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ビゼーの名作オペラ『カルメン』を過激に、現代的に演出~「パリ・オペラ座 IN シネマ 2025」

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パリ・オペラ座 オペラ『カルメン』

■エリーナ・ガランチャ、ロベルト・アラーニャら世界最高の歌手陣が集結

350年以上の歴史を誇り、世界最古にして最高の芸術の殿堂と称されるパリ・オペラ座。その舞台では、数々の名作が初演され、現在もなお世界中の観客を魅了し続けている。

この伝統と革新を受け継ぐパリ・オペラ座の最新パフォーマンスや不朽の名作を映画館で体験できる「パリ・オペラ座 IN シネマ 2025」が新たに開幕する。まるでパリのオペラ・バスティーユの良席にいるかのような臨場感溢れる映像と、映画館ならではの迫力ある音響で、パリ・オペラ座の芸術を日本にいながら贅沢に堪能できる当シリーズでは、厳選された全3演目が、2025年7月4日(金)~9月18日(木)の間、各1週間限定で全国の劇場にて公開される。

その第一弾となるのが、7月4日(金)~7月10日(木)TOHOシネマズ 日本橋 ほかで1週間限定公開となる、オペラ《カルメン》だ。以下、オペラ評論家、香原斗志氏の解説とともに見どころを紹介していく。

© Vincent Pontet

1875年3月3日にパリのオペラ・コミック座で初演された《カルメン》。作曲者のジョルジュ・ビゼーは、わずか3カ月後の6月3日にこの世を去ったが、作品はその後150年にわたり、世界中で変わらぬ人気を誇ってきた。

© Vincent Pontet

初演から150年を経た現在もなお人気を誇る理由は、“自由な女性”の象徴として描かれるカルメンというキャラクターにある。19世紀当時においても、そして現代でも、カルメンはジェンダーを超えた存在として観客を惹きつけてきた。「恋は野の鳥、誰も飼い慣らせない」と歌う「ハバネラ」が、その象徴だと香原氏は語る。また、「こういう女性は、男性上位の社会では女性にカタルシスをあたえ、男性の甘い破滅願望も叶えてくれた。それは、まだジェンダー平等の途上にある現代でも同じだろう」と、カルメンが時代を超えて人々を魅了してきたことを強調している。

© Vincent Pontet

本作は、2017年7月にパリのオペラ・バスティーユで上演され、大きな評判を呼んだ。その成功の要因として特筆すべきは、音楽と演出の絶妙なバランスである。指揮を務めたマーク・エルダーは、堅実な音楽作りに加え、色彩と深いドラマ性を引き出し、音楽的特色を際立たせている。カリスト・ビエイトによる演出は、舞台を20世紀フランコ政権下のスペインに置き換える大胆な解釈を施しながら、音楽との調和を見事に保っている。香原氏は「オペラ《カルメン》の生命でもある舞曲や行進曲は、常に人々の動きで支えるように工夫されている。ダイナミックかつ芸が細かい演出なのである」と語っている。

© Vincent Pontet

さらに、超一流の歌手たちによる奇跡の共演も、本作最大の魅力の一つ。カルメン役のエリーナ・ガランチャについて、香原氏は「私にとっては、記憶していたカルメン像のほとんどが洗い流されるほど、インパクトが強いものだった。磨き上げられたやわらかい声は、いつもながら高貴な響きをたたえ、そこにえもいわれぬ妖艶さが加わっている」と絶賛する。

© Vincent Pontet

ドン・ホセ役ロベルト・アラーニャの魅惑的なテノールは、力強さと美しさを両立し、ミカエラとの二重唱でも叙情性あふれる表現力を披露している。

© Vincent Pontet

ミカエラ役のマリア・アグレスタはピアニッシモを織り交ぜた繊細な歌唱で、ミカエラの芯の強さと優しさを見事に表現。第3幕では、その深みある表現力が特に印象的だ。

© Vincent Pontet

そして、エスカミーリョ役のイルダール・アブドラザコフは、気品と色気を兼ね備えた、豊かに響きよく伸びる低声を持つ。香原氏は「アブドラザコフを超えるバス歌手は、世界中にほかにはいないと思われる」と賞賛を送っている。

© Vincent Pontet

品位と力強さ、精緻な声の制御力、そして演劇性――。すべてを兼ね備えた歌手たちが、四人そろってこの舞台に集結したのは、まさに奇跡と言うべき出来事。彼らが音楽的にも演劇的にも完全に方向性を一致させたことで、《カルメン》という作品の本質がかつてないほど深く掘り下げられた。その結果として誕生したのは、観る者の中で「スタンダード」となり得る、極めて完成度の高い《カルメン》である。最後に香原氏は「これだけのものを観せられて(聴かされて)しまうと、私は次に《カルメン》を鑑賞するのが怖い」と締めくくっている。

© Vincent Pontet



※香原斗志(オペラ評論家)による『カルメン』解説全文は下記↓URLにて閲覧可能です。

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