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オープン直後にコロナ禍で借金1億円…苦難を乗り越え、想いを繋いで5周年ーー心斎橋 ANIMAオーナーが語る「最高のライブハウス」への道のり

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ANIMA オーナー店長・吉條壽記

大阪・心斎橋はアメリカ村にあるライブハウス「Pangea」と「Live House ANIMA」。Pangeaは今年3月に13周年を迎えたところで、ANIMAは8月に5周年を迎える。このふたつのライブハウスのオーナー店長をつとめるのが、吉條壽記だ。彼にはいくつもの肩書きがある。パンクバンド・RAZORS EDGEのドラマーであり、前述したようにPangeaとANIMAのオーナー店長、新世界もつ鍋屋 西心斎橋店と、昨年digmeout ART&DINERの跡地にオープンした「iiie(イーエ)」のオーナー、Shining April RecordsとTOUGH&GUY RECORDSの主宰。レーベルは応援するバンドの音源をリリースするため、もつ鍋屋はライブ終わりのバンドマンが打ち上げをしやすいようにという理由で立ち上げた、音楽愛の深い吉條氏。そんな吉條氏にANIMAを作るに至った経緯や想いについて、8月から始まるANIMAの5周年イベントについて話を訊いた。

ライブハウスが、色んな人が帰ってくる場所になればいい

ーーまずは少し吉條さんのことを聞かせてください。音楽を始められたのはいつ頃ですか?

ドラム自体は高校生の時に始めて、幼馴染とNirvanaのコピーバンドを組んでから本格的に活動を始めました。専門学校に入って、幼馴染とのバンドでそのままオリジナル曲を作ってライブハウスに出だして。そこから色々あってRAZORS EDGEに入って、ツアーを廻ったりしてライブハウスに出入りしてるうちに「いつかライブハウスやりたいな」と思うようになって、結婚のタイミングでPangeaを始めた感じです。

ーー各地のライブハウスを廻られる中でライブハウスへの気持ちが高まっていったんですか?

僕自身もライブハウスでバイトをしていた時があって、「自分やったらこうするな」とか、頭の中で自分なりの店作りを想像していたんです。ツアーで色んなライブハウスに行くので、動線とかを見て、参考になるものがあるとテンションが上がったり。特に十三ファンダンゴ(現在は移転して堺ファンダンゴ)は随分参考にさせてもらいましたね。あとは下北沢SHELTERや神戸ヘラバラウンジ。自分が思う各所の「良いところ」をいつか形にしようと思っていました。

ーー良いところ、というと。

元々自分の好みって、めちゃくちゃ狭くて。Pangeaを作ったばかりの時は「ステージが低くて、柵もなくていい」「不良の溜まり場でもいい」とか、自分の中のライブハウスのイメージの部分がありましたけど、Pangeaをやり始めて、出てくれるバンドや来てくれるお客さんのことを考えていくうちに、「ステージはもうちょっと高い方がいいかな」「自分は柵がない方が好きやけど、あった方がいいかな」と思うようになって、5年ほど経った時に改装して、ステージをちょっと高くして、取り外しできる柵をつけたんです。色々なものを受け入れているうちに、好みがなだらかになってきたというか。それは根本的に、ライブハウスが色んな人の帰ってくる場所になったらいいなと思っているからだと思います。初めてライブをするバンドも出れば、武道館クラスの人が帰ってきてライブをしたり。「誰でもいられる場所」ではありたいなと。

ーーPangeaはどんなライブハウスになったと思われますか?

あの場所でやる上では「今のところベストかな」と思ってやっています。今でも日々「もっとこうだったら良いな」というのは、ライブハウスを作った後でも考えるんですけど、建物の構造上どうにもならないこともあって。今は時代も変わってきて、建物の中でタバコが吸えなくなったり。そうなると「喫煙所が欲しいけど、作る場所がないな」となったり。そういうことを新たに形にしたのがANIMAです。Pangeaはおかげさまで、外から見た人がイメージするカラーが確立できていると思うので。

これまでできなかったことが、ANIMAなら実現できるんじゃないか

ーーPangeaのオープンから約8年半後の2019年にANIMAがオープンとなりました。キッカケは元々ANIMAの前にあったグランカフェが閉店して、場所が空いたことが大きかったんですか?

グランカフェの時から「すごく良い空間やな」と思ってて。ANIMAを作る何年か前にグランカフェが閉店して、1度やりたいなと思ったんですよ。でもその時は別の方が先に借りられて、クラブになったんです。実際当時は動けるだけのお金もなかったし「残念やな」という気持ちだったんですけど、2~3年後に不動産屋さんから「あそこが空く予定ですよ」と話を聞いて「次こそはやろうかな」と思って動いた感じです。

ーーPangeaでやりたいけどやれなかったことを、ANIMAで実現させていこうという気持ちがあったんですよね。具体的にどういうことをやりたかったんですか?

グランカフェの時に「良い空間だな」と思ったのは、まず天井が高いこと。これだけ高さのある空間はアメ村にはなかなかないので。Pangeaも高い方だと思うんですけど、防音もすると「やっぱり思ってた高さじゃないな」と感じたり。ファンダンゴが好きだった理由のひとつに空間の広さがあったので、ANIMAだったら実現できるんじゃないかなと思って。喫煙所もそうですし、Pangeaにはないものを作れるスペースがあるのが1番魅力的でしたね。

ーーPangeaはステージとバーカウンターがワンフロアですが、ANIMAは別フロアに分かれていますね。

どちらの形にも良いところはありますよね。理想は、外のスペースもあった上で、中でもドリンク販売できるなら最高だなと思うんですけど、それをやると人手が必要になってあまり現実的ではないので、ANIMAでもやってないです。

ーーANIMAのオープン後はコロナもあって、きっとご苦労もありましたよね。

いや、もうびっくりしました(笑)。なんだかんだ給付金が色々あったので、本当にぶっちゃけた話で言うと、ANIMAがなければ多分そんなに苦労してなかったと思います。例えばPangeaやもつ鍋屋だと、給付金でなんとかなっていたものが、ANIMAはどうしても家賃が高いのでマイナスになってしまう。

ーーライブハウスは、やはり軌道に乗るまでに時間がかかるものですか?

Pangeaは2年目ぐらいから割と安定してきたかな。キャパが変わると馴染むまで時間がかかるのかなという実感は、今のところ感じてます。

ーーANIMAはキャパ350で、キャパ200のPangeaより少し大きいですね。

PangeaでできるブッキングライブをANIMAでやると、むしろマイナスになる公演も多々あるんです。やっぱり収益的にプラスになるものを狙って作っていかないといけないので、そういう意味では制作の仕方がPangeaとANIMAでは変わってきますね。あとはPangeaからの流れで、次のキャパを目指すバンドが立ってくれたらいいなというのは、ANIMAを作る時からずっと思っていることです。

ーーバンドのステップアップの場所というか。

うん、そうですね。

ーーブッキングは吉條さんがされることも多いんですか?

僕がやるのもあるし、他のブッカーがやる時もあります。大体いつもブッキング担当は僕を入れて2〜3人いて、PangeaもANIMAも合わせてブッキングしています。あとはスタッフから「こんな組み合わせでイベントやってみたいんです」という申し出があればやってもらったりしていますね。

ーーこれまでANIMAで吉條さんが観られた中で印象に残っているライブを挙げるとすれば何でしょうか。

世代的には、envy(2023年4月20日『LAST WISH "SEIMEI" Release Tour 2023』)やKen Yokoyamaさん(2023年3月17日『Feel The Vibes Tour』w/KUZIRA)が来てくれたのが嬉しかったですね。「やってもらえて嬉しい」という気持ちがすごく強かったです。

コロナ禍で繋がった、旧知の友人やバンドとの縁

ーー吉條さんのプロフィールを拝見して、「借金1億円」というのが気になりまして。

コロナの時に銀行に借りたお金ですね。ANIMAを作る時にも、銀行と日本政策金融公庫からお金を借りてたんですけど、コロナで銀行がお金をさらに貸してくれるとなって借りた結果、1億円になりました。金額が大きすぎて実感が湧かないので、ファンタジーかなと思ってます(笑)。

ーーコロナ禍では、無観客イベントや配信ライブもあったと思います。

どこのライブハウスもそうだったと思うんですけど、コロナの時に思ったようにイベントを組めなかったりして。PangeaよりANIMAの方がスペースがあるので、お客さんを制限してイベントを組んだり配信をしたりするのは、割とANIMAでやってたんですよ。それが月の売上を賄えてたかといったらもちろんそんなことはないんですけど、やっぱりそういう時に一緒に動いてくれたバンドとの縁は今に繋がってるなとすごく思いますね。

ーー横の繋がりが強固になっている?

これは結構、他のライブハウスの人とも話して「そうだよね」と言い合うんですけど、コロナになってから「今更」というぐらい長く付き合いのある人たちと、改めて密に連絡を取り合うようになったんです。コロナをキッカケにコミュニケーションが取りやすくなった人たちもたくさんいて。照れくささや、ある程度付き合いが長くなってきたからこそ出る空気感がなくなって、素直に会話ができるようになってる気がしますね。そこは良かったところかな。当時動けるバンドもだいぶ限られていたので、そういうバンドとは色々アイデアを出し合ってやっていました。

バンドが映える、ANIMAらしい個性豊かな5周年イベント

ーー8月1日(木)から始まる5周年のアニバーサリーイベントですが、現状9月5日(木)までで、ANIMA5th ANNIVERSARY「ANIMISM#」という冠がついたイベントが10本以上も決まっていますね。

実はまだ解禁されてないものもあるんです。最初は8月でおさめようと思ったんですけど、出てもらいたい人たちに声をかけていくと「8月は厳しいけど、9月だったら、10月だったらいける」という人もいて。なので、年内いっぱいはアニバーサリーの冠をつけられるものがあったらつけていこうかなと思ってます。

ーータイトルの「ANIMISM」は吉條さんがつけられたんですか?

僕がつけました。

ーーどんな気持ちを込められたんですか?

ANIMAのカラーですかね。Pangeaは「すごく標準的なハコをちょっと個性的に作ろう」と思って作ったんですよ。横長のステージで、柱もなく見やすいスペースで、音も良い。壁は白くてステージはカラフルでアートな匂いがする、みたいなコンセプトにしたんですけど、従来ライブハウスって、黒くて暗い。ANIMAは黒を基調にして、差し色が赤で、バンドが映えるようなハコにしたくて。僕が今までバンドをやる上で影響を受けてきたような、ロック・オルタナティブ・パンク・ハードコアのバンドたちがカッコ良く見える空間にしたいなと思ってANIMAを作ったんです。今回のアニバーサリーでは、そのイズム的なものを見せるイベントというか、自分の好みや趣味を出すようなイベントタイトルのつもりでつけました。

ーーブッキングもそれに準じて、吉條さんが好きなバンドだったり、縁のある方を呼ばれているんですか?

はい、そうですね。

ーー中には合同企画や、「ドラゴン4」「SANDWICH」などのサブタイトルがついたイベントもありますね。

8月22日(木)の「ドラゴン4」に関しては、僕、毎年1月に東京の新代田FEVERでPangeaの持ち込み企画をやってて、何年か前にこの「ドラゴン4」のメンツ(愛はズボーン、Wienners、空きっ腹に酒、SPARK!! SOUND!! SHOW!!)で企画を組んだんですよ。その時は「ドラゴン4」という名前はなかったんですけど、その日のライブのグルーヴがめちゃくちゃ高くて、出演者同士がテンション上がって「俺たちドラゴン4だよな!」と言い出したのがキッカケで。そこから僕が絡まずに、バンドだけで何回か企画をやったりもしていて。で、ANIMAのこけら落としで「ドラゴン4」をやって、「5周年で同じメンツでやりたいねんけど」と各バンドに持ちかけて、今回実現した感じですね。

ーーなるほど。盛り上がりそうですね。

翌日8月23日(金)の「SANDWICH」は、先輩を後輩で挟むという企画です(笑)。今年の2月、第1回目をbachoとBlue Mashと鉄風東京でやって。鉄風東京もBlue Mashもずっと「bachoとやりたい」と言っていたのでANIMAの企画としてやってみようと思って。それで2回目が今回のSA、HAWAIIAN6、locofrankです。年齢層高めですけど、SAをハワイアンとロコで挟むという(笑)。

ーー世代の方は嬉しいんじゃないですか。

めちゃめちゃ面白いと思いますね。

ーーこれまで開催してきたANIMAの企画が再集結している日も多いんですね。

5周年なので、思い入れが強いイベントが多いですね。8月1日(木)のThe Songbardsとmol-74もPangeaで結構やってくれてて、5周年の機会で声をかけたら乗っかってくれました。

ーー8月28日(水)の「蠱毒の箱」(出演者:好き好きロンちゃん、オナニ渕剛、クリトリック・リス、カトラ井和寿、よさこいマン)はいかがですか?

「蠱毒の壺」ってあるじゃないですか。毒を持った虫を山ほど壺の中に入れて、そこで生き残った1匹が強い虫みたいな。その壺をライブハウスで「箱」に変えました。第1回目は今年の5月にPangeaでやったんですけど、スサシのドラムのイチロックのソロが、今回好き好きロンちゃんに入れ替わった感じです。みんな毒っ気たっぷりで面白いと思います。

ーー8月16日(金)にはCOMEBACK MY DAUGHTERSのゲストにLOSTAGEが出ますね。

これは、COMEBACK MY DAUGHTERSの方がANIMAの5周年というので組んでくれた企画なんです。9月5日(木)のeastern youthと踊ってばかりの国も、eastern youthが先に決まってたんですけど「誰とやりたいか」みたいなところで、eastern youth側からの希望で踊ってばかりの国の名前が出て、オファーしたら実現しました。これもだいぶ面白い組み合わせだと思います。

ーー8月10日(土)には、さきほどお名前が出たenvyが出演されます。

僕がenvyに「5周年来てほしい」という話をして、envy側からこの組み合わせを提案していただきました。

ーー素敵ですね。吉條さんから見ていて、バンド側からのANIMAの5周年に対する気持ちは伝わってきたりします?

どうなんでしょうね。こういうことを僕の立場から言うのはおこがましいんですけど、多分ハコというよりは「人」で来てくれてるのかなと。もちろんハコを知った上で、その雰囲気も好きで出てくれる人もいれば、今回初めて出る人たちもいる。だからその辺りは色々あれど、僕も今までの繋がりで声をかけてるところが多いので、多分ANIMAに対する想いというよりは「ANIMAに対しての想いを持ってる吉條くん」の部分が強いのかなと。これ自分の口から言うの、だいぶ恥ずかしいですね(笑)。

ーーいや、でも本当にそうだと思いますよ。これから年内まではアニバーサリーイベントが組まれていくことにはなるんですね。

今のところ何個か予定してるぐらいですけど、突発的なアイデアが出たら、追加で決まっていく可能性はありますね。

ーーもちろん全日程そうだと思いますが、特に吉條さんが「この日は是非ともなんとしても見てほしい」という日はありますか?

僕的には全部なんですけどね。楽しみなのは8月12日(月・祝)のAge FactoryとSHADOWS。頭空っぽにして楽しめそう。でもひとつ選ぶのは難しいですね。どのイベントも思い入れがあるので。

大事なものは「人」。ANIMAが着実にシーンに根付いてほしい

ーー吉條さんがライブハウスを経営する上で、1番大事にされていることは何ですか?

1番というと難しいんですけど、「出てもらいたいアーティストをイメージする」と「自分がいきたいライブハウスでありたい」ですかね。出てもらいたいアーティストが似合う音響や照明、空間をどう作るか。そして自分がライブハウスに行ったら接客で嫌な気持ちになりたくないし、美味しいビールが飲みたいし。人も大事やし、音も大事やし、照明も大事やし、バンドも大事やし、ファンも大事。その中心は「人」だと思うんですけど、自分がオーナーという立場にいて、例えば音響設備に不具合があったらすぐ直したいし、まとまったお金が入ったら照明をパワーアップさせようかなと思ったり、従業員的に「こうあってほしい」と言われて「確かにそうやな」と思ったらそこを良くしたい。「場所を良くしたい」という想いがありきで、それをどんな形にするか、どう動いていくか。自分が良いと思うものが万人にとって良いわけではないと思うけど、お客さんやバンドのことを考えて良いと思ったものを、良いと思ってくれる人が増えてくれたら嬉しいです。

ーーライブハウスをやっていて1番嬉しいことというと、今言っていただいた想いが伝わることだったりするんでしょうか。

やっぱり自分が「こうしたらお客さん喜ぶかな」と思ってやったものに対して、バンドやお客さんが喜んでくれてたら、嬉しいですね。

ーーANIMAの今後のビジョンで、何か考えてらっしゃることはありますか?

大げさなことはあまり考えていないんですけど、ANIMAに関しては、シーンの中で定着した実感がまだあまりないので、こういう周年企画みたいなものを、周年関係なく日々やっていけたり、バンドにとって「ANIMAが最高のハコや」と思ってもらえるような店作りをしっかりして、着実に根付いていってほしいなと思っています。

取材・文=久保田瑛理 撮影=浜村晴奈

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