【奈良古代史にみる絆】(vol.2)養老の霊泉で若返った!?元正天皇
【奈良古代史にみる絆】(vol.2)養老の霊泉で若返った!?元正天皇
『天皇との絆で訪ねる古代史―日本古代のLGBTQ!?』(日本橋出版、2024)の著者で日本歴史文化ジェンダー研究所代表の難波美緒が、古代史より「絆」をひもとき、奈良に関連するエピソードを紹介するシリーズのエピソード2。
第一次大極殿で即位した女帝
平城宮跡にある第一次大極殿。現在は平城宮内でも一番目立つ復元建物だが、ここで即位した女帝の一人に元正天皇がいる。
女帝で、母である元明天皇から譲位された。女帝から女帝への譲位はこの時だけになる。
女性ではあるが、かなり色々なことをしているスゴイ人である。
まとまった形で現存する内では最古の法律書である『養老律令(ようろうりつりょう)』を完成させたし、舎人(とねり)親王らを撰者とした『日本書紀』も完成させた。
国家の農地の私有を三代にわたって認める三世一身(さんぜいっしん)の法も元正天皇が定めた法律だ。細かなところでは、女医博士を初めて設置したりもした。日本で『チャングムの誓い』のような初の女医のドラマを創るならこの時代になる。
美泉の効験で若返り!?
この第一次大極殿での元正天皇の詔(天皇の言葉)はいくつか残るが、一番ツッコミたいものを紹介しよう。
詔の内容は、美濃国多度山の美泉の効験を称えて養老と改元するもので、「九月に美濃国(岐阜県)の不破行宮(ふわあんぐう)に行幸し、当耆郡多度(たきぐんたど)山の美泉で、元正天皇自身が手と顔を洗ったところ、皮膚が滑らかになり、痛いところを洗ったら、治ってしまった。また共に飲んだり浴したりした者は白髪が黒くなり、禿髪(とくはつ、ハゲた髪)が生え始め、夜目が利くようになり、他の病もみな治ってしまった。」と言っている。
不破の名水はカルシウムやマグネシウム等の髪質に良い影響を与えるミネラルが多く含まれると、現地の水を売る業者は宣伝している。多少の効果はあったにせよ、禿髪が元に戻るとは…ちょっとびっくりである。水で洗って痛みが取れたり、飲んで禿髪が生えたりなんてことは、今の技術でも難しそうである。
この改元の詔は、美濃国への行幸が話題になっているが、出された場所は、第一次大極殿の軒先と考えられている。第一次大極殿に立って、若返りの詔が出されたことを思い出してフフフとなるのも一興かもしれない。
《参考文献》
『天皇との絆で訪ねる古代史―日本古代のLGBTQ⁉』(日本橋出版、2024)
『続日本紀』養老元年(717年)十一月癸丑条(十七日)