光ファイバーの「神経」を持つドローンが登場。ドローンの定期メンテナンス問題[小林啓倫のドローン最前線]Vol.83
データ収集と分析に基づく運用効率のいい機体管理、光ファイバーの「神経」を持つドローンが示す可能性とは
航空業界では、航空機の機体稼働率が極めて重要な指標のひとつとなっている。航空機は客や貨物をのせて飛んでいれば利益を生み出すが、地上で待機している間は、コスト(保管費用やメンテナンス費用)だけがかかるだけの存在だからだ。
そのため航空業界では、機体稼働率を上げるためにさまざまな工夫を行っている。たとえばGE社は10年以上前から、航空機の機体に大量のセンサーを設置し、飛行中もデータを収集して機体の状態を把握。
それに基づいて、機体の潜在的なリスクをいち早く察知したり、予防的なメンテナンスを適時実施したりできるようにするというサービスを提供している。
GE社が提供する機体管理システム
こうしたデータ収集・分析は現在、多くの航空機において実施されるようになっているが、それが直接的な形で機体を頑丈にしてくれるわけではない。しかし機体の状態を監視し、いつ整備作業を実施するのが望ましいかを的確に掴むことで、ターンアラウンドタイム(空港での整備やスケジュール調整などにより航空機が一定時間地上にとどまる時間)を短くできるわけだ。
一方のドローンも、特に航空業界における旅客機や輸送機のように、商業利用される機体については、同様の問題が発生する。ドローン運用から利益を生むには機体稼働率を上げなければならないが、かといってドローンをずっと使い続けるわけにはいかない。
たとえばDJIは、Matrice 200シリーズなどのエンタープライズ向けドローンに対して、飛行時間等に基づいたメンテナンスサイクルを推奨している。その整備プログラムを見ると、機体の稼働開始からおよそ6カ月、あるいは飛行時間の合計が200時間に達するごとに、整備を実施するようになっている。特に稼働開始から18カ月/飛行時間合計が600時間に達した際の「プレミアム」メンテナンスでは、ハードウェアの点検、ファームウェアのアップグレード、外部クリーニング、モーターを含む各種部品の交換を行うとしている。
しかしこのメンテナンスサイクルは、あくまでDJIがこれまで蓄積されたノウハウに基づいて算出したものであり、確かに有益ではあるが個々の機体の状況に即したものではない。ドローンも航空機のような、データ収集と分析に基づく機体管理ができないものだろうか。
ドローンの「神経」となる光ファイバー
まさにその研究を行っているのが、英サウサンプトン大学の研究者らだ。同大学が先月発表したプレスリリースによると、研究者らは光ファイバーを使用して、ドローンに「神経」を張り巡らせるという技術に取り組んでいる。
サウサンプトン大学が公開した動画
このシステムは、生物の神経を模倣した光ファイバーを使用し、ドローンの機体に関するリアルタイムデータを収集・送信する。光ファイバーを使用する方式により、従来の電子的なモニタリングシステムで発生していた、無線による干渉という問題を解決できるという。主任研究者のクリス・ホームズ博士は、「これはドローンのための一種の神経系であり、電気ではなく光を使って情報をリアルタイムで送信することで、電子システムが直面する無線干渉の問題を回避できる」と述べている。
同システムは「光スペックル」という技術を使用し、ドローン構造内で検出された応力とひずみに基づいて特定の画像を取得。この画像はAIアルゴリズムによって解釈され、ドローン全体の健全性を評価し、潜在的な問題の早期発見を可能にする。
ホームズ博士は、「このスペックルシステムはドローンにかかる応力とひずみを追跡し、ドローンを頻繁に着陸させて点検することなしに、地上クルーが問題を早期に発見できるようにする」と説明している。
こうして点検頻度の削減することで、ドローンをより長時間運用できるようになる。またリアルタイムモニタリングにより、潜在的な問題を早期に特定でき、ドローンの安全性と運用効率が向上する。その結果、ドローンの全体的な運用コストが削減されるとされている。
この神経系システム」は、学部生が開発したドローンに実際に搭載され、正常に機能することが確認された。研究チームは2025年までにこの技術を商業化することを目指しており、運輸・物流セクターを始めとした、さまざまな産業での応用が期待されている。
冒頭で紹介したGE社の機体管理システムのような、航空機の状態をリアルタイムに把握して整備に役立てるという技術およびサービスは、既に現実のソリューションとして航空業界で市場を確立している。
ドローンについても、先ほどのDJIのように独自のメンテナンスサービスを提供している企業が登場しており、これから大きな市場を形成することだろう。サウサンプトン大学が開発したようなリアルタイムデータ収集システムは、今後スタンダードな技術として定着していくかもしれない。