躍動感あるカウンターで旬を食む。福岡・春吉に登場した話題の和食店。
あらゆるジャンルの店が競い、まさに“食都真っ盛り”な福岡県。しかし、何をどれだけ食べ尽くしても「最後に選ぶのは和食だよな」という人は多いでしょう。例えば今春オープンした「料理屋 もり尋」の料理のような……。ここは、そんな心のふるさとに出会える和食店です。
今年の4月、春吉の静かな一画に暖簾を掛けた「もり尋」。入居先はモダンな建物ですが、2階の扉を開けると素朴で美しいカウンターが現れました。無駄な装飾を省いた内装は、非日常と心地よさを同時に演出。どの席からも厨房が見やすく、調理の熱気や躍動感も楽しめそうですね。
その厨房から、41歳の店主・森博志さんが若々しい笑顔を向けます。福岡の調理師専門学校を卒業後、大阪の割烹「作一」で修業すること13年。帰郷後は「警固 ふるや」「白金にし田」でも腕を磨き、念願の独立を果たしました。
メニューは11000円の「おまかせコース」と4400円の「おまかせ3品」。後者はアラカルトの追加注文もできるので、酒メインの場合はこちらがお勧めです。さらに週2組限定で昼営業も行っており、こちらは1組4名以上の予約となります。
さて、今宵は11~12品構成の「おまかせコース」を予約。1品目は涼やかなワタリガニの蒸し物で、徐々に暑さを増す5月の外気に合わせた料理です。
軽めに蒸した身は、快い歯応えと香りがたっぷり。ワタリガニは子持ちのメスを選び、身と真子の蒸し時間をそれぞれ変えて出すなど、確かな職人仕事を感じます。
その後も茶碗蒸し、お造り、藁焼きカツオの叩きと続き、細やかな温/冷の変化でコースに奥行きを与えていました。
個人的にツボだったのが、この茄子饅頭。大阪の熟練農家が作ったナスで煮穴子を包み、葛入りのミョウガの餡をかけた佳品です。優美で滋味深い餡と、甘めに炊いた煮穴子の対比が素晴らしく、風雅な味の濃淡が味蕾を包みます。
その余韻も消えぬまに、「カラスミがある時期だけの定番です」と森さんから手渡されたのが玄米餅。カラスミ餅の“餅”の部分を玄米で作ったもので、コースの中でも小粋な魅力を放っています。玄米特有の旨味と歯応えに、カラスミの塩気が絡んで力強い食味が広がりました。
また、半熟卵の親子丼を思わせる小鍋はこの日一番の“癒し”でした。鯛の白子と真子を、アスパラとともに生姜煮にした逸品で、訳もなく懐かしい気持ちになる出汁の甘さがたまりません。
そして終わりよければ全てよし。シメの土鍋ご飯にもグッと来るうまさがありました。これは筑紫野市の水田で、森さんと従兄弟が無農薬で育てた渾身の「ひのひかり」。それを一口食すたび「やっぱり良いな、日本のご飯」とほっこりします。
「僕も同じ気持ちです。いつか年老いた時、本当に食べたいのはご飯と味噌汁だと思い和食の道に進みました」と森さん。「自分が美味しいと感じるものを出しながら、できるだけお客様の要望にも寄り添う店にしたいですね」
その想いに共鳴し、森さんの料理を恋い慕う人々が、早くも常連の輪を作り始めているようです。
料理屋 もり尋(ひろ)
福岡市中央区春吉3-24-23 HARUYOSHIスクエア2F
092-406-5082要予約