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「子どもはいらない」と決めきれなかった私。「母になった人」と話し「選択で“人”は変わらない」と気付いた

りっすん

「子どもを産むか産まないか」という人生の大きな選択に悩んできた月岡ツキさん。

「産みたい」とは思えない、でも「産まない」と宣言することもできない。複雑な感情の中で、いつの間にか「母になる」を選んだ人を“あっち側の人”と仕分けしてしまっていたそう。

しかし「自分とは異なるスタンスの人」との対話を重ねることで、選択によって人の本質は変わらないと気付き、産むor産まないの間で揺らぐこともなくなっていったといいます。

「母になる=自分がなくなる」と思っていた

結婚した当初、29歳の私は「子どもを産むか産まないか」の間で揺らぎに揺らいでいた。

もともと結婚にも出産にも懐疑的で、「家庭を持って母になる」ことにあまり夢を持っていないタイプだった。それでも、周りの先輩や後輩、友達が母になるという知らせを聞く度に「自分は本当に産まない人生でいいのだろうか」「また一人あっち側に行ってしまった」と動揺した。

ママになれていいなあとか、先を越されて焦るとか、そういう感情ではない。「今日はみんなで朝まで飲んでパーティーだ!」と張り切っていたのに、一人また一人と帰ってしまってパーティーが盛り下がる、みたいな感覚に近い。「え、みんなそういう感じだったの?」ってなるやつだ。

ある時、会社で憧れていた先輩が、母になった途端SNSのアイコンを子どもの写真に変え、投稿も子どもまみれになった。芯を持って働く姿に憧れていたのに、「自分」をやめて「ママ」になってしまったなんてと、私は勝手に落胆し、勝手に寂しくなった。

今思えば「『母になる』ことは、パーティーから離脱して自分を滅しながら子育てに追われる生活を送ること」という偏見が私の中にあったのだと思う。

そうして一人、また一人と「こっち側」の人間が減っていくなか、「あっち側」の人は違う生き物になってしまったのだから、自分から関わるのはよそうと思い、交流を避けた。友達の妊娠出産報告のインスタ投稿にリアクションしないこともあった。向こうもこちらにはもう用がないだろうし、と。

しかし、そうやって付き合う人を「仕分け」ても、「子どもを産む・産まない」の悩みがスッキリと片付くことはなかった。むしろ「仕分け」をするほど心を許せる人間が周りから減っていき、自分の居場所が狭まっていくのを感じていた。

子どもの有無だけじゃない。仕事の種類や好きな芸能人、住んでいる場所など、その人の属性だけで付き合えるか付き合えないかを勝手にジャッジして少しでも合わなそうな要素がある人を避けるようになっていた。

そんなある日、はたと気づくのである。このまま“自分と同じ選択をしている人”とだけ付き合っていたら、いつか誰ともまともに関われなくなるんじゃないか、と。

「子どもを産む・産まない」の悩み以前に、人として明らかにダメそうな道を行こうとしている、と自覚し、方針を変えることにした。「違う選択をしている他者」と関わらなくてはと、危機感を覚えたのだ。

違う選択をした人とも、分かり合えると信じたい

まず始めたのはPodcastだった。

もともとやってみたいと思って相手を探していたところ、ちょうど子育て中の友達が自分の会社に転職してくることになった。「同い年で同じ会社で働いているけれど、子どもを持つことについてはスタンスが違う2人」で番組をやったら面白いのではないかと思い、その子を誘って配信を始めた。

《画像:「女性の選択」について2人で話すpodcast番組『となりの芝生はソーブルー』》

これが私にとってはかなり良かった。毎週スタンスの違う者同士でしゃべるうちに、お互いの悩みや喜びがだいぶ分かるようになり、「子どもを産むか産まないか、違う選択をしている者同士でも分かり合うことができる」と信じられるようになっていった。

もちろん意見が食い違うこともしばしばあるけれど、お互いに自分がなぜそう思うのか、どこが分からないのかを開示し合う訓練にもなった。100%共感し合える他者なんていないのだから、ここは同じだね、ここは違うんだね、へえ面白いね、と言い合えるようになった方が良いのだ。

Podcastの良い影響は他にもあった。ずっと会っていなかった地元の同級生が私たちの配信を聴いてくれていて、長文の感想とともに「久々に会おうよ」と連絡をくれたのだ。

彼女は子育て中で、配信を聴いて夫との関係性や、家事育児の分担などについて思うところが溜まっていたらしい。自宅にお邪魔して、彼女の子どもの保育園のお迎え時間までたくさんおしゃべりをした。

久しぶりに会った同級生は、インスタで見ている「ママ」な感じではなく、昔とそう変わらなかったように思う。親になったというだけで、人が根こそぎ変わってしまうわけではないのだなと思えて、安心した。

私がかつて「ママになっちゃったな」と思った先輩も、会って話せばそんなこともなかったのかもしれない。それぞれに選んでいるものは違うし、それぞれに違う種類の悩みと喜びがある。しかし、分かり合うことは不可能ではないのだ。

母になってもその人の本質は変わらない

その後、Podcastを聴いてくれていた編集者から声がかかり、『産む気もないのに生理かよ!』という本を出すことになった。

「母になりたい」とは思えない。でも「母にならない」とファイナルアンサーも宣言できない。そんな気持ちについて吐き出したこの本は、「同じ立場の人たちのために」というよりも、産むか産まないかの問題に対する「本当の気持ち」を他ならぬ自分自身が知りたいと思って書いたものだ。

本を書く中で自分の「産む・産まない問題」にとことん向き合うことになるのだが、その結果、最後の章を書く頃には「産んでも産まなくても、どっちでも良い」と心底思えるようになっていた。

どちらを選んでも人の本質が根こそぎ変わるわけじゃない。その発見は他でもない、母になった友達たちと話し、関わることで得られたものだった。

結婚や出産は人生の進捗を示す指標ではない。何を選んでもいいし、選ばなくてもいい。そこに優劣や貴賤はない。

そう思えたとき、「産む」を選んだ人に対して複雑な感情を抱くことも、「産む・産まない」の間で揺らぐこともほとんどなくなった。

「一人で考える」と「人と話す」の往復が大事

私が「産む・産まない問題」という複雑な事柄について、ある程度スッキリすることができたのは、考えたことを頭の中だけに留めずに「自分とは違う選択をしている人」と話せたことが大きかったと思う。

《画像:書籍の刊行イベントには子どものいる人いない人、さまざまな立場の人が来てくれた》

もしあなたが子どもを持つかどうか悩んでいるのであれば、ぜひ自分の気持ちを言葉にしてみたり、信頼できそうな人に話してみたりするのをおすすめする。

いきなりまとまった文章にしたり、Podcast番組を始めたりするのは難しいかもしれないけれど、少し距離を置いていた旧友に久しぶりにDMを送ってみるとかでもいいと思う。複数人では表層的な会話しかできなくても、一対一で話してみると意外な発見があるかもしれない。

また、この問題については、「後から後悔するかもしれない」とか、「考えが変わるかもしれない」とか言われがちだ。しかし、いつだって今を生きている私たちにできることは、「とことん考えた」と言い切れるくらい、その問題に対峙することだけではないだろうか。

だって将来の自分がどう思うかなんて、絶対に分かりっこないのだから。未来に持っていけるのは「私はあのときとことん悩んで考えて、自分でこれを選んだ」という事実だけだ。

違う選択をしている他者と話すことと、一人で自分の内面と向き合うこと。その反復横跳びからこそ、「自分の本当の気持ち」が見えてくるのではないかと思っている。

編集:はてな編集部

著者:月岡ツキ

1993年生まれ。大学卒業後、IT企業でwebメディア編集やネット番組企画制作に従事。現在は都内のベンチャー企業で働きつつ、フリーランスライターとしてエッセイやインタビュー執筆・コンテンツプランニンングなどを行う。著書に『産む気もないのに生理かよ!』(飛鳥新社)。(profile photo:Wataru Kitao)

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