【静岡市美術館 の「きもののヒミツ」展】きものは「着る物」であり、同時にキャンバスの役割も果たす
静岡新聞論説委員がお届けするアートやカルチャーに関するコラム。今回は静岡市葵区の 静岡市美術館 で12月21日まで開催中の企画展「きもののヒミツ 友禅のうまれるところ ―京都 千總コレクションを中心に」を題材に。
観覧者に女性が多い。平日昼間だったが、館内の8割は女性だった。和装もちらほら。「友禅」という言葉は、年代を問わず「あこがれ」を喚起するものなのだろう。
「きもの」は時に、絵画のように見える。カタログの冒頭の記述を引くと「一定の幅の反物を見頃、衽、袖、衿に直線裁断し、それらを直線的に縫い合わせることによって仕立てられた平面性の強い衣服」である。
広い面がある以上、そこにさまざまな装飾を施すようになったのは必然と言えよう。きものは「着る物」だが、西洋画におけるキャンバスのような役割も担っている。
支持体として捉えた場合、袖の部分は大まかに言って「T」の字の横棒に当たる。ここを含めてのレイアウトのセンスが問われる。今回展には江戸時代から現代までのさまざまな「きもの」が出品されているが、「レイアウト」をキーワードに見比べると面白い。
江戸時代(18世紀後半~19世紀初め)に作られた「打掛 白綸子地藤菱尾長鳥模様」は、藤の花をクロスさせて地の柄とし、その上にさまざまな色の尾長鳥を飛翔させている。あえて隙間を作り、全体のバランスと品位を整えている。飛び出すような形になる両袖にも、適切な位置に鳥を配している。
動植物を動的に配置する時代から順にきもののデザインを見ていくと、近年の計算され尽くした幾何学的な文様はひたすらシャープなイメージを与える。例えば1999年の森口邦彦「友禅着物『雪渓』」はグレー、ブルー、白、黒の三角形を組み合わせた文様が左斜め上を頂点にするようにセットされ、袖部分も含めて整然と並んでいる。まるでミニマルアートだ。
きものはもちろん「着る物」だから、自分の美意識を往来で公にするツールでもある。各時代に生きた人々が何を「美しい」と感じていたのか。今回展はそれを推し量る機会となった。
(は)
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■静岡市美術館
住所:静岡市葵区紺屋町17-1葵タワー3階
開館:午前10時~午後7時(月曜休館)
企画展料金(当日):一般1400円、大学・高校生と70歳以上1000円、中学生以下無料