交通空白の解消に向け、国交省が「MOBILITY UPDATE PORTAL」をリリース。活用方法とは?
交通空白は、どこの自治体であっても早めに対策を打つべき課題
近年、日本では人口減少と高齢化が急激に進んでいる。人口については、国土交通省の資料によると、2050年には全国の居住地域の約半数で50%以上減少する見込みだ。人口が減っていく地域では、商業施設の減少、病院の統廃合・移転、学校の統廃合などにより、買い物、通院、通学など日常生活における移動の問題が深刻化していく。
また、高齢ドライバーによる交通事故のニュースが世間を騒がせることが続いたことなどから、運転免許の自主返納の動きが活発化。その結果として、高齢者の移動手段に対する不安の声も高まっている。ところが、地域住民の重要な交通手段であるバスは、利用者の減少から採算性が悪化し、撤退する事業者が増加傾向だ。
これらを背景に、公共交通機関を利用したくてもできない、いわゆる交通空白地域が日本全国に広がっている。少子高齢化が進行する日本では、今現在問題なく暮らせている地域でも、将来にわたって現状を維持できるとは限らない。交通空白は、どこの地方公共団体であっても早めに対策を打つべき課題と言えるだろう。国土交通省は、その際に役立つサイト「MOBILITY UPDATE PORTAL」を2025年5月28日に公開した。
MOBILITY UPDATE PORTALとは
「MOBILITY UPDATE PORTAL」は、地方公共団体、交通事業者、病院・学校関係者など交通空白に取り組むべき立場の人に対して、「地域公共交通計画」に関する情報を提供するサイトだ。モビリティデータを活用した、無理なく・難しくなく・実のある「地域公共交通計画」の実現に向けたアップデートを促進するため、様々なツールや情報を発信している。
同サイトでは、以下に解説する「アップデートガイダンス」「支援ツール」「地域の事例」によって、計画策定から評価、次期計画の検討まで、一貫して交通空白対策をサポートする。
地域公共交通計画の実質化をサポートするアップデートガイダンス
交通空白の課題に対応し、地域全体の利益を向上させるためには、自治体や交通事業者のほか、医療、福祉、教育、観光、経済など多様な関係者が連携し、地域交通を構築することが不可欠だ。「地域公共交通計画」は、地域交通の目指す姿を示し、その実現に向けた道筋を示す指針である。その地域公共交通計画のアップデートとは、単なる計画の修正ではなく、多様な関係者たちが協力しながら「交通空白」の解消に取り組むことを意味する。同サイトの「アップデートガイダンス」は、これから地域公共交通計画の作成や改訂に取り組む関係者が、アップデートの進め方を理解し、実践できるよう支援することを目的としている。
具体的には、地域公共交通計画の実質化に向けて、「枠組みの検討」「現状診断」「地域交通が目指す姿の設定」「施策の設定」「KPI・目標値の設定」という流れで解説している。KPIとは、重要業績評価指標」のことで、組織や事業の目標を達成するための進捗状況を把握するための指標だ。交通空白については、移動アプリの利用率、顧客の移動距離・移動時間などが当てはまる。アップデートガイダンスでは、例えば「高齢人口と病院の位置情報を重ね合わせて、移動の出発地・目的地の分布状況を把握する」といった提案をしている。
スケジュール確認や法定協議会での報告などに役立つ支援ツール
支援ツールには、地域公共交通計画策定から評価までの流れの確認や計画策定スケジュール検討の参考になる「標準スケジュール」、交通事業者などの民間企業や研究機関が保有するモビリティデータを活用する際の覚書や協定として作成する際に活用できる「覚書サンプル」、計画の達成状況や施策の実施状況を記録し、法定協議会での報告などに役立つ「自己評価シート」などがある。
標準スケジュール
地域公共交通計画の作成や改定、それに伴う計画の推進期間を示したものである。計画策定の担当者やプロジェクト管理者が全体の流れを把握し、タスクやスケジュールを整理する際に役立つ。主なプロセスは、事前準備、現状診断、地域交通の目標設定、施策の決定、KPIや目標値の設定、計画の取りまとめ、そして実行(推進)である。
データ共有に関する覚書サンプル・業務発注仕様書サンプル
交通事業者など民間企業や研究期間からデータの提供を受ける場合や、コンサルタントへのデータ分析を発注する場合に活用できるサンプル。
自己評価シート
マネジメント・モニタリングチームが議論を円滑に進めるための内部用ツールである。地域公共交通計画で明らかになった課題を解決するため、施策の実施状況や課題を確認し、当面の取り組み方針を議論する際に用いる。計画の実施責任者や評価担当者が、進捗や効果を客観的に評価し、PDCAサイクル(計画・実行・評価・改善)を確実に回すうえで重要な役割を果たす。施策の状況は「これまでの取り組み内容」「課題・改善案」「今後の取り組み予定」の三点で議論し、記録する。
有識者リスト
交通計画や公共交通に精通した専門家を検索できるリストであり、課題解決や円滑な法定協議会の運営をサポートする。法定協議会の設置やメンバー選定を担当する地方公共団体の職員が、交通、都市計画、経済など多岐にわたる分野の専門家を協議会に招き入れる際に、適切な人材を探す参考となる。対応可能なエリアで絞り込むことも可能だ。
補助事業の活用
地域公共交通に関する各種補助事業の申請スケジュールをまとめた情報である。具体的には、「地域公共交通確保維持事業」(地域間幹線系統補助、地域内フィーダー系統補助、車両購入補助など)、「交通DX・GXによる経営改善支援事業」、「共創・MaaS実証プロジェクト」、「地域公共交通バリア解消促進事業」、「地域公共交通調査事業」などが含まれている。
同じ課題を抱える地域の参考事例
交通空白の取り組みを検討する際は、同じ課題を抱える地域の事例が参考になるはずだ。同サイトでは、100件以上の事例を紹介している。この事例は、都道府県や「担い手がいない」といった様々なタグから効率的に絞り込むことができる。その中で2例を簡単に紹介しよう。
中学校の「部活動拠点校」への移動支援サービス導入実証事業(徳島県美馬市)
実施主体
美馬市地域公共交通活性化協議会
背景
急激な少子化により、複数校が合同で部活動を行う必要が生じた。その際、バスの乗降場所・人数等の変更が必要となることが明らかになった。
実施内容
部活動のため学校間を移動する際の交通基盤を確立することを目的に、ジャンボタクシーを使って無料で送迎するデマンドバス配車システムを導入。予算は国の共創・MaaS実証プロジェクト(補助金制度)を活用する。
成果
中学生からは以前より便利になったと回答した割合が「59.3%」を占めており、具体的には「両親の都合で部活に参加できなくなることが減った」「部活の練習時間が増えた」など利便性の向上に寄与した意見が挙がっている。
今後の事業展開
市単独で市費負担により事業を継続する予定。休日における部活動は、学校以外が主体となる「地域移行」を進めることから、原則として有償となる可能性がある。その場合については、一定の負担軽減措置を取った上で保護者に負担を求める方針。
ふじえだまちなか居住機能向上共創プロジェクト(静岡県藤枝市)
実施主体
藤枝市
背景
若年層の市外流出や高齢化の進行により、生活・活動拠点としての魅力や利便性が低下。さらに民間バス路線の縮小に伴ってアクセスに課題が生じている。
実施内容
乗合タクシーの予約システム・コールセンター・停留所を設置。シェアサイクルステーションの設置。予算は国の共創・MaaS実証プロジェクト(補助金制度)を活用する。
予約方法
乗合タクシー:電話、アプリ、FAX
シェアサイクル:アプリ(HelloCycling)
成果
利用者は乗合タクシーの利用により外出回数が0.75回/週増加。外出意欲が増加したと53%が回答しており、外出への効果を確認できた。予約方法の満足度については、電話予約は低調な傾向にあったが、アプリでの予約はアンケートでアプリ利用と回答した人のうち、84.2%が「満足・大変満足」と回答した。
今後の事業展開
乗合タクシー事業は、地域内フィーダー補助(国の補助金制度)を活用し、市の自主財源による運行、システム運用を行う。シェアサイクル事業は、効果的なステーション配置等による利用者・収益増を見据え、事業者の自主財源を基本とし、市も補助金投入により支援を継続していく。
交通空白解消の一歩へ
このように至れり尽くせりの内容の「MOBILITY UPDATE PORTAL」。だが、課題の中身は地域によって千差万別のはずだ。このサイトをそのままなぞっても問題を解決することはできないだろう。自治体をはじめとして地域の関係者が一体となり、情熱をもって取り組むことを期待している。
この記事では画像に一部PIXTA提供画像を使用しています。