ギャング映画のヒロインが着用していたサングラスを元に、アレンジを加えた色気漂うアイウエア。
まだインターネットの無い時代、憧れた海外の情報を得るツールは映画だった。そのスタイルに、信念に憧れた若き日の自分がいまの自分を作り上げている。スクリーンに映る格好良い男たちから、ボクらは様々なことを学んだ。今回は、10年以上前、映画のヒロインのかけていたサングラスから着想したアイウエアを作ったという「アトラクションズ」代表・西崎智成さんのお話。
ラスベガスを作った男の波乱万丈な人生。|バグジー(1991)
幼少期から『スタンド・バイ・ミー』や『バック・トゥ・ザ・フューチャー』に代表される旧きよきアメリカ映画に親しみ、ファッションや音楽などのカルチャーにのめり込んでいったという西崎さん。
これまでにも、劇中の衣装や音楽、登場する車やバイクなどからインスパイアを受けて、自身のスタイル、そして代表を務める「アトラクションズ」のプロダクツに反映させてきた。なかでも20代前半の頃に観た『バグジー』は、西崎さんが初めてウィメンズのアイウエアを元にアレンジしてプロダクトを製作した、記憶に残っている作品であるという。
「ネバダ州の砂漠地帯にカジノ付きホテル『フラミンゴ・ラスベガス』を建設し、現在のラスベガスの礎を築いた実在のギャング、ベンジャミン・シーゲルの生涯を描いた物語です。タイトルの“バグジー”とは、害虫を意味する蔑称。舞台は1930年代〜’40年代なのですが、この時代のギャングスタイルは、ロングポイントカラーのシャツにスカーフを巻いた着こなしや、様々なモチーフや幾何学模様のプリントタイをジャケットに合わせたりと、ファッション的な観点からみても、参考になり面白いと思います」
なかでも西崎さんが注目したのは、ベンジャミンが縄張りを広げるために乗り込んだハリウッドで出会った駆け出しの女優、バージニア・ヒルだ。激しい恋に落ちるふたりのラブストーリーも作品の見どころのひとつだが、西崎さんの着眼は彼女が劇中で着用しているサングラス。約500本ものアイウエアを所有するほどの“メガネフリーク”である西崎さんからみても大きな魅力を感じたのだという。
「ややつり上がったボストン・ウェリントン型のセルフレームで、無駄のない洗練されたデザインにグッと来ました。10年以上前にはなるのですが、バージニアが着用していたサングラスをメンズ仕様にアレンジして『アトラクションズアイウエア』で[ザ フラミンゴ]というモデルを作ったんです。これまでにも多くのアイウエアを製作してきましたが、ウィメンズアイテムから着想を得てアレンジして作ったのは初めてですね。ちなみにモデル名の『フラミンゴ』はラスベガスに建てられたホテルの名前でもあり、脚の長いバージニアの愛称からインスパイアされたものです」
アイウエアに加え、この映画に関連するファッションアイテムとして西崎さんがコレクションしているもうひとつのプロダクトがプリントタイだ。蜘蛛の巣やウエスタンのモチーフ、所有者のイニシャルなどがハンドプリントされたヴィンテージタイは20代後半から集め始めたといい、西崎さんが所属するバンドのステージ衣装として着用することもあるのだとか。Vゾーンに威厳をもたらす幅広のデザインで、素材はレーヨンやシルク、そしてほとんどがアメリカ製だ。
「劇中では、スーツにプリントタイというスタイルのギャングが多数登場します。おそらくアメリカ特有の着こなしだと思うのですが、剣先がベルトにかからないくらいのやや短めで締めているのが特徴です。高校生の時からギャング映画を観始めたのですが、ギャングたちのスーツの着こなしは参考になる点がたくさんありますね」
アカデミー賞における衣裳デザイン賞を受賞するほど、登場するギャングたちの着こなしをはじめ、劇中衣装が高い評価を受けている『バグジー』。作品の魅力について西崎さんは
「ファッション的な観点ではもちろんのこと、物語としても大好きな作品です。『ラスベガスに楽園を作る』という夢に向かって突き進む主人公の姿は単純にかっこいいと思いますし、同時に短気な性格や、家族を顧みずに恋に走ってしまうところなど、彼の人間的にダメな部分もしっかりと描かれているので、より等身大な存在として物語に没頭することができます。スクリーンという非現実世界の中から、ファッションや音楽、バイクなどのカルチャーを自身の生活にリアリティを持って落とし込み、楽しむことができるのが自分にとっての映画の魅力。その魅力を存分に体感することのできる作品だと思います」