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三つ星のおもてなし:平日限定15食の英国フレンチ「エレーヌ・ダローズ」を味わう

料理王国

三つ星のおもてなし:平日限定15食の英国フレンチ「エレーヌ・ダローズ」を味わう

イギリスにおけるミシュラン3つ星レストランとしてすでに4年目を迎える「エレーヌ・ダローズ・アット・ザ・コノート」。そのはかり知れない魅力を身近に感じることができるコース料理と、それを実現できる大人のホスピタリティについて考察。

英国&アイルランドのミシュランガイド2025年の結果が、2月10日に発表された。3つ星レストランには新たに1軒(北西イングランドのMoor Hall)が加わり、英国では合計10軒のレストランが最高の栄誉を受けることになった。

英国3つ星の10軒のうち、その安定の実力で今回注目したいのが、2008年からロンドンの最高峰ホテル「The Connaught ザ・コノート」のレジデンスとなっている「Hélène Darroze at The Connaught エレーヌ・ダローズ・アット・ザ・コノート」である。

フランス人シェフのエレーヌ・ダローズさんといえば、現在フランス、イギリス、モロッコに合計5軒の高級レストランを展開しているだけでなく、リアリティ料理番組の審査員なども務め、2015年「世界のベストレストラン50」で最優秀女性シェフ賞にも選出されたトップシェフ。コノート・ホテルに開業したモダンフレンチレストランは創業から6か月でミシュラン1つ星を獲得し、2011年に2つ星を、そしてちょうど10年後の2021年に満を持して3つ星を獲得。以来、維持し続けている。

2019年に全面改装を終えた美しく落ち着きのある空間。

フランスとイギリスを行き来するエレーヌ・ダローズさん。昨年からモロッコも仕事場に加わった。©Jérôme Galland

3つ星レストランを、私たちはどう体験すればいいのだろうか? むろん、すぐに5万円のテイスティング・コースに飛び込んでもいいのだが、少しカジュアルに3つ星体験をしてみたい人のために、エレーヌ・ダローズでは全く別の視点からキュレートしたランチ・コースを用意している。これが大好評なのだ。

コースの名前は「Le Vol-au-Vent by Hélène Darroze ヴォル・オ・ヴァン・バイ・エレーヌ・ダローズ」。フランスの古典料理「ヴォル・オ・ヴァン(パイ料理)」を復権させ、これをメインとして3コースの華やかなメニューに仕立てあげ、平日ランチのみ1日限定15食で提供している。

3コースと言っても前後の小さな心遣いも含めると、大体7コースにもなるだろうか。アペリティフのキール・ロワイヤルも含む約2万円の3つ星料理。まず登場するのが、口の中を整えるためのコンソメ・スープ。今回は香り立つマッシュルーム・コンソメ。そしてクラフト芸術のような3種のカナッペが続く。ライ麦の自家製サワードゥ・ブレッドはファンキーな姿のバター付き。白がイングランド産の無塩バター、赤い方がブルターニュ産のレッド・ペッパー入りバターだ。そしてようやく、第一のコースへ。

アンチョビ&山椒、ホワイト・マッシュルーム&ジュニパー、シートラウト&ミックス・スパイスなど、斬新なフレーバーのカナッペ3種。

パンのコース。英仏のバターの競演。

前菜はフランスのソウルフード、オニオン・スープをありえない形に昇華した、エレーヌ・ダローズの面目躍如たる一品だ。

それはただのオニオン・スープではなかった。甘くローストしたセヴェンヌ・オニオンとピクルス、フランス・チーズを器の底に重ね、その上にパリリとさせたイベリコ・ハムとサワードゥのチュイールを花びらのように飾って大輪のバラを形作っている。それらを崩しながら、コンソメ・スープでいただくという趣向。甘く香りの強いオニオンとほのかにスモーキーさが漂うチーズが口の中でとろけ、コンソメと混ざり合うと、まさに“あの”オニオン・スープの味わいに。チュイールとハムの軽やかな歯応えも心地よい。いや、何よりその華やかさに目を奪われる。セクシーとさえ言える。デートなら相手はイチコロ。シェフの匠を知るにももってこいの一品なのだ。

バラのように花ひらく再構築オニオン・スープ。

バイオダイナミック農法によるイタリア産バルベーラの軽い酸味が、主菜への期待値を上げる。2万本を超えるワイン・セレクションを誇るほか、アルマニャックの専用ルームもある。

続くメイン・コース「ヴォル・オ・ヴァン」も負けてはいなかった。やはり、そのグラマラスな佇まいにまず心を奪われる。ナイフを入れて中身を賞味すると、うっとりするほど美しいパフ・ペイストリーと、力強く生き生きとした具材が、ともにコンチェルトを奏でる。

ヴォル・オ・ヴァンの食材は短いサイクルで旬に合わせて変わり、今回はスコットランド産ロブスターを主役として、子牛のスイートブレッド、マッシュルーム、ポテト・ピューレ、そしてチキンとキノコ、ロブスターの出汁で作ったゼラチン・ソースが主張しながらも互いを引き立て、とびきり調和のある演奏となっている。正直これを食べる前と食べた後では、パイ料理に対する見方が根幹から変わってしまうだろう。

メイン・コースのヴォル・オ・ヴァン。美しくボリュームがあり、食べると幸福になる一品。

魚介、肉、野菜がたっぷり。食材が生きている。

セイボリーを満喫した後は、柑橘類の爽やかさで口の中をさっぱりと。ユーカリ風味の滑らかなグリーク・ヨーグルトのソルベの上に、クレメンタインのゼリー、そして軽やかなシトラス・ソースをかけていただく、完璧なデザート。心尽くしのプチフールは、グレープフルーツ・マーマレードとピスタチオ・クリームのミルフィーユ風、スコッチウイスキーと塩キャラメルのチョコレート・ボンボン。いつまでも口福の余韻に浸る時間が終わらないでほしいと願う。

エレーヌさんがロンドンとパリ・フランスを行き来しているため、エグゼクティブシェフのMarco Zampese マルコ・ザンペーゼさん、ヘッドシェフのTimothée Martin Nadaud ティモテ・マーティン・ナドードゥさんが、完璧に日々のオペレーションを守る。食材は英国とフランスから最高級のものを取り寄せており、チームからは3つ星レストランを率いているという矜持と、軽やかなホスピタリティを同時に感じることができる。

シトラスを満喫するさっぱりデザート。

プチフールにもホッとするような田舎風の温かさがある。

ふたたび問う。3つ星レストランを、私たちはどう体験すればいいのだろうか? そして3つ星レストランは、ゲストに何を提供すべきなのか? その答えにもなりそうなダイバーシティと現代性が、このレストランで美しくも愉しげなシンフォニーを奏でている。その音色には、耳を傾けてみる価値がある。

Hélène Darroze at The Connaught
https://www.the-connaught.co.uk/restaurants-bars/helene-darroze-at-the-connaught

text・photo:江國まゆ Mayu Ekuni

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