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武蔵境さんぽのおすすめ7スポット。人知れず再生し続けている街

さんたつ

エノモトサイクル

新しいお店がどんどんできている、という雰囲気はない武蔵境。でも、歩いてみると、これはリフレッシュ、リペア、リユース……?手をかけながらバージョンアップさせる達人たちの姿があった。

【見かけはそのまま中身をReフレッシュ】

老舗町中華の隣で、誘われる焙煎の香り『MR ROASTER(エムアール ロースター)』

コーヒー550円、カフェラテ600円。カスタードプリン600円、オレオのチーズケーキ650円はドリンクセットで200円引き。
昼どきは行列の『珍々亭』と、モダンなカフェというコントラストに目を引かれる。

駅から離れた閑静な環境と古い建物にひと目ぼれ。店主の岡崎実(まこと)さんは「隣の店の恩恵に大いにあやかってます」と笑うが、直火焙煎するコーヒーのクリアな飲み心地は、隣の『珍々亭』の常連客をも虜(とりこ)にする。むっちり固めに蒸した昔ながらのプリンをはじめ、妻の令果さん手製のスイーツと共に味わいたい。

11:00~18:00、日休。
☎なし

光り輝く鳳凰のタイル絵よ、永遠なれ『境南浴場』

地下水を薪で沸かし、さっぱりといいお湯。100℃近くまで熱した高温フィンランドサウナと水風呂も人気だ。創業70年を機に、2023年12月にリニューアルしたが、あえて以前の風情を踏襲。磨き直した名物の鳳凰のタイル絵が、変わらず心も健やかにしてくれる。

入浴料550円(サウナは+300円)。
16:00~23:00、金休。
☎0422-31-7347

住宅地の民家で復活したそば処『三河屋』

この日のハーフ&ハーフ1200円は、山かけそばと力そば。

1992年から続くそば・うどん店の新天地は、靴を脱いで上がる民家の1階。「他にはない味を」と、ごま酢そばにはじまり、ラー油、コショウなど、ユニークな特製メニューがクセになる味で、移転前からの常連も多い。日替わりで2種味わえるハーフ&ハーフも人気。

11:00~14:30LO・17:00~19:30LO、木休。
☎0422-32-9761

【いいモノは自ら拵(こしら)える、Re ペア精神】

カスタマイズだってお手のもの!『エノモトサイクル』

ゆがんだ車輪を真円に直す。
看板文字を描いたKads Miida氏の息子さんも来店。
再生した自転車の販売あり。

建築現場の廃材を活用し、2018年に仲間が描いたペイント看板がクール。「チャリ屋は昔、パーツを仕入れて自分んとこで組み立てたものです」と話すのは、1971年創業の2代目・榎本宏さん。自動車メーカー修理部門に勤めた経歴をもち、車輪の形の修理なども細やか。乗り心地が変わるぞ。

11:00~17:00(土・日は10:00~19:00)、火休。
☎0422-52-4754

お茶目で機能的な手仕事が光る『革工房 きくわん舎』

創業メンバーの吉田さん(中央)と大村家(左から2人目が翔さん)を軸にした職人軍団。
リュック4万4000円、ホルン2万7500円。
動物コイン入れ各2530円。

ギターをきっかけに仲良くなった二人の青年が革の端切れで遊ぶようになり、売り始めたのが発端。軽井沢に店を出し、工房を武蔵境に構え、2017年に現在地に移転した。使い勝手が良く、お茶目なオリジナルが揃う。ブランドに関係なく修繕も可。「昔の革小物から技を学びました」と、チーフの大村翔さん。

11:00~18:00、日・祝休。
☎0422-32-4626

【古きモノに新たな価値を、Re ユース】

街の人たちの蔵書が集結する本棚『おへそ書房』

クマシャケがお出迎え。
外国の絵本も多い。
狭小空間。須賀敦子さんの作品が人気。

国内外の絵本、文学、古いガイドブックやアートブックなど、約7坪につい手にとりたくなる本がぎっしり。「ついでに仕入れることも多いですね」と、店主の小宮健太郎さんが本と共に街の人から買い取った世界の民芸品が紛れて並び、ほっこり目を和ます。頻繁に書棚チェックする人が絶えない店だ。

11:00~20:00、木休。
☎0422-69-0722

我が家に迎えたいお宝がザクザク『used select shop root's』

昭和初期の木製デスクを土台に雑多に積み上げる。
100年前の古時計も。
レコードは試聴可能だ。

小粋な棚かと見紛う白とブルーのフランス製アンティーク冷蔵庫があるかと思えば、天井を見上げれば籐椅子が下がり、棚の中にはレトロなガラス食器、ミニカーなど、気分はもう宝探し。不用品買い取りを行う店主の室井浩史さんは「他ではあまり見ないものを」仕入れては、リペアして陳列。

11:00~19:00、不定休。
☎0422-38-5634

モノだけじゃなくヒトへの愛もあふれでる

駅の南北ともにすぐ住宅地が広がり、路地に入ると大樹の森や畑へと迷い込みのどかな風情を残す。三鷹や吉祥寺と比べると、商店や人流も少なめだが、その分、地元ファンを獲得して、長く愛されていこうというマインドがある。

『おへそ書房』は、地域の人から本を買い取る古書店。店先ではいつも誰かが通りすがりに本棚をじっと眺めている。「本を読む人、大事にする人が多く、この店に合うものをと選んでお持ち込みくださる方もいらっしゃいます」と、もの静かに話す店主の小宮さん。査定の本を紐(ひも)解きながら「あ、イギリスの絵本だ」と、頬をゆるませた。

“男の工房”感がにじむ『エノモトサイクル』をのぞけば、多彩な工具がびっちり。ご近所さんのちょっとしたハンドル調整にも快く対応する2代目の榎本さんは、修理という枠に収まらない自転車再生のすご腕職人だ。

「祖父が愛用した自転車をカスタマイズしてもらってます」と、この日来店していた青年は、現代風ロードバイクへの変身ぶりにご満悦の様子。

『エノモトサイクル』には真の自転車職人がいる。

一方、あえて変えないリノベをした『境南浴場』もある。最近はガラリと様変わりする銭湯が多いなか「施工の方が残しましょうと言ってくれて」と、3代目の毛利さん。名物のタイル絵だけでなく、浴槽の形、浴室の色調も再現し、配管設備を一新した。「あらゆる世代の癒やしの場に」の言葉通り、風情と機能のハイブリッド具合が光っている。

長年愛される『珍々亭』の隣で、2022年に開店した『MR ROASTER』。店主の岡崎夫妻は古い二軒長屋を見るなり「ここでやりたい!」と声を揃えたという。店を始めてみたら「地域の人たちが温かくて」と相好を崩す。

また、元々三鷹市井口でそば屋を営んでいた『三河屋』は、物件立ち退きの折にとある客の「じゃ、うちでやらない?」のひと声で移転先が決まったと喜び、その客の自宅1階部分を店用に造り変えてもらったというから驚く。

新旧にかかわらず、ほっとする感覚になる店が多い武蔵境。心地よきモノを見つけたら愛し続け、手放すときや修理したいときが来ても信頼たる店が控えているので、バックアップも万全。そんなモノや、ヒトを慈しむ精神が、街をReborn(リボーン)し続けているのだ。

取材・文=林 さゆり 撮影=鈴木奈保子
『散歩の達人』2025年2月号より

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