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「三流でもいいは甘えだった」牛尾 剛が米マイクロソフトで痛感した、妥協を捨てる覚悟

エンジニアtype

「三流でもいいは甘えだった」牛尾 剛が米マイクロソフトで痛感した、妥協を捨てる覚悟

米マイクロソフトのAzure Functionsチームに所属し、クラウドサービス開発の最前線で活躍する牛尾 剛さん。

これまで多くのメディアで「プログラマーとしてはガチで三流だった」と語り、自身の才能のなさを認めた上で「三流なりの戦い方」を突き詰めることで、ここまで駆け上がってきたという。

ところが2025年2月、自身がリリースしたnote「凄いやつになる方法」が大きな話題を呼ぶ。牛尾さんは「今までは自分がダメなのは受け入れていたが、これからはそうもいかない」と綴っているのだ。

一体、どのような心境の変化があったのだろうか。

「自分は三流」と割り切っていたはずの牛尾さんが「つよつよエンジニア」を目指し始めた背景には、変化の時代をプログラマーとして生き抜いていく際の覚悟が見えてきた。

米マイクロソフト
Azure Functionsプロダクトチーム シニアソフトウェアエンジニア
牛尾 剛さん(@sandayuu⁠⁠⁠)

1971年、大阪府生まれ。米マイクロソフトAzure Functionsプロダクトチーム シニアソフトウェアエンジニア。シアトル在住。関西大学卒業後、日本電気株式会社でITエンジニアをはじめ、その後オブジェクト指向やアジャイル開発に傾倒し、株式会社豆蔵を経由し、独立。アジャイル、DevOpsのコンサルタントとして数多くのコンサルティングや講演を手掛けてきた。2015年、米国マイクロソフトに入社。エバンジェリストとしての活躍を経て、19年より米国本社でAzure Functionsの開発に従事する。ソフトウェア開発の最前線での学びを伝えるnoteが人気を博す。書籍『世界一流エンジニアの思考法』(文藝春秋)は10万部を突破し、ITエンジニア本大賞2025特別賞も受賞

ダメな自分を許容して「戦略」でカバーしてきた

「僕は、子どものころからプログラミングをやっていたんです。でも、残念ながら一流の才能はなかった。そもそも昔から、自分で何かをやろうとすると、てんでダメ。スポーツもそうだし、趣味のギターを弾くのでもそうだった」

少年時代からプログラマーを夢見ていた牛尾さん。ただ、彼の適正があったのは「自分が手を動かすのではなく人を動かす分野」だった。

「自分で言うのも何ですが、他の人にやってもらうのは超得意なんです。だからアジャイルコーチやコンサルタント、PM、エバンジェリストみたいなポジションが合っている。実際、それなりの成果も出せていたし、周りのみんなも喜んでくれていたし。

でも、やっぱりプログラマーとして生きていたかった。どうしても諦めきれなかったんです。もう、理屈じゃないですね(笑)」

好きという気持ちは消えなかった。けれど、現実を見れば、自分には明らかに向いていない。そのギャップと向き合ったとき、牛尾さんが出した答えは「どう戦うか」を考えることだった。

「三流なら、三流なりの戦い方でやっていくしかない。僕の場合は、メソッドを用いてストラテジー(戦略)で勝負するっていうやり方でした」

「僕自身の性能が低いからメソッドに頼った」牛尾 剛の成長ストーリー【聴くエンジニアtype Vol.49】https://type.jp/et/feature/25563/

エンジニアの成長に「裏ワザで近道」はない

自分が三流であることを受け入れ、戦略で進むと決めた牛尾さんが向き合ったのは、「どうやってスキルを積み上げるか」という課題だ。いろいろと試してきた中で、自分なりに行き着いた考え方があるという。

「以前マネジャーに言われた“There is no magic”って言葉に、自分はすごく腹落ちしたんです。本を読む、文法を理解する、コードを手で書いてみる。そういう地味なことを愚直にやるのが、やっぱり自分には一番効きました。

要は成長って、筋トレと同じなんですよ。近道はない。小さな習慣の積み重ねが大事だと思います」

技術ブログやドキュメントを読み込み、自分なりに構成図を書きながら仕組みを理解する。型推論の仕組みや条件型、ユニオン型の挙動などを細かく検証し、手を動かしながらコードで確かめる。

どれも派手ではないが、牛尾さんはそれらを習慣として淡々と続けてきた。「今日もHabits(習慣)を達成したな」と思えることが、自分が少しずつでも進んでいる実感につながるのだという。

世の中には「10分で分かる」といった即効性をうたう情報も多い。牛尾さんは、そうした裏技は通用しないと考えている。

「今の時代って、いろんなことの“やり方”が確立されているじゃないですか。だからこそ、それをちゃんとやることがむしろ“攻略法”になるのかなと。

頭の良さや才能にかかわらず、誰でも勉強することはできる。もしかしたら賢い人は僕の半分の時間で習得できるかもしれない。だけど、人の2倍の時間をかけて勉強すれば、才能のない僕でもできるようになるとも言えるし」

もちろん、全部がうまくいくわけではない。思うように進まない日もあった。

「うまくいかないことがあっても、気にしないようにしてました。『まあ、そんなもんや』って。僕の場合は、自分に期待しすぎないくらいがちょうどよかったんです」

「三流」なりに、不器用でも毎日のHabitsを積み重ねること。それが当時の牛尾さんにとって、「自分を生かす最善の戦略」だった。

成果を出すためには「小さなHabits(習慣)の積み重ね」を【牛尾剛×ばんくし/聴くエンジニアtype Vol.51】https://type.jp/et/feature/25847/

「三流だけど頑張ってる」では、もう通用しない

2024年、GoogleやAmazonをはじめとする米テック企業では、大規模なレイオフが相次いだ。当然、その波は牛尾さんの勤めるマイクロソフトにも押し寄せてきた。

マイクロソフト「低業績」社員の解雇を開始。退職金なし、福利厚生は即時終了https://www.businessinsider.jp/article/microsoft-performance-based-job-cuts-have-started-termination-letters-2025-1/

牛尾さんは今、かつて信じていた「戦い方」を、根本から見直そうとしている。

「ここ数年のテック界の動向を見ていると、三流のままでは早晩解雇されてしまう。それこそ僕のいるマイクロソフトなんて、周りを見渡したらデキるエンジニアばっかりやし。『もう“優秀”になるしかないな……』って感じですよね」

では、どうすれば「優秀なエンジニア」になれるのか。牛尾さんはその戦略を立てるにあたり、「自分を三流と思ってはいけない」ことに気付いた。

「今までは、三流であることを受け入れて戦略でカバーしてきたけど、その戦い方ではどこかで自分に妥協してしまうんですよね。完璧にこなせなくても『まぁ、三流にしては上出来じゃね?』みたいな(笑)

なので、『自分は三流だ』っていう考えは一切捨て去ることにしたんです。自信とは根拠のないものだし、まずはおごらず、『自分は努力すれば一流になれる』と思い込むことにしました」

こうした心境の変化で、世界の見え方も変わってきた。理解できないものに出会ったときも、「自分には無理だ」と立ち止まるのではなく、「何を押さえれば理解できるのか」と問い直せるようになったという。

「例えば、仕事終わりに、今日やってることや理解したことを整理して、思い出すようにする。可能なら、まずは頭で整理してから、書き出すようにする。

個人的に、優秀な人って『深く理解する』ができている印象があるんですよね。でも自分は、一生懸命やっても、時間をかけても、理解が浅い感じがする。その辺が、いまいち自分が一流と思えない部分なので、まずはここを克服したいですね」

知識をただ追いかけるのではなく、構造を捉え、記憶し、再現できるレベルまで落とし込む。そのために牛尾さんは、情報をマインドマップで整理し、あえてすぐにメモを取らず、頭の中で構造を組み立てる「遅延ノート」のようなやり方も取り入れている。

「今の僕に必要なのは、処理速度じゃなくて処理の深さだと思っていて。だから一回一回の学びを、雑に済ませないようにしています。

こねくり回して、整理して、いろんな視点から見て、思いついた疑問を調べて……。そうやって、少しずつですけど、理解を深めていく感覚が掴めてきた気がしています。『もしかして、これならいけるかも?』みたいな(笑)」

そう話す牛尾さんの瞳には、もう、かつて“三流の自分”を受け入れていたころの“甘え”はなかった。

マイクロソフトにいるのだから、もう既に一流だと言う人もいるだろう。だが、彼が一流を目指す旅は、まだ始まったばかりだ。牛尾さんの今後に、まだまだ目が離せそうにない。

撮影/桑原美樹 文・編集/今中康達(編集部)

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