険しさも和らぐ秋景色かな 釜石・仙人峠マラソン 急坂挑むランナーら「楽しい」
急勾配を駆け抜ける「かまいし仙人峠マラソン大会」(同実行委主催)は10月27日、釜石市甲子町大橋の旧釜石鉱山事務所を発着点に行われた。15回目となった大会には、国内外から122人が参加。秋色深まる峠道は見るに楽しいが、アップダウンの激しさも併せ持ち、そんな難コースにランナーたちは果敢に挑んだ。
2010年に始まった同大会は、仙人峠の紅葉のように美しく明るいまち、険しい道のりを乗り越える力を育むことを目標に掲げる。新型コロナウイルス禍で中止していたが、昨年4年ぶりに復活。従来の2コース(17.2キロ、10キロ)を一本化させた形の、約10キロの峠コースに絞って実施した。
今回は昨年の峠コースを16.9キロに延伸。国道283号を下った大松と、標高差約400メートル、平均斜度約5%の坂を上った遠野市との境となる仙人トンネルの釜石側入り口付近の2地点で折り返すコースにした。
高校生から80歳までのランナーは一斉にスタートし、大松までの下りを快走。4.8キロ地点で折り返すと、一転して緩やかな上りとなり、大橋トンネルを抜けた10キロ地点に姿を見せた挑戦者の表情はさまざまだった。軽快さを残す人もいれば、顔を赤らめたり、息があがっていたり。すでに歩きを取り入れている様子も見受けられたが、さらに険しさを増す急坂へ向かった。
仙人トンネル手前の地点までひたすら続く坂道を体力と精神力で駆け上がり、下るランナーを沿道からの声援が後押し。「ファイト!」「がんばれー」「あと少し」を力にゴールした挑戦者たちには「達成感」という笑顔が共通していた。
最も遠くからの参加者に贈られる「遠来賞」を受けた川本啓さん(44)は知人の誘いがあって、12年以来2回目の参加。コースの“きつさ”を知っていたことから余力を残す形で、木々で色づく景色やあたたかい応援を楽しみに走った。開会式で担当した選手宣誓を有言実行。「参加者同士で励まし合いながら、幸せや釜石の未来を思って走り抜いた」とすがすがしい表情を見せた。
誘った知人というのが、釜石出身のリンドステット佳奈さん(42)。スウェーデンから里帰り中で、夫のトーマスさん(45)が初参加していて「本当は私たちが遠来賞だね」と笑っていた。ゴール近くで待ち構えた子どもたち、コンラッドさん(8)、クヌートさん(6)の歓迎を受けたトーマスさんは「ハードで、ちょっとタフなコースだったが、とっても楽しかった。距離は短いかな」とニヤリ。沿道から聞こえてきた野球少年の声や自然の美しさが印象に残ったと満足そうだった。
「満身創痍(そうい)」「いや、余裕っスよ」。完走後にそんなやりとりをしていたのは釜石海上保安部の5人で、巡視艇「きじかぜ」に乗って海の安全・保全業務に励む仲間だ。2回目の参加となる船長の昆諒平さん(35)が「釜石勤務時の思い出づくりに」と声をかけ、いずれも初エントリーの岩波健太郎さん(37)、小野潤一さん(28)、小谷涼太さん(21)、岡安健太さん(28)とともに力走した。海上から陸上へ足場を移した活動に、「山は海の恋人といいますから」と笑い合い、団結力を強化。体力アップも図り、「愛します!守ります!海のもしもは118番」とアピールも忘れなかった。
大漁旗Tシャツとラグビーボールのかぶりもので“釜石愛”を見せたのは、東京都の会社員飛澤潔一さん(39)。第1回大会から欠かさず参加し、「ちょうどハロウィーンの時期なので」と、ちょんまげやネコ耳など毎回、頭のプチ仮装で楽しませる。「昨年は10キロだったので、今年は途中からすごくきつくて…。沿道の応援やきれいな紅葉が励みになった」。釜石に親戚がいて、「遊びにくる口実に」と大会参加を続ける。「39歳以下の部への参加は今回で最後。振り返ると感慨深い。今年は参加者が少ないようだが、来年また盛り返してくれるといい」と望んだ。
難コースでつらさを予想するも、意外と多いのが笑い顔。東京都北区の笹岡由喜枝さん(65)も満面の笑みを蓄えながらゴールした。東日本大震災の復興支援が縁で同大会への参加を重ねてきたが、昨年はケガで断念。再戦を果たした今回、喜びを体現しながら走り切った。沿道から届く「走りに寄り添うような応援がありがたくて笑顔を返すの」と話し、信条とする「スマイルラン」で再来を思い浮かべていた。
挑戦者たちの走りを地域住民、小中学生ボランティアが支えた。甲子中生はゴール付近で計測タグを回収したり水を手渡したり補助員として活躍。6カ所に分かれ給水係を担ったのは甲子地域会議内の各町内会員ら約50人で、釜石野球団Jr.(ジュニア)など野球少年も加わった。
釜石ファイターズから20人余りが参加。小原璃青さん(小学5年)は「みんな、最後まで走り切ろうと頑張っていてすごい。自分たちの応援でゴールまで行ってほしい」と気持ちを込めて声を出した。「ゴーゴー仙人?」「さーいきましょう。やってきました仙人マラソン」など、野球の応援をアレンジした節や替え歌で盛り上げたり、選手とハイタッチする姿も。松本航汰さん(同2年)は「懸命に走っていてかっこよかった。地域の活動をお手伝いして、役に立つことができた」とうなずき、八重樫光彦コーチ(41)は「子どもたちがスポーツの力を感じ、刺激になれば」と期待した。
「マニアックなコースを楽しんでもらった」と小泉嘉明実行委会長(市体育協会長)。昨年に続き、運営体制などを考慮し規模を縮小した形となったが、「このコースはまれ。どうにか生かしたい。親子で楽しめることを考えてみたり…」と、継続への思いは上向きのようだ。