リアル・トラウム、Bunkamuraオーチャードホールへの道【Vol.2】鳥尾匠海インタビュー
IL DIVOに始まり、日本でもLE VELVETSやTHE LEGENDなど多くのフォロワーを生んできたクラシカル・クロスオーヴァーの男性ヴォーカル・ユニット。メルビッシュ湖上音楽祭やドイツ44カ所のオペレッタツアーに参加するなど国際的なキャリアを歩むテノールの高島健一郎をリーダーとして、東京芸術大学を卒業した同門の声楽家たち4人が集まって結成されたのが、REAL TRAUM(リアル・トラウム)である。デビュー1周年記念の浜離宮朝日ホールの完売公演において、彼らは次なる夢の舞台としてBunkamuraオーチャードホールでの公演を発表した。
ドイツ語で「正夢・夢を実現する」といった意味のグループ名通りに着実にグループの実績を積んでファンを魅了してきた彼らの今Bunkamuraオーチャードホールへの道程について、メンバー各人にシリーズインタビューし、最後に3大テノールから始まった男性ヴォーカルのクラシカル・クロスオーヴァーの歴史を纏める特別寄稿を、9月21日に発表したい。
2番バッターは、テノール担当でグループの末っ子、そして今333万再生を記録して話題を呼び、ついにヤフーニュースにも登場した「鬼のパンツ」動画で大人気の鳥尾匠海である。
――「鬼のパンツ」が大変な話題になっていますね。
正直自分でもびっくりするほどの反響ですね。これまでいろんな動画をアップしてきましたが、なかなか大きくバズることは難しかったのですが、高島リーダーにもアドバイスを受けながら、いろいろとトライする中でやっと皆さんの目に留まって嬉しいです。
――鳥尾さんの美声で本気の歌唱で歌われる「鬼のパンツ」とこどもたちの元気な掛け合いが本当に何度見ても面白いですね。
実は学校にYouTube許可は事前に取っていたのですが、たまたま撮影前日に上野でピアノお兄さん新井さん(該当動画の伴奏者)に会って閃いてしまい、次の日のスケジュールが空いているとのことでしたので急いで学校に再確認をとり、撮影をしました。思いついたら即行動。今回は成功してよかったです(笑)。
――先日鳥尾さんの地元の鶴川で行われたソロ・リサイタルでも、アンコールで歌われましたね。
そうなんです。お客さんに喜んでもらいたくて、歌ってしまいました。ホールのホワイエでコンサート終了後に、クラシックだとよくアンコール曲が貼りだされるじゃないですか、自分のアンコール曲の貼り紙を見た時に、Xでも呟きましたけど、自分でもなんか変だな僕って(笑)。でも。やった甲斐がありました。大変な盛り上がりようで、自分でもちょっと驚くようなお客様の反応でした。
――私も見させていただきましたが、レパートリーのヴァリエーションの広さに驚かされると同時に、後半で日本語の歌やJ-POPのヒットソングまでも歌詞の一言一句を大事に歌われている姿に、歌詞が心に染入って来るような気持ちになりました。
そう言っていただけると、嬉しいです。自分でも日本語をどう歌うかということは大きなテーマとしていろんなことを試行錯誤してみているので。
――とくに森山直太朗さんの「生きてることが辛いなら」や竹内まりやさんの「いのちの歌」は、クラシック的な歌唱がこんなにもフィットするんだということにも驚かされました。
ますます嬉しいです。どちらの曲もいろんな歌を試しながら、自分で発見して自分の表現にあっているのか、確認してYouTubeチャンネルにもアップしてきたので。なんでもヒット曲を歌えばいいということではなくて、クラシックの歌唱に合う曲と合わない曲があって、リアル・トラウムでいきものがかりさんの歌を1年前に歌ったりした経験も活きている気がしますね。あと、親しい人はよく知っているのですけど、僕はLINEの着信音を尾崎豊さんの曲に設定しているのですが、尾崎豊さんの歌詞の伝え方も自分の中で影響されているかもしれませんね。
――「いのちの歌」の最後の歌詞「この命にありがとう」を歌う直前に、一歩前に足を踏み出されて、姿勢を正されてから、吐き出すように丁寧に感謝の気持ちを伝えるという雰囲気で歌われたのを見て、「あっ感謝された」って感じてしまって不覚にも私は涙腺崩壊してしまったのですが、あの一連の動作は意識されていたのでしょうか?
いいえ、完全に無意識ですね。伴奏の追川さんが作ってくださった伴奏の間が、その時の僕にそうさせたのかも知れません。その時の自分を褒めてあげてもいいですか?覚えていないんですが(笑)。
――今とても話題となっているので、ついついソロの話が長くなってしまいましたが、リアル・トラウムについてもおうかがいしないといけませんね。先日のリアル・トラウムの結成1周年ツアーでは、シューベルトの「魔王」を4人で語り・魔王・父・こどもの配役で振り分けて歌われていて、ありそうでなかったそのアイデアの素晴らしさに感動するのと同時に、鳥尾さんがこどもの役を見事に演じられていることにも感銘を受けました。
リアトラツアーの直後8月に少年オルフェでも、作曲家の天沼先生から主人公の少年役をいただいて、皆さんに褒めていただきました。どうしてなんでしょうかね? 声質のせいでしょうかね、リアトラでの末っ子キャラがパブリックイメージになっているからでしょうか(笑)。やはり声の張りや質に、少年っぽさがあるのかもしれませんね。
――どちらも相まってかもしれませんが、いつもリアル・トラウムさんで「君はわが心のすべて」を聴かせてもらう時も、鳥尾さんが歌うと独特のピュアリティというしかないような、他の方とは少しちがう一本気なスピリットのようなものをいつも感じます。
そうですか、ありがとうございます。声質もそうですけど、自分の普段の猪突猛進型の性格が自然と表現にも反映されているのかもしれませんね(笑)。
――リアル・トラウムについて、堺さんはグループとしてチームプレイがかなりできるようになったとおっしゃっていましたが、鳥尾さんもそう感じられますか?
そうですね。僕もそう思います。すっかりステージでは末っ子キャラといじられキャラが定着して、実際には長男だったりするのですが、そういう役割を自分でも楽しんでいるようなところもあるかもしれません。また実は、僕は少し裏方気質みたいなところもあって、グループ全体の見せ方や情報の出し方なんかも気になるので、みんなと連携しながら、そのあたりもあれこれ気にして、スタッフにもお願いしたりしていますね。一年がたって、本当にいいチームワークができていると感じられるのは幸せですし、それがそのままステージの上でのパフォーマンスにも結び付いて、7月のツアーは自分たちで思っていた以上の充実したパフォーマンスをお見せ出来たような気がしています。
――そして、いよいよオーチャード・ガラですが。
そうですね。堺さんも言っていましたが、今の自分たちとはまた違う新しい姿をしっかりとお見せしたいと思います。ストリングスがいるといった目に見える新しさももちろんですが、「鬼のパンツ」現象も含めて新しく吸収したスピリットも伝えられたらいいですよね。身が引き締まりますね。プロデューサーから最初やってみないかと言われた時は、まだまだ早いと堺さん同様思いましたけど、7月のツアーや少年オルフェのお仕事、そして自分のソロ・リサイタルを経て、ああなるべくしてそのステージになるのかもと少し思えるようになってきた気がします。経験のすべてをオーチャード・ガラに注ぎ込んで、新しいリアル・トラウムを皆さんにお見せしたいです。
――今日も熱いですね。
鬼のパンツは強いですから。
文=神山薫