進学の選択肢「通信制高校」 生徒数は史上最多29万人超! リアルな実態と問題点を専門家が解説
個々の目的に合わせて自分のペースで学校生活を送れる通信制高校。進学する生徒数も増加していますが、学校選びは何をポイントにすればいいのでしょうか? 失敗しない通信制高校の選び方を認定NPO法人カタリバ代表理事・今村久美さんに教えてもらいました。
【図解➡】男児の “精巣・金玉・睾丸“を失う!? 「精巣捻転」の危険性を泌尿器科医が解説近年、通信制高校に通う生徒が増加傾向にあります。文部科学省の令和6年度学校基本調査によると、通信制高校の数は303校(公立校79校、私立校224校)と前年度から14校増加し、生徒数は過去最高の29万87人(前年比9.5%増)に達しました。これは高校生の約11人に1人が通信制高校に通っている計算になります。そこで、認定NPO法人カタリバ代表理事・今村久美さんとともに、「失敗しない通信制高校の選び方」について教えてもらいました。
今村久美(いまむらくみ)
認定NPO法人カタリバ 代表理事。慶應義塾大学卒。2001年にNPOカタリバを設立し、高校生のためのキャリア学習プログラムの提供を開始。こども家庭庁こどもの居場所部会委員。東京都学校外での子どもの多様な学びに関する有識者会議委員。東京大学経営協議会学外委員。朝日新聞パブリックエディター。
通信制高校の特徴
高校には平日の朝から夕方にかけて授業を受ける「全日制」、夕方から始まる学校が多く、働きながらでも通学することが可能な「定時制」、そして週何回通うかを自分で選択でき、通信手段を主体とした自習が中心となる「通信制」の3種類の課程があります。
3つの課程では、授業の方法や単位の取り方などの仕組みに違いはありますが、どの課程の高校を卒業しても「高校卒業資格」の取得は可能です。
通信制高校の主な特徴は、自宅学習を中心とした学習スタイルです。毎日登校する必要がなく、レポートの提出とスクーリング(登校による面接指導)、試験によって74単位以上を取得すれば卒業できます。
例えば、3年間で74単位を取ろうとすれば、学校にもよりますが、1年あたり平均してレポートを50~60通提出し、年間20日間程度のスクーリングが必要になります。
種類・入学時期・学費
通信制高校には、3つ以上の都道府県から生徒を募集している広域通信制高校(主に私立)と、主に高校所在地の都道府県に住んでいる生徒を募集している狭域通信制高校(主に公立)の2種類があります。
入学時期は、公立の通信制高校の場合、4月と10月に入学できる機会を設けていることが多いです。
一方、私立の通信制高校の場合は、多くの学校で年間を通じて入学を受け付けています。
学費に関しては、公立の通信制高校の場合、年間数万円程度とリーズナブルな価格設定となっています。一方、私立の通信制高校の場合は、公立よりも費用が高くなりますが、学生へのサポート体制が充実している傾向にあります。
自分のペースで学べる
通信制高校の最大のメリットは、なんといっても「自分のペースで学べる」という自由度の高さでしょう。
通信制高校は、戦後に全日制・定時制の高校に通学できない働く若者に、通信の方法で高校教育の機会を提供する目的で設立されました。
かつては中学を卒業してすぐに働く勤労青少年の入学者が大半でしたが、現在ではその対象が大きく広がっています。
例えば不登校経験者や病気、ケガなどで通学が困難な人、芸能活動やスポーツなど学業以外の活動に専念したい人、高校卒業資格を取得したい人など、さまざまなバックグラウンドを持った人たちなど。
近年、社会の多様化するニーズに対応する通信制高校が増えており、その人気は年々高まっています。その結果、一部の学校では入学希望者の増加により入学が難しくなるケースもあります。
写真:アフロ
現実のギャップに直面することも
通信制高校の人気が高まる中、今村さんは、次のような見解も示しています。
「明確な目標があって通信制高校を選択する場合、自分のペースで学び、学校生活を送れるというメリットは大きいです。しかし、なかには通信制高校の性質や特徴を十分に理解しないままに、『自由な学校生活』『好きな時間に学習できる』といったメリットだけに目を向けて選択してしまう生徒が増えている印象も。そして実際、入学後にイメージと現実のギャップに直面し、継続することが難しくなるケースが多く見られます」(今村さん)
今村さんがこのような懸念を抱く背景には、通信制高校を取り巻く現状にあります。
平成29年の文部科学省の調査によると、通信制高校の生徒の約2人に1人が不登校を経験しています。(広域通信制で66.7%、狭域通信制で48.9% 〔参考/『不登校の教科書』P237〕)
その一方で、現在、小・中学校の不登校の生徒数は過去最多の34万6482人となり、前年度と比べて15.9%の増加となっています。その状況を踏まえると、高校の不登校の生徒も同様に増加するのではないかと考えられるでしょう。
(参考/https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/seitoshidou/1302902.htm)
しかし、今村さんが取材をもとにまとめたデータでは(2023年度)、小・中学生の不登校は全国平均1000人あたり37.2人に対し、高校生の不登校は全国平均1000人あたり23.5人と減少に。
学校とコミュニケーションが取りづらいデメリットも
一見、矛盾するような状況について、今村さんは通信制高校特有の問題が関係している可能性があると指摘します。
「通信制高校には、履修登録をして、実際に学習を進めている『活動生(実活生)』と、受講登録をしない『不活動生(非活生)』という枠組みがあります。学校に在籍しながら『今年は学校にいかない』という選択肢があるため、そうした生徒が『不活動生』となり、不登校としてカウントされていません。そして一度『不活動生』になってしまうと履修の再開が難しくなり、担任やスクールカウンセラーの関与も減少してしまうのです。
特に広域通信制の場合は、全国から生徒を受け入れているため、生徒は学校から離れた場所に住んでいるケースが多く、日常的な対面でのコミュニケーションが取りにくい状況にあります。
その結果、生徒の不登校や引きこもりが見過ごされてしまい、問題が深刻化してしまうリスクが高まるのです」(今村さん)
「自立して学ぶ力」が必要 自己管理の難しさ
では、通信制高校に進学する際には、どんな点に注意が必要なのでしょうか。
「まずは、どんな高校生活を送りたいか、何がしたくて何が嫌か。せっかくの機会なのでじっくり考えてみてほしい。特に小・中学校で不登校を経験した生徒から、新しい環境で通学を目指したい、友達を作りたい、と話す子もいます。とても素敵な目標ですよね」と今村さん。
そのうえで、通信制の高校に進学する場合は、自己管理が求められる環境であることを理解しておかなければなりません。通信制への進学で「後悔の声」として最も多く挙げられるのが自己管理の難しさだからです。
「通信制では自立して学ぶ力が必要です。ネットで授業動画を視聴して授業を理解する、スケジュール管理をする、レポートなど宿題を期限内に提出するなど、通信制の学習スタイルに自分が適応できるかどうか、慎重に判断してほしいと思います」(今村さん)
各学校のサポート体制の確認は必須
また、サポート体制の充実度もチェックすべきだといいます。
「通信制高校にはスクーリングがありますが、そのスタイルは学校によってさまざまです。例えば、定期的に登校して先生から直接指導を受けるか、それとも年に数日間合宿などで集中してスクーリングを受けるのか、など。先生と定期的に会える環境では、対面でのコミュニケーションを通じてモチベーションが維持しやすくなります。一方で、先生と会える機会が限られている環境では、学習意欲が低下するリスクがあります。
学習をするうえで、つまずいてしまった場合に、どのようなサポートを受けられるかは、事前に確認しておいたほうがいいですね」(今村さん)
横(仲間)のつながりも大事
学校生活においては「横(仲間)のつながりをつくることができるか」も確認してほしいと今村さんは語ります。
「高校に通うことの価値としては、『自立する』ことだと私は思っています。そして、自立心を培うためには、人との関わりを通じて自分の考えを主張したり、相手の意見を尊重したりすることです。そのためには同級生との『横のつながり』が大事になってきます。例えば、スクーリングの日以外でも通信制の生徒が常に出入りできる居場所があるか、部活動に参加できるか、通信制課程から別の課程(定時制など)に移行できるかなども、学校選びの判断材料にしてみてください」(今村さん)
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「自分のペースで学校生活を送れる」という良い面ばかりではなく、自分が自立して学べるかどうかを考えることが何よりも大事です。
しかし、今村さんによると、通信制高校を選ぶうえでの注意点はそれだけではないようです。次回2回目では通信制高校の「サポート校」についての実態や費用について、引き続き今村さんに教えていただきます。
取材・文/山田優子
「NPOカタリバがみんなと作った 不登校─親子のための教科書」著:今村久美(ダイヤモンド社)