<選抜高校野球>常葉大菊川が頂点にたった2007年に2年生で活躍した町田友潤さん。後に“甲子園史上最高の2塁手”と称された守備力はどのように磨かれたのか?
第97回選抜高校野球大会に出場している静岡県の常葉大菊川が22日、聖光学院(福島)との初戦を迎えます。今年の新3年生は、同校(当時は常葉菊川)が日本一に輝いた2007年に生まれた世代。当時の優勝メンバーで、2年生ながら二塁手のレギュラーとして活躍した町田友潤さんに話を聞き、試合や高校時代の思い出を振り返ってもらいました。
一問一答
ー初めて甲子園でプレーした感想は。
仙台育英との対戦が決まり、正直負けるだろうと。大会ナンバーワン投手の佐藤由規さん(現ヤクルトコーチ)がいるじゃないかと絶望した。試合では緊張もしたが、打席に立ったらテレビで見たことがあるような景色が目の前に広がっていた。試合までの練習では近い距離で160キロぐらいに設定したマシンで目を慣らしたが、人間の投げる150キロの方が速く感じた。
ー初戦は無安打。意外だが失策も記録。
走者一塁の場面で、二塁ベースの少し手前でゴロを捕って二塁送球したのだが、(遊撃の)長谷川(裕介)さんとの息が合わなかった。
ー次の今治西戦も無安打。2戦を終えての心境は。
自分の力はこんなものかなと。1回戦で佐藤由規さん、2回戦で熊代聖人さん(現・埼玉西武コーチ)と、全国の投手はレベルが高かった。でも、試合に出させてもらっているからには迷惑を掛けたくない。ここで気持ちも負けてしまったら絶対に良い結果にならないと、良い意味で切り替えられた。良い打者は研究されてドツボにハマることもあると思うが、僕はそんな打者ではないので吹っ切れた。
ー大阪桐蔭戦では8回に中田翔選手(現・中日)から同点打。
その打席の前までに、安打を打つことができてすごく楽になった。右方向に変化球をポーンと。やはり安打が出ると野手は非常に楽になる。甲子園という場にも慣れていなかったが、一本出てようやく地に足がついた。
ー同点打の感想は。
素直にうれしかった。中田翔さんは球が速くてスライダーも非常に切れるので立ち後れないように始動を早めることを意識した。同点打はたしかストレートだったと思う。(田中)健二朗さんも大阪桐蔭打線を抑えていたので応えたかった。
ー熊本工戦では決勝打。1、2回戦と対照的な活躍は何が要因だった。
1年秋から試合に出させてもらったが、最初はエラーばかりしていた。それでも起用してもらっていたので、自分自身で乗り越えるしかなかった。選抜でも1、2回戦が駄目だった中での準々決勝。同じように自分で乗り越えるしかないぞと思ってプレーした。
ー大垣日大との決勝は本塁打も。
自分でもびっくり。打った直後は中飛かなと思ったが、あそこ(センター左付近)は打球が飛ぶ。自分が甲子園で本塁打を打てるなんて、とも思った。バットは面白くて、本当に良いところに当たると感覚がない。だからあの時も感触がなかった。
ー2007年の選抜で一番印象に残っているのは。
浅原(将斗)さんが熊本工戦で同点打を打った場面。優しい先輩で、打てずに苦しんでいる姿をみんなが見ていた。だから打った時は全員がうれしかったと思う。その後の僕の決勝打も浅原さんの勢いで打てたと思う。
ーこの大会で得られたこと、学べたこと。
甲子園に向けて私生活を正すところから始まった。森下さんは「スポーツ選手は優しくて明るくないと絶対にダメだ」と常に言われていた。本当にそれが今になって大切だと実感する。あとは、結果はなかなか出ないと学んだ。優勝したが、個人の成績はあまり良いものではなかった。今の仕事も同じで、子どもたちはできないことを頑張って克服しようとしているが、すぐにできるわけではない。そこで諦めない気持ちの持ち方が非常に大切で、今に生きている。甲子園でプレーしたことで、緊張もしなくなり、どっしりと構えられるようにもなった。
ー優勝の瞬間は覚えているか。
覚えている。一塁のカバーにいって、すぐに切り返してマウンドにいった。実感は湧かず、その試合に勝ったなという感じだった。閉会式でメダルをもらったが、それでも嘘みたいだった。
ー自分のプレーで一番印象的だったのは。
熊本工戦の決勝打。投手が変わり、投球練習を見ていたら高めにカーブが抜けていた。森下監督は高めを捨てろといっていたが、絶対にカーブが浮いてくると思って狙い、その球を打った。森下監督は仮に凡打になっても理由を説明すると認めてくれる。守備でも前に出てはじいたエラーは怒らない。逆に前に出るべき打球を待って捕ったら、アウトになったとしても厳しく怒られた。プレーの選択を間違えるなと常に言われていた。前に出てエラーをしたら「へぼは練習」と一言、言われるだけだった。
ー2007年のチームはどんなチーム。
2008年もそうだったが、走塁と守備のチームだった。フルスイング野球と注目してもらっていたが、選手本人たちは守備と走塁という基盤があったのでバントをしない野球ができたのだと思っている。打撃は水物という通りに打てない試合も絶対にある。2008年夏の福知山成美戦はまさにそうで、打てない中で走塁で2点を取った。あのような厳しい試合を落とさないのが真骨頂。いろんな引き出しがあった方がチームは強い。練習も守備、走塁の方に時間を割いていた。打撃練習は全体で1時間ぐらいだった。
ー2007年と比べ、今年のチームはどうか。
フィジカル面は僕たちの時よりも数段上。持っているものを生かす技術があれば、当時のチームが対戦しても勝てないと思う。
ー一緒にやっていた石岡さんが監督をされている。
応援しているし注目している。今は石岡さんの色が出ていると感じる。菊川らしい思い切った野球にプラスして、特に守備面など締めるところは締めて隙を与えない感じ。石岡さんは社会人野球を経験して、細かい部分の大切さを実感しているのではないか。社会人野球のような隙のなさを求めている印象。
ー今回の甲子園ではどのような野球をやってほしいか。
練習でやってきたことを出してくれれば。2007年と比較するというよりも、自分たちが練習で培ってきたことを120%出してほしい。
ー注目するのは。
特に注目しているのは二遊間。甲子園は守りにくいという人もいれば、守りやすいという人もいる。気をつけるところはベース周り。掘れているのでイレギュラーはするものだと思って守った方が良い。
ーイレギュラーといえば、2008年夏の智弁和歌山戦で併殺を完成させた場面も。
そう。あの時は思ったよりもはねた。でも下からグローブを使う動きが体に染みついていたから反応できた。人間の腕の動きは下から上の方が速いので、下から使えれば対応できる。意識して練習を繰り返していると、無意識でも体が動くようになる。僕たちは毎日自主練習でノックを受け、数多くの打球を捕球した。ボールをばらまいたところに打ってもらってイレギュラーに反応する練習をしたり、逆シングルの練習をしたりといった遊び要素も入れていた。
ー調子が上がらない選手にはどんなアドバイスが。
原因が何かを探した方が良い。技術的なことなのか体調面なのか精神面か。分析して原因が分かれば一生懸命修正し、試合になったらもう何も関係ない。今日も打てない、どうしようと思った時点で負けてしまうので、いろいろと考えずに「今日は今日」と割り切ることが重要。イチローさんがインタビューで「困難は自分で乗り越えるしか方法はない」と話したいた。まさしくその通りだなと。立ち向かっていかないといけないと思う。