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異文化との交流で育まれた日本の美 ― 京都国立博物館「日本、美のるつぼ」(取材レポート)

アイエム[インターネットミュージアム]

古来より、日本は海を越えて多様な文化を受け入れ、その中で独自の美を育んできました。異文化との出会いは、単なる融合ではなく、日本ならではの感性を通じて昇華され、「日本美術」としての姿を形づくってきたのです。

そんな日本美術の特質を改めて見つめ直す、大阪・関西万博開催記念 特別展「日本、美のるつぼ―異文化交流の軌跡―」が、京都国立博物館で開催中です。


京都国立博物館「日本、美のるつぼ―異文化交流の軌跡―」会場入口


展覧会は、プロローグ「万国博覧会と日本美術」から始まります。

明治時代、日本は万国博覧会を舞台に、美術品を通して国際社会へのアピールを開始。浮世絵や伊万里焼、刀装具といった品々は、西洋で「異国情緒」の象徴として熱烈に迎えられました。

パリでは、北斎や光琳の作品が注目を集め、「ジャポニスム」の流行を巻き起こします。


プロローグ I|世界に見られた日本美術


明治政府は、自国が「文明国」であることを示すため、美術史の編纂や文化財の保護を推進し、日本美術を国の“顔”として整えていきます。

この流れのなかで「琳派」という概念も確立され、近代的な日本美術の枠組みが形成されました。


プロローグ Ⅱ|世界に見せたかった日本美術 国宝《風神雷神図屏風》俵屋宗達筆 江戸時代 17世紀 京都・建仁寺[通期展示]


続く第1部「東アジアの日本の美術」では、弥生時代以降の東アジアとの関係をたどります。

青銅器や絹織物といった大陸からもたらされた品や仏教の伝来は、宗教や政治、そして文化に大きな変化をもたらしました。


第1部 I|往来がもたらす技と美


奈良・平安時代には、命がけで海を渡った僧侶や学者たちが、中国から仏教の教えを持ち帰りました。

鑑真の来日や、最澄・空海らの遣唐使の旅は、その象徴的な出来事です。


第1部 Ⅱ|教えをもとめて 国宝《五智如来坐像》平安時代 9世紀 京都・安祥寺[通期展示]


鎌倉から室町時代にかけては、中国製の「唐物」への憧れが高まり、それを模倣・再解釈する中で、日本独自の美意識や技法が磨かれていきました。


第1部 Ⅲ|唐物―中国への憧れ


会場には「誤解 改造 MOTTAINAI」というテーマのトピック展示も設けられています。

異文化の受容は、しばしば誤解や改変とともに進みます。見たことのないものを想像で再現したり、自国の価値観を重ねたりすることで、舶来品の要素が日本の文化に溶け込んでいく過程が浮かび上がります。


トピック|誤解 改造 MOTTAINAI


第2部「世界と出会う、日本の美術」では、日本と西洋との接点に着目します。

大航海時代、日本は限られた範囲ながらも西洋との接触を持ち、貿易や外交を通して新たな技術や表現を取り入れていきました。


第2部 I|地球規模の荒波 重要文化財《鳥獣文様綴織陣羽織》豊臣秀吉所用 綴織:ペルシア 16世紀 仕立て:桃山時代 16世紀 京都・高台寺[展示期間:4/19~5/11]


17~18世紀には、世界市場を意識した工芸品が数多く生まれました。

西洋向けにアレンジされた日本製の漆器や磁器が登場する一方で、西洋でも東洋の意匠が流行するなど、双方向的な影響が見られます。


第2部 Ⅱ|グローバル時代のローカル製品


戦争や宗教などさまざまな理由による人々の移動は、異文化間の技術移植を果たすことになりました。

また和平・友好のための朝鮮通信使やオランダ商館の関係者たちとの交流で生み出された詩文や絵画は、今もなお日本各地に残されています。


第2部 Ⅲ|技術移植と知的好奇心


江戸時代の京都では中国文化への新たな憧れが再燃します。

隠元の来日によって煎茶や書画、中国色が濃厚な仏像がもたらされたことをきっかけに、清朝の文物が流行し、近代まで続く大きな潮流となりました。


第2部 IV|新・中国への憧れ


展覧会の締めくくりは、エピローグ「異文化を越えるのは、誰?」。

昭和初期、海外で公開された「吉備大臣入唐絵巻」は、美術が国境や言語を越えて人々に届く力を持つことを物語ります。

しかし同時に、美術が政治的な道具として利用される側面も存在します。異文化との対話には、私たち一人ひとりの受け入れる姿勢が問われているのです。


エピローグ|異文化を越えるのは、誰?


ちょうど、海外との交流がテーマとなる大阪・関西万博と重なる時期に開催される本展。

異文化を取り入れながら、自らを育んできたという日本美術の軌跡を追いながら、世界と向き合うことについても考えさせられる展覧会です。

[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2025年4月18日 ]

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