エイジフレンドリーとは何か?介護現場で高齢者が活躍できる職場づくりのポイント
エイジフレンドリーの定義と必要性
エイジフレンドリーとは?
エイジフレンドリーとは、高齢者が安全かつ健康に働ける環境を整備するための取り組みを指しています。具体的には、年齢に応じた身体機能の変化を考慮し、職場環境や業務内容を適切に調整することが求められます。
高齢者が職場で活躍するためには、その特性を考慮し、適切な支援を行うことが不可欠です。例えば、身体機能の低下に伴う労働災害のリスクを軽減するために、作業環境の改善や健康管理の強化が必要です。これにより、高齢者が安心して働ける環境を提供し、これまでの経験や知識を活かすことが可能になります。
エイジフレンドリーな職場づくりは、単に高齢者への配慮にとどまらず、体力に自信がない人や仕事に慣れていない人も含めた、すべての労働者の労働災害防止につながる重要な取り組みといえるでしょう。
エイジフレンドリーが求められる社会的背景
近年、日本では働く高齢者の数が着実に増加しています。総務省のデータによると、65歳以上の就業者数は20年連続で増えており、2023年には914万人に到達しています。65歳~69歳の就業率は52%となっており、約2人に1人の割合で働いている状況です。
この背景には、日本社会の高齢化や人手不足の深刻化があります。労働力人口の減少に伴い、企業は貴重な人材として高齢者の雇用を進めていくことが重要になっているのです。
しかし、労働災害の発生状況を見ると、65歳以上の労働者が占める割合は2023年時点で17.3%に達しており、人数は前年比で約4.3%増加しています。転倒や墜落・転落といった事故が多発しており、女性の高齢者においてはその傾向が特に顕著です。
また、労働災害発生率のデータを見ると、若年層に比べて高年齢層では比較的高い水準となっています。厚労省が発表している労働者1000人当たりの死傷災害発生件数では、65〜69歳の男性が4.06件、女性は4.00件と高い値を示しています。これに対し、25歳〜29歳の若年層では、男性が2.05件、女性0.82件という数値になっています。
さらに、高齢者は身体機能が低下することにより、労働災害が発生した際の休業期間も長期化しやすい傾向があります。年齢別の休業見込み期間の調査では、高齢になるほど2ヵ月以上の長期休業の割合が増加していることが明らかになっています。
このような社会的背景から、高齢者が安全に働ける職場環境の整備が急務となっているのです。エイジフレンドリーな職場づくりを推進することで、高齢者の労働意欲を高め、社会全体の生産性向上にも寄与することが期待されます。
介護業界におけるエイジフレンドリーの必要性
介護業界は、高齢者も多く働く分野として知られています。それゆえ、エイジフレンドリーな職場環境の整備が強く求められる業界といえるでしょう。
介護業界でエイジフレンドリーが必要とされる理由は、いくつかあります。
まず第一に、介護従事者自身の高齢化が進んでいることです。人手不足が深刻な介護業界では、豊富な経験と知識を持つ高齢スタッフの活躍が不可欠です。高齢スタッフが安全に、そして長く働ける環境を整えることは、介護サービスの質の維持・向上に直結します。
次に、介護業務の特性として身体的負担の大きさが挙げられます。利用者の移乗介助や入浴介助など、腰痛や転倒のリスクが高い業務も行う必要があります。特に、長時間の立ち仕事や中腰の姿勢を維持することも多く、慢性的な疲労や筋肉・関節への負担が蓄積しやすいのが現状です。
さらに、介護現場では世代間のコミュニケーションや知識・技術の継承も重要な課題となっています。エイジフレンドリーな環境づくりは、異なる世代の職員が互いの強みを活かし、弱みを補い合える職場文化の醸成にもつながります。
エイジフレンドリーな職場づくりは、高齢スタッフだけでなく、すべての職員にとって働きやすい環境の実現につながります。これにより、介護業界での人材確保や職員の定着率向上、ひいては介護サービスの質的向上が期待できるのです。
介護業界におけるエイジフレンドリーの実践
職場環境の改善 設備・装置の導入
エイジフレンドリーな職場環境を実現するためには、まずリスクアセスメントを行い、職場の危険要因を特定することが大切です。厚生労働省のガイドラインでは、高齢者の身体機能の低下を考慮した作業環境の改善が強く求められています。
介護現場では、特に以下のような施策が効果的です。
滑りにくい床材の導入 介護施設内の廊下や浴室などに防滑素材を採用することで、高齢スタッフの転倒リスクを大幅に低減できます。床や通路の滑りやすい場所への防滑シートの設置も有効な対策といえるでしょう。 作業台の高さ調整 不自然な作業姿勢をなくすよう、作業台の高さや作業対象物の配置を改善します。介護現場においては、利用者のベッドを適切な高さに調整することが大切です。これにより、腰や肩への負担を軽減し、業務効率の向上も期待できます。 パワーアシストスーツの導入 介護業務では利用者の抱え上げや移乗介助が多く発生します。パワーアシストスーツの活用により、高齢スタッフの身体的負担を軽減し、腰痛予防にも効果を発揮します。 入浴リフトやスライディングシートの活用 利用者を抱えずに移乗できる環境を整えることで、介護職員の身体的負担を大きく軽減できます。これらの機器は特に高齢スタッフにとって重要な支援ツールとなります。
これらの環境改善は初期投資が必要になる場合もありますが、長期的には労働災害の減少やスタッフの定着率向上、サービス品質の維持向上につながる重要な投資と考えることができます。
また、こうした取り組みを進める際には、現場のスタッフの意見を取り入れながら改善を行うことで、より実用的で働きやすい環境を整えることができるでしょう。
健康状態・体力の把握と対応
高齢者が安全に働くためには、事業者と高齢スタッフ自身が健康状態や体力を適切に把握し、それに応じた対応を行うことが不可欠です。厚生労働省のガイドラインでは、体力チェックを定期的に実施し、高齢者の身体機能を評価することが推奨されています。
体力チェックの具体的な方法としては、以下のようなものが挙げられます。
フレイルチェック 加齢による心身の衰えを総合的にチェックする方法です。栄養状態、身体活動、社会参加などの観点から多角的に評価します。 転倒リスク評価 厚生労働省作成の「転倒等リスク評価セルフチェック票」などを活用し、転倒リスクを事前に評価します。立ち上がりテストや片足立ちテストなどの簡単な運動機能テストも含まれます。
これらのチェックを通じて、高齢スタッフ自身が自分の健康状態を理解し、必要な対策を講じることができるようになります。
安全に業務を行うため、必要な体力がない労働者がいる場合には、その人でも無理なく取り組めるよう、職場の環境を見直し、改善することが求められます。
また、次のような取り組みも重要になります。
定期的な休憩の確保 職場でのストレッチや軽い運動 健康管理支援
これらの取り組みを継続的に実施することで、高齢スタッフが安心して働き続けられる職場環境の整備につながります。
介護業界での具体的な導入事例
介護業界におけるエイジフレンドリーな取り組みの具体例を見ていくと、さまざまな工夫があることがわかります。高齢・障害・求職者雇用支援機構が公表している事例から、実際の現場での取り組みを紹介します。
ある介護施設では、雇用制度の改定を行っています。具体的には、正職員の定年年齢を5歳引き上げることで、高齢者がより長く働ける環境を整えました。これにより、経験豊かな職員の知識やスキルを活かし続けることが可能になっています。
加えて、職員の体力や能力に応じた適切な人員配置を実現する「マッチングアドバイザー」という役職を設置し、有資格者が担う業務と、資格を持たない人でも対応できる業務を明確に分担することで、高齢者の採用拡大にもつなげています。このように業務内容を見直すことで、身体的負担の大きい業務から、経験や知識を活かせる業務へのシフトが可能になりました。
また、別の事業所では、高齢スタッフの体力や生活スタイルに合わせた柔軟な働き方を実現するために、在宅勤務やフレックスタイム制を導入しています。さらに、介護ロボットや介護助手を積極的に活用することで、最高年齢81歳の職員が現場で活躍するなど、幅広い年齢層のスタッフが働ける環境を整えています。
設備面での工夫も多く見られます。例えば、入浴リフトの導入やスライディングボード・シートの活用により、利用者を抱えずに移乗できる環境を整え、職員の腰痛予防に努めている事業所が多く存在しています。
一方で、中央労働災害防止協会が行ったノーリフトケアに関する調査では、リフトなどの介護機器・設備を導入し、使用している事業所は29.4%となっています。7割近くの事業所では、依然として人力による移乗介助が主流である現状がうかがえます。
これらの多様な取り組みを実施することで、職員の離職率低下やサービス品質の向上、さらには経営の安定化といった好循環が生まれるでしょう。エイジフレンドリーな職場づくりは、単なる労働環境の改善にとどまらず、介護事業所の持続的発展にも寄与する重要な経営戦略といえます。
エイジフレンドリー補助金の活用方法
補助金の概要
エイジフレンドリー補助金は、「高年齢労働者安全衛生対策推進費」とも呼ばれ、高齢者が安全に働ける環境を整えるための支援制度です。厚生労働省が推進するこの制度は、特に高年齢労働者の労働災害防止対策に重点を置いており、職場の安全性向上と高齢者の活躍促進を両立させる取り組みといえます。
補助金の主な目的は、高齢者の身体機能の低下を補うための設備や装置の導入、健康維持のためのプログラムの実施を支援することにあります。これにより、高齢スタッフの労働災害リスクを低減し、長く健康に働ける環境づくりを促進します。
この補助金を活用することで、介護事業所は財政的負担を軽減しながら、高齢スタッフが働きやすい環境整備を進めることができます。人材確保が難しい介護業界において、この制度は高齢スタッフの定着率向上と労働環境改善の両面で大きなメリットをもたらすでしょう。
補助金のコースごとの申請条件
補助金は複数のコースに分かれており、それぞれ特徴があります。2025年度の補助金制度では、以下のコースが用意される予定です。
職場環境改善コース
1年以上事業を実施している事業場において、高年齢の労働者にとって危険な場所や負担の大きい作業を解消する取り組みに要した経費(機器の購入・工事の施工など)が対象
補助率:1/2
転倒防止や腰痛予防のためのスポーツ・運動指導コース
労働者の転倒・腰痛予防のため、専門家らによる運動プログラムに基づく身体機能のチェックや運動指導などに要した経費が対象
補助率:3/4
コラボヘルスコース
事業所カルテや健康スコアリングレポートを活用したコラボヘルスなど、労働者の健康保持増進のための取り組みに要した経費が対象
補助率:3/4
エイジフレンドリー総合対策コース
専門家によるリスクアセスメントに要した経費および、リスクアセスメント結果を踏まえた優先順位の高い対策に要した経費(機器の導入・工事の施工など)が対象
補助率:4/5
これらの条件に加えて、労災保険に加入している中小企業事業者である場合、補助金を申請することができます。
また、いずれのコースも上限額は100万円(コラボヘルスコースは30万円)となっています。複数のコースへの申請も可能ですが、その場合も上限額は100万円です。新設される「エイジフレンドリー総合対策コース」は、専門家の知見を活用した効果的な対策を促進するため、ほかのコースよりも高い補助率が設定されています。
介護業界では、腰痛予防や転倒防止に関連する設備投資が多いため、特に「職場環境改善コース」と新設の「エイジフレンドリー総合対策コース」の活用が有効でしょう。
申請のポイントと注意点
エイジフレンドリー補助金を申請する際には、いくつかのポイントと注意点を押さえておくことが重要です。効果的な申請を行い、審査をスムーズに通過するために、以下のポイントに注意しましょう。
まず第一に、具体的な取り組み内容を明確にすることが重要です。特に、どのような設備やプログラムを導入するのか、またそれによってどのような効果が期待できるのかを具体的に示すことが審査通過の鍵となります。単に「高齢者のため」という漠然とした理由ではなく、事業所の現状分析に基づいた具体的な課題と解決策を示しましょう。
また、この補助金は「事業場規模」「高年齢労働者の雇用状況」「対策・取り組みの内容」などを審査の上で交付が決定されるため、すべての申請者に補助金が交付されるわけではないことに留意する必要があります。したがって、申請内容の充実度が重要です。
特に、過去の実績や取り組みの効果を示すデータがあるとより説得力が増すでしょう。申請書類は正確に記入し、必要な添付書類を漏れなく提出することが大切です。
また、申請には期限があります。2025年度のエイジフレンドリー補助金の申請受付は、2025年5月の開始を予定しています。受付期間内に申請を完了させる必要があるため、早めの準備と申請を心がけましょう。
なお、複数コース併せての申請の場合は、希望コースをまとめて申請する必要があります。後から追加申請することはできませんので、計画的な申請を心がけることが大切です。
今後も補助金の活用を通じて、高年齢労働者が安心して働ける職場環境の整備が求められます。引き続き、制度の最新情報を把握しながら、補助金を活用した継続的な職場改善に取り組むことが求められるでしょう。