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「3次元地質地盤図」とは何か。埼玉県南東部版で地域差がわかる地下の軟弱層や低地の軟弱さ

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大宮台地の地下にも軟弱な埋没谷があることが判明した

「3次元地質地盤図」とはどんなものか

今回お話を伺った産総研の中澤さん(右)とシステムに携わった野々垣進さん(左)

2011年の東日本大震災以降、地盤や災害のリスクに対する関心は年々高まってきている。
事前に危険な場所を知りたい、備えておきたいというニーズがあり、それに合わせて地図情報その他は進化してきたが、そのひとつに産業技術総合研究所(※以降、産総研)が作っている3次元地質地盤図がある。

これは国や自治体等が保有する既存のボーリングデータを集約、そこに産総研独自のボーリングデータを加えて地下の地質をWeb上で3次元にし、地下の様子を読み解こうというもの。
簡単にいえば今までは点として存在していたボーリングデータを集約することで面としての地下の構造を知ろうということである。

2018年3月に千葉県北部地域、2021年には東京都区部が公開されており、東京都区部版については過去に記事で紹介している。今回の埼玉県南東部版はそれに次ぐものである。

今回対象となった埼玉県南東部の地形。埼玉県の中でも人口が集中する地域が取り上げられている
過去の海水準(海面)の変動が沖積層を作った

実際の作業は国や自治体等の1万点以上に及ぶボーリングデータを地図上に立体的に表示。また、産総研で21地点のボーリング調査を行って、地層の堆積年代や堆積環境を調べ、基準となる地層の区分を設定。その地層区分をもとに公共工事のボーリングデータへ地層の対比・追跡を行い、独自技術で地層境界面を推定、3次元地質モデルを作成している。

今回対象となったエリアは大宮台地を中心に南西に川口市、戸田市などが立地する荒川低地、東に春日部市、越谷市、三郷市、草加市などが立地する中川低地が広がる地域なのだが、ふたつの低地には沖積層と呼ばれる軟弱な地層が分布している。

この軟弱層が堆積したのは約2万年以降。地球では過去40万年の間に4回の大きな氷期があり、氷期の間、海面は今よりもはるかに低いところにあった。一番最近の氷期は約2万年前が最盛期だったとされており、その後、温暖期が訪れて海面が上昇。氷期に作られた谷に海が入り込み、そこで軟弱泥層(沖積層)が堆積した。つまり、今、私たちが見ている、見て分かる低地の地下には約2万年前に作られた谷があり、そこを軟らかい堆積物が埋めているというわけだ。

荒川低地より中川低地はより軟弱で揺れやすい

低地の地下にある谷。南に行くほど深い

だが、同じ低地でも土地の硬さには違いがある。荒川低地と中川低地では中川低地はより軟弱で、その違いは過去のそれぞれの土地の歴史による。

まず、荒川低地。現在は荒川が流れているが、元々ここを流れていたのは利根川。それが分かるのはかつての蛇行跡から。非常に大きく蛇行しており、利根川クラスの大河が流れていたと推察できるのである。また、荒川低地は中川低地よりも少し山地に近い。結果、荒川低地の堆積物は大河が山から運んできた粗めの、砂が多いものになっている。

一方の中川低地は一時期大きな河川が流れていなかった時期があるようで、地表から30mくらいの深さにわたって縄文時代に内湾だった時代の泥層があり、ここが非常に軟らかい。4月の記者発表時には八潮市の道路陥没事故を挙げて同市の地盤について質問をした人がいたが、八潮市は中川低地に立地、地盤の軟弱なエリアである。

中川低地、荒川低地を比べると中川低地のほうがより軟弱

「地盤の強度を示すN値を用いて地域ごとの沖積層の特性をみると、荒川低地の沖積層は泥層を主体としながらも砂層をやや多く含む傾向があり、深度30mまでの平均N値は10前後が中心。一方で中川低地では泥層が卓越し、深度30mまでの平均N値は5以下(多くは3以下)で、極めて軟弱な地盤からなることが明らかになりました」と産総研地質情報研究部門情報地質研究グループ・中澤努さん。

N値とは地盤の強度等を調べる標準貫入試験の値のこと。63.5 kgのおもり(ドライブハンマー)を 76 cm の高さから落として、地面に垂直に立てたてたロッドの頭をたたき、ロッドの先端に付けたサンプラーが地盤に30cm 貫⼊するのに必要なおもりの落下回数をN 値として表したもので、値が大きいほど硬く、小さいほど軟らかい地盤であることを示す。

一般にN値が5以上あれば住宅(マンションの場合は高さ、用途などに別途戸建てより厳しい基準がある)は建てられるとされるものの、10以下では液状化の懸念を指摘する人も。

また、こうした土地では木造家屋が倒壊しやすい周期が1~2秒くらいの揺れで起きやすいとも言われている。中川低地は建物を建てる際、地震に対して相当の備えが必要な場所と言えるわけだ。

大宮台地の地下、大宮、浦和のあたりに深い埋没谷が

台地の下にも埋没した谷がある

平野部のもうひとつの地形は台地。埼玉県南東部の場合、前述の2つの低地の間に大宮台地が南北に伸びており、ここは長らく地震に強い場所と言われてきた。県庁のある県政の中心地浦和、商業の中心地大宮は住む場所としても人気で、特にコロナ禍以降は地元でなんでも揃う便利さが高く評価されるようになっている。

だが、台地だから安全とばかりは言えない。すでに公開されている東京都区部版では武蔵野台地の地下にも田園調布の西側から等々力、上野毛、瀬田、祖師谷大蔵、成城と世田谷区のかなりの部分を占める谷、中央線の中野駅あたりから新宿、代々木、渋谷から恵比寿、大崎、高輪、鮫洲あたりにかけての谷、それ以外にも小さな谷が点在していることが分かっている。その谷を埋めるように軟弱な地層があることが発表された当時、かなり話題になったのでご存知の方も多いだろう。

沖積層がどのようにしてできたかを海水準の変動から図化したもの

大宮台地でも同様に荒川低地に近い東側などを中心に地下に埋没谷があることが分かったのである。というより、この図を作ることになった契機はそもそも埼玉県がきっかけだったと中澤さん。

「大宮台地のボーリング調査データを見ていくと同じ標高でも側方に違う地層があったり、また硬い地層の下に軟らかい層があったりする。なぜだろうと興味を持ち、2002年以降に大宮地域の地質について論文をまとめるなどしていたのです。3次元地質地盤図としては千葉、東京都心部に続く3番目の公開となりましたが、台地の地下に何かあると思うに至った発端は埼玉でした」

この台地の下の埋没谷を作ったのは約14万年前の氷期。低地の谷が約2万年前だったことと比べるとそれよりも12万年以上前に作られたもので、その後の海進で木下層(きおろしそう)と呼ばれる軟弱泥層が堆積した。台地の下の谷は低地のそれよりもはるかに古いのである。

地下の谷がどこにあるのかを調べてみた

産総研、埼玉県南東部の地質地盤図トップ画面

では、低地、台地それぞれの地下の谷はどこにどのように広がっているかを3次元地質地盤図で見ていこう。画面の左上部に平面図、柱状図、立体図、断面図という表記があるので谷の深さを見る場合には平面図を選択する。

その少し下に平面図の選択というボックスがあるので、プルダウンで沖積層基底面を選択すると表示されるのが低地の下の埋没谷の底に当たる部分である。大宮台地を挟んで東に中川低地、西に荒川低地が谷の深さとともに表示される。荒川低地では戸田市あたりにいくつか50mほどの深い谷があり、中川低地では三郷市、八潮市から吉川市、越谷市など北側に45~50mほどの谷がかなり広範に広がっている。

深度と地名を一緒に見たい時には不透明度50%くらいに設定しておくと見やすくなる。

沖積層基底面を表示したもの。低地の下に広範に埋没谷が広がるほか、台地の上に川のような形で谷が見える

また、大宮台地上に南北に細長く沖積層基底面の谷が広がっているが、これは台地上を流れる綾瀬川、芝川などの下にも埋没谷があるということだろう。

「実際にはもっと樹枝状に谷があるはずですが、ボーリングデータでは把握できていません。現在3次元地質地盤図上に表されている谷の姿が実際の谷のすべてではないので、その点は注意が必要です」

全体として南側の谷が深くなっており、北側は比較的浅めになっているが、これは当時の河床勾配によるもの。最終氷期の時には今よりも海面が120~130mも低かったので今の河床よりも下流側への傾斜(河床勾配)が大きかったと考えられるのだ。

120~130mも海面が低かった状況はなかなか想像できないが、地球は誕生以来ずっと変化を続けてきた。もちろん、今も変化しているわけで、そう考えると目の前に見えているものだけで地球が理解できると思うのは大きな間違いであるというわけだ。

大宮台地は礫層が無く、全般に軟らかい

台地の下にある埋没谷を表示したもの。さいたま市の中心部の地下に広がっている

続いて台地の下の谷を見ていこう。今度は平面図の選択で木下層下部基底面を選択する。すると大宮台地の西側に谷があることが分かる。低地の谷のように40m、50mというほど深い谷はないが、30m、35mといった谷が点在しており、低地同様南側のほうが全体として深め。桶川、上尾より、大宮、浦和のほうが谷が深いのである。

「関東平野の台地の中では大宮台地は礫層(小石が主体となる層)が少なく、軟らかいのが特徴。武蔵野台地は多摩川が山から運んできた大きめの礫層が分布する武蔵野礫層があり、これが表層近くにあるため、土地は硬めになっています。

大宮台地では荒川の下流側にあたる大宮、浦和が軟らかく、台地の地下に軟弱層が厚く分布するさいたま市浦和区付近では、台地でありながら深度30mまでの平均N値が10前後と、荒川低地とあまり変わらない値を示すことがあきらかになりました」

浦和の辺りに濃い青のN値の弱い地点が点在していることが分かる
さいたま新都心周辺の地質立体図。濃い青が軟弱な地盤を意味するが一度硬くなった下に軟弱な層がある、サンドイッチ状の状況がわかる

この状況も3次元地質地盤図で見ることができる。具体的には左上で立体図を選択、地図上から見たい地域をクリック、出てきたボックスの中から表示を選択すると3次元の断面図が表出される。最初の時点では岩相(どのような土質かを表わす)になっているので、左上の表示で中央の逆さになった棒グラフ状のものをクリック。N値を表示させる。

例として掲出したのはさいたま新都心周辺の地質立体図。地表面の下にN値ゼロから10という軟弱な青い層が続き、一度硬い赤の層が出てくるものの、その下にまた軟弱な青い層があることが分かる。軟らかい層と硬い層がサンドイッチ状になっているのである。

つまり、比較的浅いところに硬い層があったとしても、それを建物の支持層(建築物の基礎を支える地層。支持地盤とも)と決めつけてしまうのは危険だということ。台地だから安全と思いこむのは危険ということである。実際には硬い層のすぐ下、より深い場所に軟弱層があって地震の揺れを増幅させたり、地盤沈下を起こす懸念もあるのだ。

これまでずっと台地は安全と考えられてきたが、研究が進むにつれ、これまで知られていなかった危険が姿を現しつつある。台地だからと安心せず、地盤調査は慎重に行い、十分に対策が考えられた住まいを選ぶようにしたいところである。

今後も千葉県北部地域や神奈川県東部など首都圏の主要部での地質地盤図、それ以降には名古屋など他の都市圏の3次元地質地盤図が作成される予定とのこと。知るのは怖くもあるが、今後の進展に注目したい。

■参考資料
都市域の地質地盤図(産総研)
https://gbank.gsj.jp/urbangeol/index.html

「3次元地質地盤図」は、今後も首都圏とそれ以外の都市圏で製作されていく予定だ

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