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浮世絵の歴史とは?起源や技法、時代ごとの有名作品を徹底解説

イロハニアート

浮世絵とは、その時代を生きる人々の暮らしや文化を描いた「風俗画」と呼ばれるジャンルのひとつです。江戸時代から明治時代にいたるまで、人々を楽しませる娯楽として親しまれてきました。 また、海を渡った浮世絵が海外のアーティストたちに影響を与え、「ジャポニズム」として広く知られるようになりました。そんな浮世絵は、どのように表現技法を発展させ、どんな作品を生み出してきたのでしょうか。 本記事では、その浮世絵の歴史について解説します。

浮世絵の基本知識と成り立ち


歌川広重『東海道五十三次之内 日本橋 朝之景』保永堂版

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浮世絵は、主に「木版による版画」と、「浮世絵師による直筆絵」に分けられます。浮世絵といえば、絵を描く浮世絵師だけが作品を作っていると思われがちですが、実際にはさまざまな工程で分業が行われていました。

浮世絵制作には、4つの専門職があります。

・題材やテーマなどを企画・出版する「版元」
・版元と相談しながら絵を描く「絵師」
・絵師の作品を版木に彫る「彫師(ほりし)」
・墨版と色版(各場所に色の指定があるもの)を紙に刷って完成させる「摺師(すりし)」

です。

狩野永徳『紙本金地著色洛中洛外図』

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そんな浮世絵の先駆けとされるのは、安土桃山時代から盛んに描かれていた「近世初期風俗画」というジャンルです。

代表的なものとして、狩野永徳(かのうえいとく)による『紙本金地著色洛中洛外図』があげられます。この作品は京都の市中と郊外の名所を屏風の画面に描きだしたものであり、広く流行した作風のひとつです。

『紙本金地著色洛中洛外図』のように、人々の暮らしを描いた作品が発展し、四季折々の行事や祭礼など、テーマを持った作品が生まれました。

肉筆浮世絵の誕生と菱川師宣


菱川師宣『見返り美人図』

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江戸時代になると、身分の高い人々だけではなく、町人や武士たちが私的な楽しみのために絵を買い求めるようになりました。

そこで活躍したのが、町絵師と呼ばれる人々です。彼らは依頼主の要望に応じて、オーダーメイドの「肉筆浮世絵」を描くようになります。

肉筆浮世絵とは、のちに一般的に知られる版画としての浮世絵ではなく、絵筆で描いた作品のことです。一点ものの絵ということで、版元が企画して量産する浮世絵よりも、より高価で希少性の高いものでした。
それらの作品は、自宅の床の間に飾る「掛け軸」や、室内に立てる「屏風」など、さまざまな形で家庭内で楽しまれました。

菱川師宣(ひしかわもろのぶ)の描いた『見返り美人図』は、肉筆の浮世絵を代表する作品として知られています。背景は描かずに美しい女性のみを描き、着物の模様の美しさや独特の表情が表現されています。この作品によって、浮世絵の一大ジャンルである「美人画」の様式が確立されたのです。

また、師宣は浮世絵版画を誕生させた人物としても知られています。最初は墨一色だった浮世絵に筆で色を乗せ、より美しい作品を生み出していった師宣は、浮世絵の世界に大きく貢献した人物だと言えるでしょう。

カラフルな色を使った「錦絵」が人気に


鈴木春信『浮世美人寄花 山しろや内はついと 萩』

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浮世絵の歴史のなかで最も画期的な技法として、「色刷り」という技法があげられます。浮世絵は、はじめは墨一色で描かれたシンプルなもので、そこに絵筆で直接色を塗った「丹絵(たんえ)」が制作されていました。

やがて数色の色が重ねられるようになり、さらに1765年頃には色の数がぐんと増やされ、カラフルで華やかな作品を制作できるようになりました。これらの浮世絵は、まるで何色もの糸を織った着物のように豪華絢爛だったことから「錦絵」と呼ばれるようになったのです。

鈴木春信『雨の夜詣で』

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そんな多色刷りを誕生させたのが、浮世絵師の鈴木春信です。春信の描く繊細で美しい女性像は、錦絵の華やかさと相まって空前の人気を集めました。

それまでは庶民から敬遠されがちだった『源氏物語』などにみる雅さを、浮世絵に反映させたのです。たとえば、春信の描く人物の顔は、みな、平安時代の「物語絵」にみられる「引き目鉤鼻(ひきめかぎばな)」という特徴があり、それぞれの表情の見分けがつきません。

そんなミステリアスな雰囲気が魅力を生み、人々の心を強く惹きつけたと考えられています。

歌舞伎の演目や「役者絵」が大ヒット


東洲斎写楽『三代目大谷鬼次の江戸兵衛』

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錦絵が誕生したことによって、浮世絵の世界はさらに広がりを見せました。なかでも隆盛を極めたのは、歌舞伎役者の似顔絵を描いた「役者絵」です。

特に、上半身をクローズアップした「大首絵」と呼ばれる手法は、多くの役者絵を描いた東洲斎写楽(とうしゅうさいしゃらく)の得意技でした。

歌川国貞『楼門詠千本(さんもんひとめせんぼん)』「南禅寺山門の場」

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また、歌舞伎の演目や役者の魅力を引き出した浮世絵師として、歌川国貞(三代目歌川豊国)が知られています。国貞は、自ら歌舞伎役者の楽屋へ赴き、綿密な取材を重ねて優れた作品を発表しました。

『楼門詠千本(さんもんひとめせんぼん)』「南禅寺山門の場」という浮世絵には、大泥棒の石川五右衛門(いしかわごえもん)の登場シーンが描かれています。

五右衛門が足をかけているのは、南禅寺の華麗な山門です。実際の舞台では、五右衛門とともに山門がせり上がる演出が使用されており、浮世絵の構図によってそのシーンを見事に表現しているのです。

北斎や広重、シリーズものが話題を呼んだ「名所絵」


葛飾北斎『富嶽三十六景 神奈川沖浪裏』

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江戸時代後期から幕末にかけて、庶民のあいだでは旅への憧れが強まっていきました。
このことが影響して、日本の各地の名所を描いた「名所絵」が流行することになります。

葛飾北斎(かつしかほくさい)による『富嶽三十六景(ふごくさんじゅうろっけい)』シリーズは、風景画の中でも歴史的な傑作だと言えるでしょう。

なかでも『富嶽三十六景 神奈川沖浪裏(ふがくさんじゅうろっけい かながわおきなみうら)』は、世界的に知られる北斎の代表作です。ダイナミックにうねる大きな波の描写は、海外の芸術家たちにも大きな影響を与えました。

歌川広重『京都名所之内 あらし山満花』

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歴史的価値のある名所絵を描いたのは、北斎だけではありません。

歌川広重は『東海道五十三次之内(とうかいどうごじゅうさんつぎのうち)』や『江戸名所百景(えどめいしょひゃっけい)』など、日本の美しい風景とそこに暮らす人々を描き続けました。

全10枚からなる『京都名所』シリーズのひとつ『京都名所之内 あらし山満花』は、満開に咲き誇る京都・嵐山の桜が目を引く1枚です。画面を大きく横切る桂川の水面には、はらはらと舞い落ちる花びらが描かれています。

広重は、当時海外で発見された新しい顔料「ベロ藍」を使って、川の水の深い青色を表現しました。この鮮やかで退色しにくい青色は、前述の『富嶽三十六景 神奈川沖浪裏』にもふんだんに使用されています。

明治に生まれた「開化絵」と浮世絵の変遷


2代歌川国輝『東京名所之内 銀座通煉瓦造 鉄道馬車往復図』

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やがて、鎖国状態にあった日本は開国し、時代は江戸から明治へと移り変わりました。政府は積極的に西洋の文化を取り入れ、日本は急速に近代化していきます。

浮世絵は江戸時代を代表する娯楽でしたが、明治になってもなお、新たな題材を得て数々の作品が生まれました。

代表的なのは、西洋化による文化の発展を取り入れた「開化絵」です。主に歌川派と呼ばれる浮世絵師たちによって、鉄道や馬車などの西洋的な乗り物、それまでの日本にはなかった高い建物などの様子が描かれました。

歌川芳虎『東京日本橋風景』

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歌川芳虎による『東京日本橋風景』では、江戸・日本橋(現在の東京都中央区)の周りに、三輪の自転車や乗合いの馬車などが描かれています。

絵の中には、髷を結って洋装をしている男性たちや、笠を被った着物姿で自転車を運転している人物が登場します。これまでの生活のなかに、急速に西洋文化が取り入れられた様子が伝わってくる作品です。

月岡芳年『郵便報知新聞 第六百号』

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目まぐるしく変化する世の中で、人々は最新の情報が手に入る新聞を重宝しました。そんな読者のニーズに応えるため、日刊新聞や雑誌が次々に誕生していきます。

浮世絵は、新聞や雑誌に掲載される挿し絵のような役割を果たし、報道的な側面を大きく持つようになりました。しかし時が経つにつれ、著名な浮世絵師たちが亡くなり、浮世絵は次第にメディアの第一線から退いていったのでした。

まとめ


浮世絵はその長い歴史のなかで、時代や人々のニーズに応えながら、さまざまな技術や作風を発展させました。

版画の技術や新たな顔料の発見、そしてその時々で流行したモチーフや表現技法など、歴史を追って浮世絵を見ていくと、変容と進化の様子を感じられるのではないでしょうか。

参考書籍:

『イチから知りたい 日本のすごい伝統文化 絵で見て楽しい!はじめての浮世絵』著:藤澤紫、藤澤茜(すばる舎)
『すぐわかる日本の絵画』著:守屋正彦(東京美術)
『面白いほどよくわかる 浮世絵入門』著:深光富士男(河出書房新社)
『ビジュアル入門 江戸時代の文化 江戸で花開いた化政文化』著:深光富士男(河出書房新社)

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