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食い波を見極めてヒレピンの美形アマゴを釣る

つり人オンライン

食い波を見極めてヒレピンの美形アマゴを釣る

名手・白滝治郎さんが語る、自然と共にあるアマゴ釣りの現在地とは。

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写真と文◎編集部

雪の多いシーズン

岐阜県郡上では近年にない久方ぶりのドカ雪が降った。郡上漁協管内の長良川は2月1日に解禁日を迎えたが、雪代の影響で4月に入ってもアマゴの活性は高まっていない。
「今年はアマゴのシーズンが1ヵ月遅れていると感じます。例年ならサクラが咲き始めると長良川本流のアマゴもよう食い出すんですが、雪代が入って冷たい。なにせ自宅の屋根瓦の一部が雪の重さで壊れるくらいよう降りました。白山連峰もまだ深い雪が残っているし、白鳥から九頭竜川に通じる油坂峠では雪崩が発生して九頭竜湖の手前で通行止めになっています。アユ釣りが始まれば郡上と九頭竜を行ったり来たりする友釣りマンも多い道ですから夏までに復旧してくれることを願いたい」
 そう話すのは白滝治郎さんだ。「釣聖」と呼ばれた恩田俊雄さんや「萬サ」の愛称で親しまれた古田萬吉さんら伝説の川漁師が現役だった時代から、白滝さんは渓流釣りの技術を磨き、郡上の職漁師の理論を現代に継承しているひとりである。また2021年からは長良川を愛する組合長としても手腕を発揮し、アマゴ・アユともに多くの釣り人を呼び込むことに成功している。


 記者が郡上八幡を訪れたのはサクラがポツポツと咲き始めた4月7日。白滝さんの自宅に行くと、先述の雪の話があり「本流は厳しいでしょうね。支流の釣果に期待しましょう。まずは吉田川から釣ってみますね」と愛車の軽トラを走らせた。過疎化や河川荒廃で全国の内水面漁協が経営難に苦しむなか郡上漁協は元気である。白滝さんが組合長になって4年間は黒字続き。地域商標を登録した「郡上鮎」の豊洲市場への出荷や遊漁券収入といったアユ関連の施策が上手くいっているのはもちろん、アマゴ・サクラマス釣りの遊漁券収入も売上に貢献している。
全国の内水面漁協には増殖の義務が課されているが、郡上漁協ではアマゴの増殖はどのような方針で行なわれているのか聞いてみた。
「解禁初期は釣りやすい成魚も放流しますが、基本方針は水に強く環境変化にも強いネイティブな魚を増やすことです。数年前から稚魚と成魚の放流をぐっと減らして、発眼卵放流(中に眼ができた状態の卵を礫に埋めて放流する方法)に力を入れてきました。例年20万以上の卵を入れており、昨年の10~11月には24万粒を放流しています。それと親魚を245㎏放流しました。川由来の遺伝子に近づくように考え、抱卵したメスだけをオスの姿が確認できる細流に入れるのです。天然魚の産卵場となる種沢の保護も重要で20数ヵ所の沢は禁漁区に指定し、ここには一切放流をしません。アユは放流すればその年に釣果が出ますが、アマゴは前年ではなく前々年に産まれた仔魚が1年の成長期間を経て釣り人が楽しめるサイズになる。長期的な目で見た環境整備がとても大切です。それと私も釣り人ですからヒレの張った昔ながらのアマゴを釣りたいし、釣らせてあげたい想いがあります」
 この方針は確実に実を結んでいる。近年の郡上は本・支流ともにヒレピンの美形魚がよく釣れる。釣り人の満足度が高いのは入漁者数でも分かる。昨年度の実績でいえば年券の売上で2404枚あり、日券は4497枚の実績がある。年券購入者が15日川に通ったとする白滝さんの概算では、アマゴ釣りに訪れる延べ遊漁者数は4万557人にのぼる。渓流釣りの衰退が叫ばれる中で、シーズンにこれだけの釣り人が訪れる川はそうはないだろう。


 また川を育む森にも目を向け、広葉樹林を主体とした自然林の回復をねらい「長良川源流の森育成事業」も行なっている。濁りが入るような河川工事も勝手にはさせない。まさに川を元気にする守り人として機能している漁協である。 さて、釣りの話に戻ると白滝さんが吉田川を訪れたのは今シーズン2度目。3月初旬に訪れた際は魚の活性が低すぎてピリッとも反応が得られなかったそうだ。1ヵ月後となるこの日の状況はどうかといえば「水量はいい感じですが、水色からして雪代は入っています。水温は7℃くらいでしょう。アマゴはまだ瀬の中で元気にエサを食べる状態ではありませんね」と言う。こんな状況で重点的にねらうのは流れの緩い瀬脇や淵尻だ。 白滝さんは愛竿のダイワ「流覇」60を伸ばすとフロロカーボン0.15号の仕掛けを張った。オモリはG1、ハリはがまかつ「V2ヤマメ」の4号である。
「エサはヒラタです。それも石をひっくり返して採るオコシムシではなく、石をヘチマなどで撫でて採るナデムシ。3月まではキンパクでよく釣れますが4月以降は羽化してしまい採れにくい。4月以降は大きめのヒラタにアタリがよく出るんです。流下しやすい虫なのでアマゴにとってはお米みたいなエサですからね」
 郡上で生まれ育った名手は川虫で釣ることにこだわる。入梅の頃はキヂ(シマミミズ)も使うが、イクラやブドウムシでは釣りたくないという気概がある。郡上の釣具店には渓流シーズンの2~5月にヒラタやキンパクが販売されているのが常だ。店の人は虫を採取するため福井や新潟と県外にも足を伸ばす。こうした渓流釣りの伝統が令和の現代にも残る稀有な土地、それが郡上なのだ。
 また郡上の釣り人は吹き上がる流れを「男波」、引き込む流れを「女波」、そしてアマゴが食う流れを「食い波」と言って表現する。食い波は流れの揉み合わさる「ヨレ」、石前やカケアガリといった魚が定位しやすい「ウケ」が複合されたスポットに多い。こうして流れを読んで仕掛けを繊細にさばきアマゴの口もとにエサを届けていく。
 ポイントに立つまでの白滝さんの足取りは静かである。バシャバシャと水音を立てるような動きはしない。魚を驚かせんとする落ち着きがあり、アプローチには渓魚に対する敬意さえ感じられる。概ねアマゴが付くだろう食い波のやや上流に立ち、仕掛けを振り込みオモリとエサが底波に馴染んだところでイトを上流側に斜めにして送り込む。イトが受ける水流抵抗をなるべく軽減する流し方でエサをくわえたアマゴが違和感を抱きにくい釣り方だ。アマゴの目の前にエサをきっちり流し込めば目印が止まり、グッと抑え込まれるアタリが出る。
 しかし丁寧なアプローチをしてもアタリは遠くポイント移動を繰り返す。3ヵ所目の車移動で訪れたのは吉田川の中流部だ。低い堰堤の下流で右岸と左岸に流れが分かれる。本線は右岸筋だが低水温の日は水量の少ない左岸筋のほうが口を使うアマゴがいるだろうと白滝さんは探っていく。緩い瀬のカケアガリにヒラタを送り込み、筋を変えて数投するとこの日初めてのアタリを得た。しかしアタリはその1度きり。今度は中州に渡り、上流に歩を進めて左岸の深みを転々と探る。時刻は正午になっており周囲にはカゲロウが飛び交うようになった。やがて堰堤下まで来ると水面に泡の浮かぶバブルレーンでアマゴと思しきライズが見られた。
 白滝さんはライズが多発するような状況ではガン玉をG4~ G5と軽めにしてふわりと流す。目線が上を向いている魚に対してふわふわと中層を流しやすくするのである。目の前のライズスポットでもそのようにねらってみるとエサが着水して川底に馴染むまでに目印を引き込むアタリが出て、すかさず合わせると乗った。力強い引きで抵抗する魚を落ち着いてタモに収めると肉厚な25㎝クラスである。
「アマゴは釣られていないだけでエサをちゃんと食っていますね(笑)」
 と目を細める。その後もライズは見られたが釣果は続かず、午後からは別の川を巡ることにした。昼食後は郡上大和の支流の栗巣川に入る。渓が深くないためシーズン初期からコンディションのよいアマゴが釣れるスポットだが、この日は1尾のバラシがあったのみ。続いて長良川本流も探ってみたがやはり雪代の増水でアタリはない。
太陽がだいぶ西に傾いた16時ごろ最後のポイントとして牛道川を訪れた。
 牛道川の流域は日当たりがよいことから稲作の盛んな土地である。このため取水堰堤も多く下流部は水量が乏しい。それが東海北陸自動車道の高架下辺りで水量が増え、落差の大きな川相になる。白滝さんは落ち込みの深みを転々と探っていくが反応は得られない。川底に青藻が多く生えていることから、こうした藻の少ない瀬の緩流帯にねらいを絞って仕掛けを流すと待望のアタリが出た。愛竿の流覇をぐっとためれば水面を割ったアマゴがタモに向かって舞い上がった。


「流れの中で食わせたうれしい1尾です(笑)。私は川底が明るく見える流れにアマゴは多いという持論を持っていますが、この魚もまさしく川底が明るい場所で食ってきました」 と会心の1尾を手にして白滝さんはサオを収めた。「各流域に釣れ残っているポテポテの魚体が爆発的に釣れ盛りそうな予感がします!」と期待を胸に膨らませる白滝さんであった。

 

 

 

 

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