外国人にわかりやすい「やさしい日本語」実践講座
みなさんは「やさしい日本語」という言語ツールをご存知でしょうか。
「やさしい日本語」とは、外国人にもわかりやすいよう簡単にした日本語で、阪神淡路大震災をきっかけに日本語が得意でない人たちへ情報発信方法するためのツールとして研究が始まりました。「やさしい日本語」は難しい日本語を簡単に言い換え、わかりやすくした言葉です。おもに来日して1年から5年程度、日本語初級レベルの外国人への生活支援、教育、交通、医療などの情報発信に使われます。
そうした言葉のツールを日本人が使えるように学習するイベントが「やさしい日本語実践講座」です。 講座は狛江市のNPO法人「こまえにほんごしえん・日本語スクール」が主催、八王子の市民団体「kokohana やさしい日本語でつながる八王子の会」の方々が講師をつとめました。受講した日本人は25人、そのほか中国、ネパール、フィリピン、ポーランドで生まれ、現在日本に住んでいる外国人6名がトークパートナーとしてゲスト参加しました。
日本には外国で生まれたり、親が外国人の人が多く住んでいます。その人々の母語(自然に話す言葉)は公共施設・交通機関などに表示されている英語や中国語、韓国語だけでなくポルトガル語、フィリピノ語、ベトナム語など多様です。日本に住んで数年経ち、少し日本語が話せるようになった人たちには日本語での情報発信も有効です。ただ、日本に長く住む人が日常、ごく普通に使っている日本語にも滞在年数が1年~5年程度の外国人にはわかりにくい言葉があります。たとえば漢字の熟語、カタカナ言葉、尊敬語・謙譲語などです。「やさしい日本語」はそれらを簡単な日本語に置きかえ、わかりやすくします。「やさしい日本語」の「やさしい」には「簡単な」という意味と「思いやる」というふたつの意味が込められています。
「いらっしゃいますか?」は「来ますか?」に言い換え
講座では6つのグループに別れた受講者が「やさしい日本語」の考え方や使い方をトークパートナーの外国人の方にしっかりと伝わっているか確認しながら進めるロールプレイング方式で学びました。
たとえば、尊敬語の「いらっしゃる」という言葉の意味をトークパートナーに聞くと「わかりません」と答えました。そこで、それを「です」「ます」を使った簡単な言葉への言い換えをみんなで考えます。「何時にいらっしゃいますか?」という問題をひとりの受講者が「何時に来ますか?」と答えました。トークパートナーは「わかります」と応じます。このことから「いらっしゃいますか?」よりも「来ますか?」のほうが伝わりやすいことが分かりました。
また漢字の熟語、カタカナ言葉もわかりにくいです。配布されたワークシートで「植物の観察」や「リサイクル」を簡単な日本語に置き換える問題がありました。かなり難しいと問題と感じました。みなさんも考えてみてください。そうした講師から出される問題を、グループの人たちで翻訳し、トークパートナーに確認しながら正解に進めるので、とても実用的でした。
「やさしい日本語」には「はさみの法則」という3つのポイントがあります。「はっきり言う」「さいごまで言う」「みじかく言う」の3つです。「はっきり」「さいごまで」「みじかく」の頭文字をとって「は・さ・み」の法則です。たとえば私たちがなんとなく使っている「大丈夫です」という言葉や、「ここではちょっと…」などの会話が日本語初級の人には意味不明になるため、はさみの法則で「いいです」「だめです」などに置き換えるように教えられました。こうした練習は、私たちが日常使っている言葉を改めて考えるきっかけにもなります。
日常的に「やさしい日本語」を使う人が増えてほしい
主催した「こまえにほんごしえん・日本語スクール」は2021年に市民団体として設立、24年にNPO法人になり、外国人児童への日本語指導、生活適応サポートなどさまざまな取組みをしてきました。現在30人ほどの登録メンバーがいて、児童が学校で受けとるプリントを「やさしい日本語」に翻訳する支援なども行っているそうです。今回の講座に参加したトークパートナーは同NPOが開催している日本語スクールや文化交流イベントに参加している人たちです。代表の檜垣寿子(すみこ)さんに、イベント開催の理由を聞きました。
「狛江市は近隣の市町村に比べて外国人サポートが少し遅れていまして、その中で私たちはもともと児童を対象にサポートしていたんですけど、学校や行政の現場で、難しい日本語が使われてしまうんですね。たとえば外国人の児童が転入してきて、転校手続きがありますね。そこで分からない日本語の書類を大量に渡されるというのがありまして、私たちがそこにいて教えられればいいんですけど、毎回私たちが出向いていってサポートするというのはとても難しくて、だったら直接外国人の方と接する人たちがやさしい日本語を使えれば自然なサポートの輪が広がるんではないかと思いまして、今回、やさしい日本語をテーマにいたしました」(NPO法人こまえにほんごしえん・日本語スクール 代表の檜垣寿子さん)
東京都でも在留外国人の多い地域では行政、教育、医療などの場で「やさしい日本語」を使って対応しているところもあります。しかし狛江市など東京西部地域は比較的外国人の人口が少なく、行政のサポートが追いついてない場合もあります。そうした地域でも、日常的に「やさしい日本語」を使う人が増えてほしいと 「こまえにほんごしえん」は今回、初めてこの「実践講座」を開催したそうです。感想を、日本人の参加者と、トークパートナーとして参加していたフィリピン出身の女性に聞きました。
「私はNPOの日本語支援の団体に入ってまして、勉強会ということで知りました。熟語などをわかりやすく外国人の方に伝えるのはとても難しくて、気をつけて使いたいと思いました」(日本人の女性)
「僕も日本語支援に入っていて、そのPRで知りました。日常使っている日本語がいかに難しくなっているか、というのをまざまざと知らされたという感じです。何回か受講して、身についていくのかなと思いました」(日本人の男性)
「私は日本語教師をしていたので、市役所の書類とかが、もっとわかりやすい日本語になればいいなと思ってたんです。単なる方法として勉強したんではなくて、各テーブルに外国人の方が入って、わかるかどうか伝えてみましょうという機会はなかなかないので、本当にいいプログラムだなと思いました」(日本人の女性)
「難しい言葉はほんとにわかりませんでした。だからもう一度お願いしますと、お願い(した)こと(が多い)です。やさしい日本語は楽しかったです。やさしく、短くなって、だから、すごいありがたいですよ」(フィリピン出身の女性)
今回の講座の日本人参加者は、外国人の日本語支援に関わる方が多かったのですが「こまえにほんごしえん・日本語スクール」代表の檜垣さんは「やさしい日本語」を使える人材をもっと増やして教育の現場だけでなく、多くの場面で外国人の支援体制を広げていきたいと話していました。同NPOは毎月3回程度、文化交流イベント「にほんごサロン」を開催しているほか、今後、冬に向けて「やさしい日本語」を使って防災ポイントや防災用語を学ぶ外国人向けの防災訓練などを企画しているそうです。