「お漏らし覚悟で食べたい!」脂乗りすぎ注意の美味なワックス魚『アブラソコムツ』
インターネットで密かに愛される「危険な魚」アブラソコムツ。とても特殊な食中毒を引き起こす一方、その味のファンも多いです。
危険すぎる珍味
我が国において、食材に含まれる「脂肪分」はその食材をアップグレードするために欠かせないもの。「脂の乗った」という言葉が最高の褒め言葉の一つであるのは誰もが認めるところです。
しかし、なかには「脂が乗っているので危険」という魚も存在しています。そのひとつが「アブラソコムツ」です。
この魚は全身にコッテリと脂が乗っており、刺身で食べると大トロすらも凌駕する口溶けを感じます。焼いて食べればノルウェーサバと銀だらの中間のような味わいがしてとても美味です。しかし恐ろしいことに、食べて数日するとその「脂」が、肛門から漏れて出てきてしまうことがあるのです。
どうして漏れてしまうの?
アブラソコムツの脂は、一見すると大トロのそれと同じように見えます。しかし素手で触ってみるととてもサラサラとしており、魚臭さも少なく、肌にスルッと吸い込まれるような質感です。
この脂は「高級脂肪酸ワックスエステル」と呼ばれるもので、一般的な魚の脂肪である「DHA」「EPA」あるいは多くの食品に含まれる「オメガ脂肪酸」「トリグリセリド」とは素性が異なるものです。ワックスエステルは我々の皮脂などに含まれる一方、消化管内で分解、吸収をすることができません。
そのため、吸収できなかった脂がまとまって排出されてしまうのです。たくさん食べてしまうと排出される脂の量も多くなり、肛門括約筋で堰き止められず「お漏らし」という最悪の形で対面することになります。
世界では愛されている
そんな危険な魚であるアブラソコムツ、かつては食用魚とされていましたが、現在では食品衛生法で流通が禁止されています。そのため一般の人の口に入ることはありません。
しかし、世界的にはこの魚を食用にする地域は少なくありません。欧米では「エスカラー」あるいは「ホワイトツナ」と呼ばれており、美味しい魚としてレストランで提供されています。
どんな食材でも、加熱をすると脂が融解して落ちます。アブラソコムツももちろん例外ではなく、しっかりと加熱することでワックス含有率を相対的に下げることが可能です。そのため日本ほど魚を生食しない海外においては結果として「お漏らし」のリスクが低くなっているのでしょう。
<脇本 哲朗/サカナ研究所>