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【たたく殴る❝手が出る子❞】対人トラブルを起こしてしまう「他害」の原因・背景と、その子どもへの寄り添い方[小児科専門医監修]

こそだてまっぷ

学校生活で、子どもが友だちに手を出してしまう――。保護者にとっては大きな悩みのひとつ。もしもそのようなことがあった場合、我が子にはどう接し、相手の子や保護者にはどう対応すればよいのでしょうか。

今回は、多くの子どもの診療経験から子どもが抱えるさまざまな病気・障害・問題に詳しく、児童相談所嘱託医でもある小児科医の森博子先生に、手が出てしまう子の原因・背景と、そんなの子どもへの寄り添い方を伺いました。

手が出る子の特徴は4タイプ

子ども同士のケンカがおこったときに、相手をたたいたり殴ったりする子どもがいます。このような❝手が出る子❞(他害※1)というと乱暴な子、意地悪な子……といったネガティブなイメージを持たれがちですが、実は子どもはたたきたくてたたいているわけではありません。

「ダメだと分かっているのに手が出てしまう」というのは、脳の前頭前野(ブレーキをかける役割)が未発達であることが背景にあります。特に発達特性があるお子さんの場合、感情が高ぶると、考えるより先に体が動いてしまう傾向があります。

手が出るということは子どもからの❝SOSのサイン❞。心の中に抱えている辛い気持ちが、行動になって表れてしまっている状態です。なので「どうしてたたくの!?」「やめなさい!」と頭ごなしに叱るだけでは何も解決しません。

例えば、「相手にちょっかいを出された」「思い通りにならなかった」「急な予定変更があった」など、脳がストレスを受けたタイミングがあるはずです。

手が出ている――今この瞬間、子どものSOSのサインに気づいてあげることが最も大切なのです。

このような他害傾向にある子どもは、大きく4つのタイプに分けられます。❝手が出る❞には、原因・理由・背景が必ずありますので、まずはどのタイプかを見定めましょう。

【❝手が出る子❞の4タイプ】

①衝動性タイプ
感情を抑える前に体が動いてしまう。言葉で表現するよりも先に手が出る。
注意欠陥多動性障害(ADHD)※2の特性からくるものであることも多い。

②感覚過敏タイプ ※3
からだを触られること、大きな音・声などを聞くことが強いストレスとなり、反射的・無意識に手が出る。

③二次障害タイプ
子ども本人の特性が根本にあることで、周囲とうまく関われないことが原因となり「分かってもらえない」「大切にされていない」という思いが積み重なる。この諦めや怒りといった感情から手が出る。

④家庭環境や愛着の問題に関わるタイプ
家庭内で子どもが暴力を受けることが当たり前になっていることなどで、子どもが「何かあったら叩いてもいい」と誤学習している。またこのような虐待やネグレクト、極端に不安定な養育環境で育った場合、子どもの愛着形成※4がうまくいかず、対人関係や感情の安定に影響が出てしまい、手が出る。

このように子どもの「手が出る」にも、土台にある特徴はそれぞれ違います。特に“手が出る=家庭のしつけが悪い”という誤解は、子どもと保護者をますます孤立させてしまいます。しつけの問題ではなく“伝える力”の課題として支援が必要なサインとも言えるのです。

※1他害:「他者に対して害を加える行為」のこと。(例)たたく、蹴る、物を投げつける、暴言を吐くなど、身体的・精神的に相手を傷つける行動が含まれる。
※2注意欠陥多動性障害(ADHD):「Attention-Deficit/Hyperactivity Disorder」の略称で、発達障害のひとつ。主な特徴は、不注意(注意が続きにくい)、多動性(じっとしていられない)、衝動性(考える前に行動する)に分けられる。
※3感覚過敏:音・光・匂い・肌ざわり・味など、五感(聴覚・視覚・触覚・嗅覚・味覚)への刺激を人より強く感じやすく、不快や苦痛につながりやすい状態のこと。
※4愛着形成:子どもが特定の大人と安心できる信頼関係を築いていく過程のこと。

「手が出る」状況を減らし改善する3つのポイント

では「手が出る」子どもには、どのように対処すればよいのでしょうか。

まずは①手が出る前 ②手が出ている最中 ③手が出た後、の3つに分けて考えます。場面ごとに対応を積み重ねることで、子どもの「手が出る」回数や頻度を減らすきっかけにすることができるでしょう。

手が出る前

どういう場面で手が出やすいか? をよく観察することで予防できる
まずは普段からお子さんを観察し、手が出る行動の“背景”を見立てることが大切です。
例えば、原因は“言葉で気持ちを伝える力が未発達”、“相手の表情や距離感を読むのが苦手”“急な予定変更でパニックになりやすい”など、さまざまです。
そこに、きっかけとなる出来事が絡みます。「遊んでたら急に顔を触られた」「相手が急に怒鳴ってきた」など。これによって「急に黙り込む」「目が泳ぐ」「落ち着きなく動き始める」といった“サイン”が出ることがあります。表情や声のトーンが変化することも。この❝手が出る予兆❞を保護者や周りの支援者が知っておくことが重要です。学校生活のことは、担任や支援員の先生に「手が出る前、何がありましたか?」と、状況を聞いてみましょう。

❝手が出る予兆❞が出たら、「外に出る?」「お菓子食べる?」など、すぐ環境を変えて、子どもが気分転換できるようにしましょう。予兆を察知できれば、手を出すこと自体を止めることが出来る=予防できる、ということです。

手が出ている最中

すぐに❝環境❞を変えることで落ち着き、冷静に考えられるようになる
もし手が出た時には、「なぜやったの?」と問い詰めるよりも、まずは脳が興奮している状態を落ち着かせることが先です。感情が暴走している状態では、本人もなぜ手が出たのかを言葉にできません。
周囲の子どもやモノ、そして本人が傷つかないよう安全面を考え、まずは距離をとります。子ども同士、目に入らないよう両者を別室に移動させたり、大人が間に入るなどして、子ども本人が冷静になれるまで安心できる場所(別の教室・自宅の子ども部屋など)で過ごすことが大切です。

このとき「やめなさい!」「ダメでしょ!」など、否定するような言葉や叱責は絶対にNGです。余計に興奮させてしまい、その後の解決に時間がかかるなど、相手の子どもとの関係悪化にもつながります。また、興奮状態がおさまっていないのに「❝まずは❞謝りなさい」と、子ども同士を向かい合わせて❝すぐに❞謝らせるのも実はNGです。興奮状態では、本人が理解したうえで謝ることが難しいからです。落ち着くまでは環境を変えて、向き合えるまで❝待つ❞ことが大切です。

手が出た後

自分のしたことを理解させる❝対応❞を取り入れる
冷静な状態になってから「怒って手が出ちゃったんだね」と、まずは怒らずに寄り添い、手を出してしまったことを認識できるよう、優しく声を掛けましょう。子どもが❝怒った❞ことを周囲が認めて受け止めてあげることで、子ども自身がハッとするはずです。

子どもが落ち着いた様子になってから「どうしてたたいちゃったのかな?」と、手が出た背景を子どもといっしょに考えましょう。子ども同士のケンカやトラブルを掘り下げて聞いていくと、❝手を出した方の子が100%悪い❞、ということは実際にはほとんどありません。「嫌なことを言われたのが原因でたたいてしまった」「うまく言い返せなかった」など、子どもなりに手を出してしまった原因が必ずあるのです。

手を出した理由を保護者が理解したうえで、「次はどうしたらいいか?」をいっしょに考えます。このとき「自分がたたかれたらイヤじゃない?」と聞いても子どもは「別にたたかれてもいいもん!」と、自分に対しては無頓着な解答をすることが多々ありますので、「ママがたたかれたらどう思う?」「ペットの〇〇ちゃんがたたかれたらどうかな?」など、子どもが大切にしている存在を例にあげて聞いてみてください。すると「それはイヤだ!」となり、❝たたく=ダメなこと❞だと認識して、向き合えることが多いです。

このように子どもの気持ちに寄り添って、いっしょに対応策を考えられるとよいでしょう。

「手が出る」ことに対する、周囲の子どもや保護者との関わり方

トラブルになると先生や保護者は、手が出た方の子どもに❝謝らせること❞に注力してしまうことが多々あります。そして「(まずは)ごめんなさい」と言ったら、とりあえず解決――という流れがありがちですが、それでは真の意味で解決したとは言えませんし、子どもの反省にもつながらず、納得もできません。

では、どうすればよいのでしょう。学校で「手が出てしまった」ことを想定して以下にお伝えします。

我が子が手を出して、お友だちを傷つけてしまった場合・・・・・

ステップ1:我が子が気持ちを整理する時間をつくる

我が子が落ち着いたあとに話を聞き(前出「手が出た後」の対応)、相手の子には(必要な場合は担任の先生にも)「なぜ手を出してしまったか?」を伝えます。我が子に❝謝る気持ちが生まれるのを待つ時間❞をつくって、まずは寄り添い、我が子の味方になりましょう。

ステップ2:「ごめんね(自分の気持ち)」を相手に伝えられるよう促す

❝謝ること=自分の気持ちを伝えること❞が大切だと伝えましょう。「ごめんね」「次はしないようにするね」と言葉にしたり、直接が難しい場合は手紙を書いたりして、我が子の思いを相手に伝える手伝いができるとよいでしょう。手紙などで自分の気持ちを伝えることは、言葉でうまく表現するのが苦手なお子さんにとっては、自分を整理する助けにもなります。

もちろん手を出されてしまったお子さんの気持ちにも、丁寧なケアが必要です。
子ども同士の関係性の中で、“されたこと”が納得できずに心の傷になることもあります。
“どちらが悪い”ではなく、“あなたの気持ちも大事だよ”と大人が丁寧に寄り添っていくことが、両方の子どもたちの安心につながります。

ステップ3:相手の子どもと向き合う時間をつくる

担任の先生や支援員の先生が同席の上、子ども同士で向き合う時間を設けられるようにしましょう。きちんとお互いの思いを伝え合い、仲直り(解決)することがいちばん大切です。

相手の子の保護者が絡んでいる場合、先生を交えながら傷つけてしまったことに対して改めて保護者として謝りながらも、我が子の事情・思いを説明できるとよいでしょう。

ステップ4:クラス全体に対応策を伝える

クラス全体に特性を理解してもらうことで、トラブル自体が減り、友達関係も深まります。子どもたちへは担任の先生から呼びかけてもらったり、場合によっては保護者会などで我が子について、自ら説明したりすることも方法のひとつです。

このとき、たとえ他害の原因が発達特性に起因するものだとしても、保護者や先生が「発達障害です」とラベルのように診断名を伝えるのではなく、「大きな声を上げられるとビックリしてしまいます」「言葉で自分の気持ちを伝えるのに時間がかかります」などと、具体的に伝えることが有効です。

「手が出る」ことの原因・背景を理解することは、お互いの学びになります。こうして子どもの安心感が増すことで「手が出る」ことが少なくなっていくでしょう。

実際の成功事例

❝落ち着いてから謝れた❞という経験は、子どもにとって大きな成功体験です。さらにその後、より仲良くなれたという事例もよくあります。

【「触らないでね」とクラス全体に説明(2年生/男子)】
「息子は、体を触られることがすごく不快に感じる、感覚過敏があります。担任の先生に相談し、クラスの子どもたちには❝触られるのが得意じゃないから、触る以外のことで伝えよう❞と、説明してもらいました。そうすると、子どもたちはそれをスッと理解し、息子に触れなくなったんです。あるとき手が出てしまったことがありましたが、理解している子が「そういうことするの(触るの)やめなよ!」と、ふざけて息子に触ったことを見てくれていたようで、息子の安定につながり、手が出てしまったことを謝ることができました。今では手を出さなくなり、クラスで楽しく過ごしています。」

この事例から言えることは、
●クラスの中で理解が広まった
●「手を出す」原因そのものが減った
●味方になってくれる友だちができた

このお母さまは、子どもの特性をクラスに伝えるかどうか悩まれたようですが、伝えたことで「子どものための❝環境❞を整えてあげられた」とおっしゃっています。周囲への理解を願い、勇気を出して学校へ相談されたことに拍手です!

もちろん、クラスに伝えることに不安を感じる保護者の方も多いと思います。ですが、「わが子が安心して過ごせるために、環境を整えていく」という視点で周囲と関われると、親子の心がぐっと軽くなることがあります。

手を出す側・出された側、それぞれの背景や気持ちに目を向けながら関わっていくことで、クラス全体が少しずつ安心できる場になっていきます。そんな関わりが、子どもたち一人ひとりにとっての大切な“学びの時間”になるといいですね。


「手が出る」は❝子どものSOSのサイン❞です。しっかり背景を理解し、子どもが安心できる環境を整えることがトラブルを減らす第一歩です。子どもたちは学ぶ力を必ず持っています! 大切なのは“やめさせる”ことよりも、“どうすれば言葉で気持ちを伝えられるか”を一緒に育てていくこと。
子どもが“わかってもらえた”“自分にもできた”という成功体験を積むことが、行動の安定につながっていきます。

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