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『おそ松さん』10周年:第4期で描く“6人一緒”の夏と生活感|小高義規監督インタビュー

アニメイトタイムズ

写真:アニメイトタイムズ編集部

2015年10月にスタートしたTVアニメ『おそ松さん』が、2025年で10周年! さらに、7月からは、TVアニメ第4期が放送されています。そこで、今期の監督を務める小高義規さんにお話を伺いました。

小高さんといえば、これまでTVシリーズの各話演出を務めてきただけでなく、2021年に公開された『おそ松さん~ヒピポ族と輝く果実〜』の監督も務めた主要スタッフの一人。第4期で監督を務めると決まったとき、「藤田(陽一)さんと松原(秀)さんの『おそ松さん』が完成されていたので、『自分がこの作品の世界を広げることはできるだろうか?』という恐怖心はありました」と、素直な心境を語ってくださいましたが、実際には、どのようにして本作と向き合い、第4期の制作にあたっているのでしょうか?

 

 

【写真】『おそ松さん』10周年――小高義規監督が明かす第4期のテーマとこだわり【インタビュー】

今一度、“原点”に立ち返ってみるのもいいんじゃないか

──第4期で新たに監督を務めるにあたり、どんな『おそ松さん』を作りたいと考えていましたか?

小高義規さん(以下、小高):藤田さんと松原さんによる『おそ松さん』は完成されている印象を受けていましたが、とはいえまだまだ“別の可能性”を秘めている作品でもあると思っていました。なおかつ、プロデューサーからも「小高さんらしい『おそ松さん』を作ってください」と言っていただいたので、独特なセンスを持っていない自分でも、この作品を面白く見せられる方法はあるだろうか?と探っていたんです。そこで思い浮かんだのが“生活感”でした。僕自身、アニメでギャグを描くのは不得意ですが、生活感を見せるのは好きなので、第4期の『おそ松さん』ではそこを引き出そうと決めました。

 

 

──それもあって、今期の『おそ松さん』では、一日一日をちゃんと過ごしている6つ子たちが描かれているのですね。これは監督の意図だったと。

小高:そうですね。夏に放送されると確定した時点で決めていました。ひと夏をリアルタイムで感じられるような第4期になったら良いなと思い、制作しています。主人公が6つ子なので、夏だからといって大して変化はないかもなと思いましたが、それはそれで彼ららしさが出るんじゃないかなと。

──しかも第3期までは頻繁に見られたショートショートではなく、30分かけてひとつのエピソードを描いている回が多いのも特徴的です。

小高:僕自身、そんなに多くの作品を観てきたわけではありませんが、前回の話とのつながりを感じられるセリフがあったり、「第○話でこう言ってたからだ!」とあとになってわかるギミックが入っていたりするようなストーリーは、割と好きなんです。なので、今作の理想はそこでした。さらに、「今一度、原点に立ち返ってみるのもいいんじゃないか」という話にもなりましたね。

──原点、というと?

小高:赤塚不二夫先生の『おそ松くん』です。『おそ松さん』の第1期から第3期までで描いている6つ子は、一人ひとりの個性がかなり強く出ていますが、今期は『おそ松くん』まで立ち返り、“6つ子がいつも一緒にいる世界”を意識しています。

 

 

──たしかに、『おそ松くん』の6つ子は、見た目も行動も“みんな一緒”でしたよね。

小高:テレビ放送ともなると、偶然この作品に出会ってくれる方も多いはず。一画面の中に6人収まっていればそれだけでインパクトがあるでしょうし「あの子、なんか気になるな」というキャラクターもきっと見つけやすいと思うんです。そういう思いも込めて、6人をいっぺんに見せています。家族感が増して、日常を描きやすくなった気もしていますね。

──そういった話し合いを受けて、松原さんがシナリオを書いていったのですね。

小高:そうです。「この話数では、こういう話をやってみたいです」と、ゼロから生み出してくださったり、「原作フィーチャーならば、このエピソードを参考にするのがよさそうです」と提案してくださったりしています。そうして、全体の世界観をまとめてくださいました。

 

“6人一緒”だからこそ、テンポや作画に細心の注意を

──松原さんから出てくるアイディアについては、どう感じていましたか?

小高:「松原さんにはこういうビジョンもあるんだ」と思いました。これまでずっと、藤田さんと組んでいた松原さんのシナリオを見てきましたが、それとは明らかなビジョンの違いを感じましたね。そして、『おそ松さん』を本当に知り尽くしているんだな、とも。何気ない会話も、6つ子だからこそのやり取りになっているなと思っていました。また、奇抜な展開をポンッと出してくるので、毎回読みながら「すごいな!」と。

──例えば、どういったところでしょうか?

小高:わかりやすいところで言うと、第1話のいきなり宇宙に行くところですね。宇宙船に乗っていることを誰も突っ込むことなく、普通に受け入れている。そんな世界観が、変なんですけど自然でした(笑)。

 

 

──ともあれ、そんな展開を自然に見せるのは、監督である小高さんの手腕だと思います。松原さんのシナリオをアニメーションにしていくうえで、特にこだわったことを教えてください。

小高:テンポですかね。第3期までと比べてゆったりとしたテンポで進んでいますが、どことなくテンポの良さを感じられるのが大事かなと思っていました。テンポが良ければ、突然宇宙に行くような展開でも自然と見せられるんですよ。観る方が“ついていけてしまう”というか。

──テンポが悪ければ、疑問ばかりが浮かんで後味の悪いシーンになる可能性もある。

小高:そうです。このシーンのテンポ感は、観る方がツッコむ“余白”もあるのですが、「まあ、それは別にいっか」と流せてしまう。そういう見せ方になっています。

──まだ制作中だと聞いていますが(※インタビュー時)、現時点までで一番印象に残っている制作現場での裏話を教えてください。

小高:今期は会話が多いのも特徴なのですが、だからといって速いテンポで会話を進めていくと、ラリーが規則正しくなってしまいナチュラルさが失われてしまうんです。なので、6つ子の性格の違いも加味して、会話のペースやテンポを考えていく必要があります。例えば、「○○がしゃべっているときに割って入るのは▲▲だよね」「□□は、しゃべりだすまでにけっこう間が空いてもいいよね」というふうに。それは、かなりこだわっている部分ですね。少しでも違うと、『おそ松さん』らしく無くなってしまうので、慎重に組み立てています。

──第4期ならではのご苦労を感じられる裏話ですね。

小高:加えて、今期は6人揃って会話するシーンが多いので、シナリオを“立体的”に把握して、6人の立ち位置を固めた状態で絵にしないと、自然な会話のキャッチボールが生まれないんですよ。極端な言い方になりますが、6人の中でもおそ松とカラ松のやり取りが多いのに、2人が話しづらいところに立っていたら不自然な絵になるじゃないですか。

 

 

──6人もいるのに、わざわざ話しづらい場所にいる人と話さないですよね。

小高:普通はそう感じてしまうものなので、自然に会話できるような位置関係に直す必要がありますね。それに、1フレームの中に6人収まっているときは、一人ひとりのセリフの尺を計りながら描いていかなければいけないので、現場では終わりの見えない作業をしているスタッフも多かったと思います。

── 一番動かすのが難しかったのは、6つ子6人のうち誰ですか?

小高:うーん……言うならば全員ですかね。第3期は、はっちゃけたり悪ふざけしたりするシーンが多く、アニメーションでも大きな動きをつけることが多かったですが、第4期はあくまでも生活感のある6つ子なので、まず大きな動きをしないんです。狭い可動域の中で6つ子の違いを出さなければならないので、苦労しています。あえて誰か一人を挙げるならば、十四松が難しかったですね。彼は見た目や動きが特殊だから「十四松だ」と、ひと目でわかるキャラクターですけど、今回はある種“6つ子に溶け込む十四松”だったりするので。周りになじませつつも十四松だとわかってもらうために、今も試行錯誤を繰り返しています。

 

 

『雷雨と角刈り』には、すべての感情が入っている

──第4話『縁日』は、赤塚先生の命日(8月2日)にあわせたメモリアルなエピソードでもありましたが、作画のカロリーがかなり高かったのではないかと感じました。

小高:第4期は、赤塚先生の生誕90周年というタイミングで放送しているので、この回は赤塚先生への感謝も込めて、最終回くらいの勢いでやってしまおうと思っていました。ただ、メインで演出をしてくださった方含めて、作画さんも「描いても、描いても終わらない」状況になっていたと思います。お神輿を担いで全国を回る場面も、キャラクターに合わせて歩調を変えなければいけませんから。

 

 

──全員同じ動きで良ければそのぶんカロリーも減ったでしょうけど、そういうわけにはいかないですものね。

小高:お祭りをテーマにした夏らしい回にできましたが、その実、相当大変だったと思います。なので「第5話では箸休めのようなパートを作りたいね」という話になり、『安静』が生まれました。

──劇中で言っていた通りの意図なのですね(笑)。しかも第5話でははじめて2本立てになっていましたよね。

小高:そうですね。今期では日常を描いていますが、とはいえ『おそ松さん』らしいショートショートも好きなので、できる範囲で第3期までのスタイルを踏襲させてもらいました。ただ、これまでのショートショートはずっと走り続けているような勢いを感じるものでしたが、今期はいたって“平和”。『安静』だけでなく『つり仙人』も含めた第5話全体がホッと一息入れられる“休憩回”になればいいなと思っています。

──ところで、ここまで放送されたなかで、小高さんのお気に入り回はありますか?

小高:第3話『雷雨と角刈り』はやっぱりシュールでしたね(笑)。シナリオを読んだとき、「なんで角刈り?」と思ったのですが、松原さんのセンスが光るエピソードになっていて面白かったです。突然角刈りにしたくなるくらい、一松の心のなかには爆発させたい何かがあるのだなと。かくいう僕も、爆発させたい気持ちは持っていると思うので、共感できる部分もありました。それに、このエピソードひとつにすべての感情が入っていると思うんですよ。笑いも、怒りも、悲しみも、恐怖も。

 

 

──言われてみれば……。

小高:さらに感動や優しさ、不思議まで詰まっていて、“何を見せられているんだ感”がすごいんですけど(笑)。それが面白くて笑ってしまいますよね。

──この回も、テンポが肝になっているのだろうなと感じます。

小高:そうですね。松原さんと話していく中で、「角刈り回はやりすぎちゃいけないですね」という共通認識が生まれました。見せすぎてはいけない、いいところで隠して、見る人に想像の余地を与えてこそ面白いエピソードになると。コンテを描いて松原さんに見てもらうときも、「やりすぎているかどうか」を念入りに見ていただけていたような気がします。そうして、積極的に“引き算”をすることで出来上がったエピソードですね。

 

『おそ松さん』は共に歩んできた存在

──第4期を制作してみて、改めて感じている“『おそ松さん』を作る醍醐味”を教えてください。

小高:自然と『おそ松さん』の世界に入れて、自然と『おそ松さん』の空気を感じられて、自然と『おそ松さん』が終わっていく――。そんなアニメを作れているところでしょうか。時間の感じ方は人それぞれだと思うので、「えっ、もう終わっちゃったの? 早い!」と思う人もいれば「長い1日が終わったな」としみじみ浸る人もいるはず。僕としてはどういう尺感で捉えたてもらってもいいので、1日が終わる感覚をこの作品で感じてもらえたらいいなと思っています。そして、全話通して時間の流れをちゃんと感じられる第4期になればいいなと思いますね。

 

 

──では、この先もずっと夏を感じられる?

小高:はい、そうですね。ぜひこの先も楽しんでください。

──では最後に。小高さんにとって『おそ松さん』はどんな存在ですか?

小高:“ともに歩んできた存在”でしょうか。思っていた以上に同じ時間を過ごしている気がします。一緒に年を取っているというか(笑)。僕自身、この作品に関わり始めたときはまさかここまで長い付き合いになると思っていなかったですが……今も一緒にいるのは紛れもない事実。それが、不思議なようでうれしいですね。

 

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