて初の王座戴冠を果たした”竹下幸之助”が目指す、正真正銘のトップスターへの新たなスタートライン

初戴冠のAEWインターナショナル王座ベルトを手に、ふてぶてしいまでの面構えでゲートに登場する竹下幸之助(写真右)
– 2024年10月16日(現地時間) カリフォルニア州サンノゼ サップ・センター –

■”レッスル・ドリーム”を叶えた記念すべき一夜

遂に、この男がやってのけた。

現地時間10月12日に開催されたPPV大会、「WRESTLE DREAM(レッスルドリーム)」において、このコラムでも既に紹介した竹下幸之助が、前王者であるウィル・オスプレイを下し、彼が保持していた王座ベルトの奪取を果たしたのだ。この試合は、同じく王座挑戦者であるリコシェも加わって、3人同時にリングで闘う”トリプルスレットマッチ”という特殊な試合形式で行われたのだが、試合中盤に結託するオスプレイとリコシェによるダブルの猛攻を凌ぎ切り、白熱した攻防に終止符を打ったのだ。

しかもこの大会は、2年前に惜しまれながら早世した故アントニオ猪木の偉業を称えるための大会として、急遽AEWが開催を決定、その後定番化したPPVイベントであり、そこで日本人レスラーである竹下が王座を初戴冠するという快挙がなされるというのも、筆者にとっては一つの感慨深いポイントに思えてならない。この夏、新日本プロレスの真夏の祭典”G1クライマックス”に初出場の上、決勝トーナメントにまで駒を進めた実力のほどを、存分に見せつける最高の形で結実したと言えるのではないだろうか。

■試合終盤に訪れた”予想外”の展開

なお、竹下が勝利する決め手となった試合の決着ぶりについては、いかにもアメリカンプロレスらしい流れだったことも先に付け加えておきたい。そこで、当日の試合の様子を簡単ながら振り返っておこう。

竹下とオスプレイ、そしてリコシェの三者が同時に凌ぎを削った今回のインターナショナル王座タイトル戦は、その試合形式からして波乱を巻き起こさずにはおれない試合展開だった。序盤は三者それぞれに相手の出方を伺いつつも、隙あらば自身の得意技を仕掛けては寸前でかわされるというスリリングな攻防が続く。だが、場外戦にもつれた際に竹下がリング下から引きずり出し、そのままセッティングを施した長机のテーブルが、その後に待ち受けるクライマックスへの大きな布石となる。三者三様の得意技のムーブが炸裂する中、エプロンサイドでの攻防を制した竹下がリコシェを捉えたまま、場外のテーブルへ脳天から突き刺す断崖技を敢行する。

この一撃でリコシェを戦意喪失に追い込んだ竹下は、返す刀でオスプレイをもねじ伏せようとするも、逆に強烈な打撃をカウンターで喰らってダウンを喫してしまう。そのままピンフォールを狙ったオスプレイに覆い被され、万事休すとなった竹下の両肩に3カウントが数えられようとしたまさに瞬間、何者かがレフェリーの足を引っ張って場外へと引き摺り出し、間一髪でカウントの進行を阻止したのだ。

この男、言うまでもなく竹下のマネージャーである”極悪人”ドン・キャラス。その後、レフェリーが居なくなったリング上でキャラスと共に、かつて新日本プロレス時代からのオスプレイの盟友であるカイル・フレッチャーが凶器による殴打をオスプレイに加え、そのアシストをもとに竹下が見事(?)オスプレイから3カウントを奪ってみせたのだ。

もちろん、竹下が真の実力を持ってしてオスプレイをねじ伏せた上での王座戴冠劇であった、というつもりは毛頭ない。だが、こうしたレフェリーの死角をついたブラインドでのアシストによる攻防、そして裏切りという観客の期待をいい意味で裏切る顛末ぶりは、まさにアメリカンプロレスの一つの王道とも言えるものであり、それを大観衆の見守るPPV大会の中で、堂々とやってのけた竹下の技量と共に兼ね備えた、確かな千両役者ぶりに、筆者は大いなる拍手を贈らざるを得ないのである。

■”物議を醸した一戦”への竹下による新たなスパイス

ちなみに、リコシェとオスプレイの両者が関わる試合となれば、世界中のプロレスのファンの間で物議を醸した、あの一戦を思い起こさずにはおれないところだろう。逆に、この一戦を皮切りに二人のレスラーは、より世界基準で認知されたといっても過言ではないかもしれない。それは今を去ること8年前の2016年5月27日。新日本プロレス後楽園ホール大会で行われた両者による対戦だ。

現在と違い、まだジュニアヘビーという軽量の階級だった二人は、試合序盤のオーソドックスなレスリング展開から一転、次々にアクロバットな回転技や空中技を繰り出し、完璧に息があった独特な試合ぶりをリング上で披露して見せたのだ。試合後には、世界中で称賛の声が上がる中、それに倍するかのような批判が沸騰することで、より多くのプロレスファンが知る”伝説の一戦”となったのである。

その後、リコシェは新日本プロレスを去り、やがてWWEの所属レスラーとなったことで、両者の対戦は行われることなく時は流れたが、2024年になってオスプレイがAEWへの完全移籍を果たしたのに引き寄せられるかのように、同年8月にはリコシェ自身もAEWへの電撃的な参戦を果たし、両者の再戦を待ち望むファンの声は日増しに大きくなっていった。そして遂にファンが待ち望んだ両者による対戦が、8年の時を越え、AEWのリングで闘われることになる。

伝説の一戦を彷彿とさせるアクロバティックな展開はもちろん、さらにグレードアップした両者の息もつかせぬ攻防は屈指の好勝負となるも、遂に決着を見ることなく時間切れ引き分けとなってしまう。だが、会場に詰め掛けた多くのファンの後押しの中、急遽延長戦として試合が再開されるのだが、なんとその試合を途中乱入という形でぶち壊してしまったのが、誰あろう竹下だったのだ。

試合はそのままノーコンテストとなり、観客の凄まじいまでのブーイングを浴びながら、悪いれもせず憮然とした態度で不適な笑みを崩さない竹下に対して、オスプレイとリコシェの両者による了承のもと、決着戦として組まれた試合こそが、今回竹下が王座戴冠を果たすことになった、PPVでのトリプルスレットマッチへの経緯なのである。一通りのストーリー展開を俯瞰してみるにつけ、まさに”してやったり”の流れを竹下は演じて見せたというわけなのだ。

■不透明な試合決着が生み出す今後の期待感

プロレスは非常に奥深いエンターテイメントの世界として成立している。仮に対戦するレスラー同士が、お互いの強さだけをひけらかして勝負を挑み、決着をつけるだけでは従来ある格闘技の試合となんら変わらないものとなってしまう。期待を持って会場に集まった観客や、テレビの前の多くの視聴者を楽しませるだけの、極めて高度な技術やテクニックを駆使して展開されるものだ。今回の竹下の王座戴冠劇についても、そうしたストーリー的な”因縁”や”裏切り”といった、高いレベルで周到な準備がされ、この一戦が行われたことだろう。

さらに竹下においては、王座を獲得してチャンピオンになったというステータス以上に、AEWにおけるトップスターとして見認められたという側面も見逃すわけにはいかない。AEWというプロレス団体に所属するレスラーの数は、日本の多くのプロレスファンが知るところのオカダ・カズチカの移籍劇の例を挙げるまでもなく、わずか設立5年にしてかなりの人数に膨れ上がっている。それらの中で、テレビ放送枠で放映される試合を組まれるのはもちろん、PPV大会での試合に抜擢されるレスラーともなれば、トップ中のトップたる選りすぐりのレスラーにしか与えられない権利であり、そこにはAEWとして威信を賭けるに足るレスラーであることが必須条件なのだ。

竹下は、入団からこれまでも団体からのプッシュを受け、数多くの試合はもちろんPPV大会での試合に抜擢されながら、あと一歩のところで王座戦というステータスには届かずにいたものの、今回の王座奪取によって遂にそのポテンシャルが、AEWの看板を担う一人のレスラーとして、揺るぎない地位にまで辿りついたことを意味している。加えて、今回の決着がいわゆる”不透明なもの”であるが故に、今後王者である竹下を取り巻くオスプレイやリコシェによる王座奪還劇の展開にも厚みと激しさが増し、AEWというコンテンツを大いに盛り上げる幹の太いストーリーラインの一つとなっていくことは、もはや疑いの余地はない。

悲願とも言える王座戴冠を果たした竹下だが、彼のサクセスストーリーは、むしろこの時点から新たな第二章のスタートを切ったとも言えるだろう。この夏のG1クライマックスでの活躍ぶりはもちろん、AEWからの期待とプッシュに応え、見事形にしてみせた竹下のこれからのさらなる飛躍ぶりに、今後も心躍らされる日々を大いに期待したい。

岩下 英幸


(いわした・ひでゆき)

AEWインフルエンサー。ゲームクリエイター。1970年、千葉県生まれ。幼い頃からゲームセンターやファミコンに親しみ、それが高じてゲーム業界入り。プロレスを題材に開発した「バーチャル・プロレスリング」シリーズが国内外で高い評価を獲得し、米ゲームエキスポ「E3」では、格闘ゲーム部門の最優秀賞を2年連続で受賞する快挙を達成。現在、奥深いプロレス知識をもとにAEWにまつわる執筆活動中。最新作は2023年製作の「AEW : FIGHT FOREVER」。

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