青山ゼロの跡地にクラブ「numm」がオープン、昼はアートギャラリー&カフェに
アナログなサウンドシステムとベテランのDJによる本格的なプレイで、クラブ本来の魅力を感じることができる場であった「青山ゼロ」が2024年6月に惜しまれつつも閉店。その跡地に、ゼロの良い点を引き継ぎながらも、新たな世代や嗜好(しこう)を持った人も楽しめる場として新たなクラブ「ナム(NUMM)」がオープンした。
音響はそのままで、木に囲まれた温かい雰囲気の空間も変わりない。「ゼロの閉店日が決まったと聞いたその日に、自分が引き継ぐと決意していました」と語るのは、ナムの代表取締役社長である鈴木樹だ。青山ゼロの店長を務めた寺田有希とともに、DJとして店を支えてきた鈴木が新たなオーナーとなって運営していく。
鈴木はゼロでは、レジデントDJとして月に1〜2回ほどプレイしていた人物。「クラブで初めてDJしたのもここ。その後も週3回ほどのペースで通い、ホームのような場所でした」と語るだけあり、この場所への思いは誰よりも強い。彼の熱い思いとその思いに共感した人々の手により、閉店からの紆余(うよ)曲折を経て、クラブとして復活を果たしたのである。
都内随一の音響設備を堪能
ナムという店名の由来には、青山ゼロの「ゼロ」という数字から「ナンバー」を連想させる「n」の文字が入っており、ここからもつながりを感じることができる。また、「音楽に帰命(きみょう)する」という意味で、「南無阿弥陀仏(なむあみだぶつ)」が要素の一つとしてあるという。「音楽に全身をささげる」という鈴木の思いから、いかに音楽にこだわりを持っているかがうかがえるだろう。
メインコンテンツである音響は、彼が「都内随一」と語るほどの設備が整っている。青山ゼロの計算された部屋作りによって、低音から高音まで解像度の高い音が楽しめる環境だ。「ここでしか鳴らない音」にこだわった奥行きのある音響は、耳だけでなく全身で体感してほしい。
ライブセットを展開、クラブデビューしやすい環境へ
だが、全くそのままというわけではない。ゼロではハウスミュージックのイメージが強かったが、今後はテクノ、アンビエントなどをはじめ、幅広いジャンルの音楽をかける。 DJは10〜20代の若手から、DJは、ゼロを創世記から支えてくれたCHIDA 、Toyo、Kaoru Inoueのほか、Calmといったベテランまで年齢を横断。よりジャンルレスで新しい音楽が交錯する。さらに、ジャズやポエトリーリーディングなどのライブセットも今後は展開し、クラブに馴染みのなかった客も楽しめるようにしていくという。
酒好きが一人でも楽しめる空間・コンテンツ
内装は「一人でもくつろげるように」、以前は白かったバー周辺の壁面を深い青色に塗り替えた。 ドリンクも質にこだわり、渋谷に店舗を構えるミッケラーやブルックリンラガーといったクラフトビールをはじめ、メルカス、テキーラ、ナチュラルワイン、クラフトジンなども取り入れる。外国人利用者に向けて日本オリジナルの酒も提供予定だ。酒をたしなむ感覚で誰でも一人でふらりと立ち寄れる貴重なクラブになるだろう。
昼はアートギャラリーに変貌
もちろん、イベントや企画自体も新しいことに挑戦していく。昼間はカフェ営業に加え、ギャラリーとしてインスタレーションや彫刻、アートワークといったアートの展示・販売も行う。 初回は、北海道・東川町で月の光だけを利用して撮影した写真展「dark side of the moon」などの三浦太輔による展覧会を行う。その後、韓国のマルチアーティスト・ファン・ソンジョン(SunJeong Hwang)のマルチメディアアート展の開催も決定している。
青山ゼロの精神を引き継いだナムは、クラブ本来の意義を大切にしつつも、新しいカルチャーの場を牽引(けんいん)する場所になるだろう。踊るもよし、くつろぐもよし、良い音楽が良い音響で聴ける貴重な場所に、ぜひ足を運んでみてほしい。