駄菓子屋にカフェに御用聞き。重い知的障害がある人が通い、働く生活介護事業所「ITSUMO」
千葉市若葉区の住宅街にある、生活介護事業所「ITSUMO(いつも)」。重い知的障害がある利用者が、食事やトイレの介助を受けながら、それぞれに仕事をしています。崎山記者が取材した日は、19歳から27歳の16人の利用者がいて、始業時間の午前10時、1人の利用者と職員が、外に出てきて、施設の前の道路沿いに「駄菓子屋」と書かれたのぼりを立てました。「駄菓子屋ITSUMO」のオープンです。
駄菓子屋ITSUMO
「ITSUMO」では利用者をスタッフと呼んでいますが、人と関わるのが好きなスタッフが職員と一緒に駄菓子屋でお客さんを迎えます。「御用聞き」担当のスタッフもいます。地域の住民からの依頼に応じて、庭の草取りとかポスティングといった仕事に出向きます。ちょっと根気がいりそうな作業に自分のペースで取り組めるスタッフは、飲食店で廃棄処分になったカキの殻を細かく割る仕事の担当。最終的には粉末状の肥料として、地元の農家に販売しています。それぞれの特性にあった仕事を担当しているんです。
ITSUMOのカフェ
カフェもあります。職員とスタッフが前日の食器類を洗ったり、片づけたりと準備する様子を見ながら待っていると、お昼を過ぎてから、学校帰りの子供たちが次々と現れました。暑い日だったので、みんなかき氷にクリームソーダなど冷たいものを注文します。カフェの席は、ごろごろできる座敷や、エアコンの効いた個室など様々ですが、どの子供も勝手知ったるという感じで、思い思いに過ごしていました。ソフトドリンクや、たこ焼きなどの軽食のほか、「缶詰バーmr.kanso」と提携して、スタッフが皿に移して温めるという簡単な作業でできる、様々な缶詰を取り揃えています。
ITSUMOのカフェには缶詰も並ぶ
また、ITSUMOを運営する「ベストサポート」が、近辺の貝塚でよく出土するイボキサゴという貝の出汁を使ったパスタソースや混ぜご飯の素の缶詰を開発、最近、売り出しました。地域貢献の一角も担おうというものです。
お昼過ぎからは駄菓子屋にも、子供たちや、子や孫を連れた大人たちが次々と立ち寄ります。孫を連れた女性は「母親が働いてるんで、学校や幼稚園が早く終わると、孫を迎えに行って、それで私の家まで帰るんですけど、その間にここはあるから、もう寄る寄るって、催促するんですよ」と話し、孫と一緒の買い物を楽しんでいました。
接客のスタッフが、お客さんが選んだお菓子を新聞紙などを再利用した袋に詰め、職員が会計を担当します。その後ろでは、別のスタッフが黙々と袋を作っていました。
駄菓子を入れる袋作り
「ITSUMO」がオープンしたのは4年前。支援リーダーの上田志保さんによると、きっかけは、他の生活介護事業所で、人と関わることが好きだけど、することはパズルのようなことばかりだった利用者が、たまたま他の利用者をたたいてしまい、職員が止めようとすると、自分を人がかまってくれるんだと余計そういう行動が増え、対応できない、となっていられなくなった。そういう人の受け皿を作ろうということでした。その利用者は、御用聞きの草刈りなどを担当していますが、仕事をして、地域の人に感謝されるといった体験を積み重ねているうちに、そういう行動はほとんどなくなったということです。上田さんは、「ITSUMO」のスタッフ(利用者)との接し方について「同じ職場で働く同僚として接してるっていうのは、とても大きいかなって思ってます。その上で、同僚がもしこういう行動をしたら止めるであろうというところは、スタッフの場合も止めたりとか、ここは自分でできるであろうっていうところをどんどん伸ばせるようにする。もちろん、ちょっと手を出して手伝ってしまえば、簡単なところもあるんですけども、そこはあえて職員は手を出さずに見守って、スタッフにやってもらうっていうのをすごく大事にしています。そこで個々の力をどんどん伸ばしていっているっていうふうに思っていただけたら、嬉しいなと思います」と話していました。
通う日数によって違いはありますが、平均でひと月9000円ほどの給料をもらっています。重い知的障害があり、周りに支えられながらも、一方で、地域を支える仕事を自分はしている、地域の人に必要とされている、と感じているのかもしれません。
千葉市若葉区にある生活介護事業所「ITSUMO」の駄菓子屋にカフェに御用聞き。障害のある人達が地域に溶け込んで働く場を作る一つの試みとして、注目されているということです。