ウクライナ伝統の夏祭り 故郷に思い馳せたひと時 多摩区で「クパーラ祭」
在日ウクライナ人や、避難民らが多摩区の稲田公園に集い、遠く離れた戦火の絶えない故郷に思いを馳せていた――。
自然あふれる場所で
在日ウクライナ人らで組織されるNPO法人「日本ウクライナ友好協会KRAIANY(クラヤヌィ)」(東京都)が先月7日に主催したのは、夏至の祭り「クパーラ祭」(後援・日本財団)。同公園で祭りが開かれるのは昨年に続き2回目。なぜ、稲田公園なのか。「クパーラ祭は川や湖がある緑豊かな場所で集まり祝う。輪になり踊れるスペースも必要」と同協会の副理事長を務めるイーゴル・イェブトゥシュクさんは言う。同国では未婚の女性が花冠を作り、川へと流す。男性が好きな人の花冠を取れれば結ばれると言われている。稲田公園内にはせせらぎがあり、当日花冠を流す姿が見られた。
花冠や家族を守る「モタンカ人形」作りのほか、花や炎などを顔や手に描くペインティングのワークショップも行われた。これらの講師は、ウクライナの避難民らが務め、ステージでは歌やダンスなども披露された。チャリティーグッズや同国の菓子、伝統工芸品なども多数並んでいた。最後には伝統的な踊り「ホロヴォード」を集った人たちみんなで踊った。
在日ウクライナ人のほか、ロシアによる軍事侵攻から逃れて来日した避難民も来場。自衛隊中央病院(東京都)で療養する元同国軍兵士も訪れ、温かく受け入れてくれた日本に感謝を伝えた。
「一番好きな一日」
子どもの頃から同祭に慣れ親しんできたイーゴルさんは「イチオシの祭り。特別な一日なんだ。自然の中で、平和の瞬間を感じることができた。ホロヴォードを踊ったときは解放感があり、楽しかった」と振り返る。イーゴルさんにとって印象的だったシーンがある。「日本に避難してきた2年間で一番好きな一日だった」。そう、子どもに言われたという。「避難してきた人たちに故郷を思い出してもらえる雰囲気を作りたいと、準備を進めてきたから」とイーゴルさんは、充実した笑顔を見せた。
イベントに来てくれる、文化に触れ、興味を持ってもらえる。寄付するだけがサポート(応援)ではない――。そう信じながら、地域の協力も得て、家族で来てもらえる祭りを来年も企画していく。初めて参加したという多摩区に住む築地美津子さんは「遠く離れた日本に避難してきた方もいた。だけど、明るく、温かい雰囲気を感じた。ウクライナの食や音楽、踊りを楽しんだ。また、ぜひやってほしい」と感想を述べた。
文化なくなる危機感
取材に答えたイーゴルさんの母親・ナタリアさんは2022年4月に避難してきた。今回のクパーラ祭では「日本人に自国の文化を愛し、大事にしている姿勢を伝えられた」と話す一方で「このまま平和を実現できなければ、ウクライナの文化そのものがなくなってしまう。悔しい」と危機感をあらわにした。ザポリージャ出身で、結婚を機に10年に日本に来たリセンコさんは「ニュースを見ると、心が痛く、つらい気持ちになる」と表情を曇らせる。
同協会は戦争の影響を受けた人たちへの支援も多く展開している。現地の団体と協力しながら食料品や衣料品などの購入、防空壕(シェルター)建設も。詳細は同協会サイト。今回の祭りでハガキに書いてもらった応援メッセージなどは8月に同国に届ける。