人生初の「あんまき」との遭遇 / なんだい、この雑などら焼きは…?
名古屋と言えば “飛ばされる地“。私の40年間の人生において、新幹線にしろアーティストのライブのような何らかのイベントにしろ、これはほぼ常に真であった。
しかし私は今年、ついに初上陸を果たした。名古屋駅周辺で未知の食い物や文化をそれなりに楽しんだのだが、その際にふと視界に入り、大いに気になったのが今回のテーマとなる食べ物だ。
・名古屋駅
「あんまき」という名前だけはおぼろげに聞いたことがあったが、実物を見たことは無かった。Wikipediaによると、愛知県知立市の名物らしい。
恐らく関東ではぺミカンやバクラヴァと同程度の遭遇頻度だろう。都内には世界中のあらゆる食べ物が揃うのであるとは思う……というか、東京駅の各地の土産物売り場で売ってそうだが、意志をもって探さなければ出会うことが無いと思われる。
そして私は今、名古屋駅構内にいるのだが……そこにあんまき屋があるのだ。藤田屋というらしい。ググってみると、江戸時代から和菓子を作っているもよう。
へぇ、食ったことが無いな……興味深いぞ。見たところ、生地はどら焼きのそれと同じか、極めて近しいものな気がする。
というか、どら焼きはきちんと円形の生地で餡を閉じ込めているのに対し、こちらは生地の上にドカッと餡を置き、ワーッと勢いで巻いただけに見える。
端的に言えば、雑などら焼きといった雰囲気。しかし、どら焼きには餡の量に当たりはずれがある。
都内では餡が著しくオミット(除外)されており、全体の95%が生地みたいな、明らかに餡をケチった粗悪などら焼きに出くわすことがあるのだ。
どら焼きを食べようという時に欲しているのは程よい分量の生地と餡のコンビネーション。生地も不味くはないが、生地率95%のどら焼きはカスである。
それに対し「あんまき」は、外から餡の量が見える。生地だけの詐欺どら焼きみたいなものは、あんまき界では構造的に出回りづらいだろう。
この構造は品質の透明化が進んだ どら焼きと見なすこともできるのではないか。
そして何より、ここのは餡が沢山入っていて美味そうだ。フレーバーは色々あるようで、価格は200~300円前後と言ったところだが、常に同じなのかは不明。
しばし迷ったが「栗」、「抹茶」、そして「天ぷら」を選択。買って来たのがこちらだ。
・美味い
それじゃあよく見ていこう。なるほど……やはりどら焼きの生地を1枚用意し、そこにドカッと抹茶餡を置いて、クルっと巻いただけに見えるぞ……?
広げてみたが、その手順で作っているような気がする。
おっと、待てよ。この気泡……生地の質がどら焼きと違うな……!?
これはどら焼きではなく、ホットケーキの生地のような弾力を有しているぞ! どら焼きの生地はもっと脆いからな。
餡も、例えば、ときおりどこぞのコンビニで登場して炎上する総菜パンのように、外から見える部分ギリギリだけ具が詰まっているみたいなことは無く、ちゃんと中心部までみっちりだ。
抹茶餡の具合もほど良い感じで、これは中々にいいものだ。
「栗」も素晴らしい! 見よこの、ちゃんと栗が入っている様を!!
都内では栗率1%くらいな栗餡を用いた粗悪な和菓子に出くわすことがある。栗を期待して買ったのに、入っていた栗はアリくらいのサイズの1欠片だけみたいな詐欺栗餡である。
しかしこいつはどうだ。見た感じ、栗と餡子の量が同じくらいではないのか?
そして、全くどういうものかわからないので選んだ「天ぷら」。
なんだか油揚げの巾着みたいなそういうビジュアル。
ほう、この生地を揚げるとそういう感じになるのか……。
油がアドされてボテっとした感じが高まり、普通のあんことは違うオイリーな甘みを感じる。少し癖があるタイプだが、これはこれで美味いな。カロリー高そう。
ということで、初めて遭遇した「あんまき」。雑に巻いたどら焼きだと思ったら、構造的には確かにそのようなものではあったが、生地が全く別物で餡子も多く、より欲望に忠実な感じのする菓子であった。
これは、なんかあれだな。通りがかりにパッと買って、和風甘味を急速チャージするみたいな。そういうイージーな感じで食べたくなる。
明確な特徴を有する点もポイントが高い。この手の小麦粉由来の生地で餡子を包んだタイプの食べ物は、全国に無数にある。そのいくばくかは今川焼きの同位体みたいな感じだ。
例えば熊本の蜂楽饅頭と東京の今川焼きはマジで判別不能。熊本観光をする都民に熊本名物として蜂楽饅頭を食わせても1ミリの感動もない。
そして東京観光する熊本民に江戸の名物菓子として今川焼きを食わせても、やはり1ミリの感動もない。私はキッズ時代に帯山に住んでいたことがあるので詳しいのだ。
しかし「あんまき」は、ビジュアルとウマさから「愛知県だな……」的な遺伝子を感じられると思うのだ。地方特有の和菓子は、その土地らしさを感じさせてくれる事も重要だと思う。
そういった点も含め、「あんまき」は素晴らしい在り方をしている。こういうのがいいんだよ。
参考リンク:藤田屋
執筆:江川資具
Photo:RocketNews24.