【サッカーの国際審判員誕生!】「強豪国には良いレフェリーがいる」ってどういうこと?「王国復活」へとつながる静岡サッカー界の取り組みを紹介!
静岡トピックスを勉強する時間「3時のドリル」。今回のテーマは「ワールドカップを目指す国際審判員」。先生役は静岡新聞の寺田拓馬運動部長が務めます。(SBSラジオ・ゴゴボラケのコーナー「3時のドリル」2024年3月27日放送)
藤枝市の大橋侑祐さんがW杯目指して国際審判員に
(寺田)今回はサッカーの審判の話です。藤枝市の大橋侑祐さんという方が国際サッカー連盟登録の国際審判員となりました。主審としては県内で31年ぶりの誕生になります。
大橋さんはワールドカップを目指しています。県サッカー協会を退職し、本県初のプロフェッショナル審判として夢の実現に挑むそうです。
(山田)おお、静岡県からサッカーの国際審判!
(寺田)大橋さんは、すごいんですよ。国際サッカー連盟主催の大会を担当することができるトップレベルの審判員で、国内に男女合わせて24人しかいないんです。
(山田)狭き門!
(寺田)しかも主審は11人だけ。
(山田)主審ってレッドカードやイエローカードを出す人ですよね?
(寺田)そうです。県勢では1994年に就任した小川佳実さん以来2人目なんですね。大橋さんも高校までは選手としてプレーしていました。静清高でキーパーだったそうです。高校最後の全国選手権県大会でレギュラーを勝ち取ったそうです。
審判を志したのは部活動の一環で4級資格を取ったのがきっかけでした。2010年のワールドカップ南アフリカ大会で日本人審判の西村雄一さんの姿を見て憧れたそうなんです。西村さんは南アフリカ大会4試合で主審を務めて、高い評価を受けて決勝でも第4の審判だったんですよね。
(山田)はいはい。話題になりましたよね。
審判でご飯を食べていく
(寺田)大橋さんは当初、高校を卒業したら就職しようと考えていたみたいなんですが、ワールドカップのピッチに立ちたいと審判を仕事にすると決めた。それから静岡産業大に進学して審判活動に打ち込んで、実力と経験を評価されて4年生の時には1級資格を取ったんですね。
(山田)一級資格を取るとどうなるんですか?
(寺田)Jリーグでも笛を吹けるようになるんです。卒業後は民間企業の勤務を経て県サッカー協会で働きつつ、Jリーグなどでさらに経験を積みました。
努力を続けて今年の1月、県内で初めて日本サッカー協会とプロフェッショナル契約を結びました。審判員って本当は別に本業があって、副業としてやる方が多いんですが、大橋さんは退路を断ってプロに。
(山田)おお。審判でご飯食べていくってことですよね。
(寺田)大橋さんは現在30歳。プロとして期待以上の成果を上げ、2030年、34年のワールドカップに繋げたいと。
(山田)楽しみですね。
(寺田)本県の審判員でワールドカップのピッチに立った人はいないですからね。未踏の地、目指してるんですよ。
女性の一木千広さんも国際審判に
(寺田)紹介したい方がもう一人。女性として県内で初めて国際審判員になった方がいます。静岡市の観光交流文化局に勤務する一木千広さん。大橋さんよりも一足早く、昨年、副審として国際審判員になりました。
国内で女性の国際審判員は主審副審合わせて8人しかいないんです。その中で一木さん、29歳なんですけども就任時最年少でした。
(山田)すごい。
(寺田)一木さんも磐田北高までは選手としてプレーしたんですけども「プロになる才能はない」と見切りをつけて、審判の道を選んだんですね。
常葉大学の在学中に国内最高ランクの女子1級審判に合格して、国内女子プロリーグのWEリーグで経験を積みました。
(山田)なるほど。
(寺田)女子は2027年にワールドカップブラジル大会があるんですよね。それに向け静岡市職員の仕事と両立しながら研鑽を積んでいます。
(山田)2人の話を聞いていると、ピッチに立つことへの特別な思いが伝わってきますね。
(寺田)そうですよね。選手としては目指せなかったけど、審判としてワールドカップの舞台に立ちたい。サッカーが好きっていう思いでしょうね。
(山田)伝わってきますね。
静岡県サッカー協会が取り組んできた審判育成
(寺田)もう一つお伝えしたいのは、大橋さんと一木さん、本県から続けて2人の国際審判が生まれたのは偶然じゃないということ。
(山田)どういうことですか?
(寺田)サッカーには「強豪国には良いレフェリーがいる」という格言があります。選手が安心してプレーするために、試合を通じて技術を向上させるためには、良い審判が必要不可欠なんですね。サッカー王国の再建に向けて、県サッカー協会は全国に先駆けて10年ほど前からユース世代の審判の育成を本格化させました。その成果が花開いてきてるんです。
(山田)サッカー王国静岡だからこそ!
(寺田)今小学生、中学生の試合はもちろん、高校の県総体や全国選手権県大会でも高校生のユース審判が担当する試合があるんです。
(山田)そうなんですか。
(寺田)王国再建に向けて、土台作りは着実に進んでいます。
(山田)なるほど。
AIには難しい?審判に求められる4つの役割とは
(寺田)最近は「AI(人工知能)は審判を務めることができるか」という議論がありますが、山田さんはどう思いますか?
個人的には審判の役割は4つあると思っています。1つ目は競技のルールにのっとって試合を進行すること。2つ目は反則の有無や得点、技の優劣から勝敗を判定すること。3つ目は選手とコミュニケーションを取ってフェアプレーを促すこと。4つ目は試合をコントロールして観客が楽しめるゲームメークをすること。こうしたことをAIができるかどうか。
(山田)やろうと思ったらできると思うんですよ。例えばラインなんて多分レーダーで見ておけば、ゴール判定が違うかどうかって分かる。接触プレーだってファールかどうかは、AIに任せればできると思うんですけど、試合の流れを見極めて、例えば「これはシュートにつながる時のファールだからダメ」とか、そういうのはまだできないんじゃないかな。
(寺田)試合の進行とか反則の判定だけだったらできるかもしれないとは思うんですけど、「誰もが楽しめる試合にする」って考えると、ちょっとやっぱり抽象的な部分が多いですし、人間でも迷いますよね。審判によって判断が分かれる部分がある。「ここは流した方が試合がスムーズに進むな、観客を楽しませることができるな」っていうのはなかなか難しいと思うんですよね。
(山田)難しいですよね。
(寺田)審判員って強いメンタリティが必要です。周囲に影響されずに任務を遂行する強い意思と責任感を持つ必要がありますし、確固たる信念とか哲学、人間性も試されるんですよね。選手はもちろん観客からも信頼されないと、審判は試合をスムーズに進めることができないですよね。
(山田)うーん。
(寺田)大橋さんに「どんな審判になりたいですか」と聞いたら、「選手の魅力を最大限に引き出すレフェリーになりたい」と仰っていました。正しい判定は当然なんですが、選手の魅力まで引き出す審判になりたいと。「強豪国には良いレフリーがいる」って、こういうことなんだと思います。
(山田)つながるわけですね。
(寺田)審判はうまくいって当たり前で、ミスがあるとネット上で叩かれちゃったりしますよね。人間だから失敗することもあると思うんですよ。プロの世界では映像やAIの活用で正確なジャッジができる環境整備は進めるべきだと思うんですよ。ただ、選手や観客も審判に敬意を払って一緒に試合を作っていくという意識が必要ですよね。
(山田)そうですね。小学生、中学生の試合で親御さんが熱くなっちゃったりするのはしょうがないんですけど、それで審判に文句を言ったりするのは…。
(寺田)その試合の担当が高校生のユース審判だったとしても、みんな覚悟を持って臨んでますから。
(山田)そうですよね。
(寺田)審判へのヤジは厳につつしんでもらって、選手と観客はフェアプレーを心掛けてほしいですね。試合を楽しく見るためには、審判を信頼することも必要かなと思います。
(山田)そうですね。AIもうまく活用してね。本当にこれから静岡の2人には頑張ってもらいたいですね。2人が出た国際試合を静岡県民が応援する。そんな日が来るといいですね。今日の勉強はこれでおしまい!