親の介護をしたくないと感じる方へ、負担軽減と自分の生活を守る3つの方法
親の介護をしたくないと思う理由と向き合い方
親の介護について考えると、不安や戸惑いを感じる方は少なくありません。特に、仕事や自分の家庭がある中で、親の介護をどのように行っていけばよいのか悩む方も多いでしょう。
親の介護に対して負担感や不安、拒否感を抱くのは自然なことです。これらの感情は決して特別なものではなく、多くの人が経験するものです。まずは、そのような気持ちを抱く理由について考えてみましょう。
時間的・精神的負担への不安
親の介護を行うことで、自分の時間が取れなくなるのではないか、精神的にも疲れ切ってしまうのではないかという不安を抱えている人も多いのではないでしょうか。実際、介護による時間的・精神的負担は大きく、介護離職の原因にもなってしまっているのが現状です。
厚生労働省の「令和4年就業構造基本調査」によると、介護・看護を理由に離職した人は年間約10.6万人にのぼります。この数字からも、介護による負担の大きさがうかがえます。
しかし、介護サービスや支援制度を活用することで、負担を軽減することが可能です。後ほど詳しく説明しますが、介護保険制度の利用や仕事と介護の両立支援制度の活用など、さまざまな選択肢があります。
一人っ子の介護問題とは
一人っ子の場合、親の介護を一人で担わなければならないという不安が特に大きくなります。兄弟姉妹がいる場合と比べて、介護の負担が集中しやすいのが一人っ子の特徴です。
国立社会保障・人口問題研究所の「第15回出生動向基本調査」によると、1980年代以降に生まれた世代では、一人っ子の割合が18.6%に達しています。この数字は上昇傾向にあり、今後ますます一人っ子の介護問題が増加する可能性を示しています。
一人っ子の方が介護を担う場合、以下のような対策を考えることが重要です。
介護の専門家や支援サービスを積極的に活用する
親戚や友人など、身近な人たちにサポートを求める
介護と仕事の両立支援制度を利用する
これらの対策を組み合わせ、一人で抱え込まずに介護を行うことが大切です。
仕事と介護の両立に関する悩み
仕事をしながら親の介護を行うことは、多くの人にとって大きな課題となっています。時間の制約や精神的なストレス、経済的な負担など、さまざまな側面で困難を感じる方が少なくありません。
介護を理由に離職した人の多くが「仕事と介護の両立が難しかった」と感じています。この意見は仕事と介護の両立の難しさを如実に表していますが、仕事を続けながら介護を行うことは決して不可能ではありません。
状況によって異なる部分はありますが、実際にさまざまな制度を活用して両立を実現しているケースもあります。そのほか、介護サービスも上手に取り入れることで、仕事と介護の両立は可能になるでしょう。ただし、そのためには早めの準備と情報収集が欠かせません。
「親の介護をしたくない」という気持ちは、決して特別なものではありません。むしろ、自然な感情と捉えることもできます。大切なのは、その気持ちを認識した上で、どのように向き合い、対策を立てていくかということです。次の章では、具体的な負担軽減策について見ていきましょう。
親の介護を避けたい人のための負担軽減策
親の介護を完全に避けることは難しいかもしれませんが、制度やサービスを利用することで、負担を大幅に軽減できる場合があります。ここでは、介護保険制度の活用方法や専門サービスの利用、仕事と介護の両立支援制度について詳しく説明します。
介護保険制度を活用する方法
介護保険制度は、介護が必要な高齢者を社会全体で支える仕組みです。この制度を上手に活用することで、介護の負担を軽減することができます。
まず、介護保険サービスを利用するためには、要介護認定を受ける必要があります。要介護認定は、介護の必要度を7段階(要支援1・2、要介護1~5)で判定するものです。認定を受けると、その程度に応じてさまざまなサービスを利用できるようになります。
主な介護保険サービスには以下のようなものがあります。
訪問介護(ホームヘルプサービス)
通所介護(デイサービス)
短期入所生活介護(ショートステイ)
訪問看護
これらのサービスを組み合わせて利用することで、在宅介護の負担を軽減することができます。例えば、平日はデイサービスを利用し、週末は家族で介護を行うといった方法を取れるようになります。
介護保険サービスの利用には、原則として1割の自己負担がかかります(一定以上の所得がある場合は2割または3割)。しかし、サービスの利用によって得られる負担軽減の効果を考えると、十分に価値があるといえるでしょう。
排泄介助ができない人向けのサービス
親の排泄介助ができないと感じている方も多いのではないでしょうか。特に、異性の親の場合であると排泄介助に対する心理的抵抗感がより強いかもしれません。
そのような場合に利用できるサービスがあります。主なものとしては以下のようなサービスがあります。
排泄介助に関するサービス
訪問入浴介護:専門のスタッフが自宅を訪問し、浴槽を持ち込んで入浴の介助を行います。
訪問看護:看護師が自宅を訪問し、医療的ケアや排泄介助などを行います。
通所介護(デイサービス):施設で入浴や排泄の介助を受けられます。
これらのサービスを利用することで、排泄介助に関する負担を軽減することができます。専門サービスを利用することで、介護者の心理的負担を軽減するだけでなく、要介護者にとっても適切なケアを受けられるというメリットがあります。
仕事と介護を両立させるための制度活用法
仕事と介護の両立を支援するための制度も充実してきています。これらの制度を知り、適切に活用することで、仕事を続けながら介護を行うことが可能になります。
主な両立支援制度には以下のようなものがあります。
主な両立支援制度
介護休業制度:要介護状態の家族1人につき、通算93日まで休業できる制度
介護休暇制度:年5日(対象家族が2人以上の場合は年10日)まで、1日単位または時間単位で取得できる休暇制度
所定外労働の制限:残業を免除してもらえる制度
時間外労働の制限:1ヵ月24時間、1年150時間を超える時間外労働を制限できる制度
深夜業の制限:午後10時から午前5時までの深夜勤務を制限できる制度
これらの制度は、「育児・介護休業法」に基づいて定められており、原則としてすべての事業所で導入されています。
また、フレックスタイム制度や在宅勤務制度などの柔軟な働き方を導入している企業も増えています。これらの制度を活用することで、介護の時間を確保しやすくなります。
仕事と介護の両立支援制度を利用する際は、以下の点に注意しましょう。
早めに上司や人事部門に相談する
制度の詳細を確認し、自分の状況に最適な制度を選ぶ
同僚への配慮を忘れない
定期的に状況を報告し、必要に応じて制度の利用を見直す
ただし、介護の状況は常に変化するため、定期的に自分の状況を見直し、必要に応じて制度の利用方法を調整することが大切です。
親の介護を完全に避けることは難しいかもしれませんが、これらの負担軽減策を活用することで、介護のストレスを大幅に軽減することができます。次の章では、家族で介護の責任を分担する方法について見ていきましょう。
親の介護をしたくない気持ちを家族で共有する方法
親の介護は、一人で抱え込むものではありません。家族全体で協力し、介護の責任を分担することで、個人の負担を軽減することができます。ここでは、家族で介護の責任を分担する方法や、親との介護に関する話し合いのポイント、そして介護に関する法的責任と倫理的配慮について説明します。
介護の責任を家族で分担する方法
介護の責任を家族で分担することは、個人の負担を軽減するだけでなく、家族の絆を強める機会にもなります。ただし、分担の方法によっては家族間の争いや不仲を生む可能性もあるため、慎重に進める必要があります。
以下に、介護の責任を家族で分担する際のポイントを挙げます。
介護の責任を家族で分担する際のポイント
家族会議を開く:定期的に家族会議を開き、介護の現状や課題、今後の方針について話し合います。
各自の状況を共有する:仕事の状況や家庭の事情など、各自の置かれている状況を共有し、互いの立場を理解し合います。
具体的な役割分担を決める:例えば、「平日の夜の見守りは長男が担当」「週末の通院付き添いは次女が担当」といった具体的な役割分担を決めます。
金銭的な負担の分担も考慮する:介護にかかる費用の負担方法についても話し合います。
定期的に見直す:介護の状況は常に変化するため、定期的に分担の内容を見直し、必要に応じて調整します。
家族で介護の責任を分担する際は、それぞれの事情や能力を考慮することが大切です。例えば、近居の家族が日常的な介護を担当し、遠方に住む家族が定期的に帰省して介護を交代するなど、柔軟な対応が求められます。
また、先述の通り、介護保険サービスを利用することで家族の負担を軽減することも重要です。デイサービスやショートステイなどのサービスを上手に活用することで、介護の質を保ちながら、家族の負担を減らすことができます。
親との介護に関する話し合いのポイント
親との介護に関する話し合いは、できるだけ早い段階で行うことが望ましいです。親が元気なうちに話し合いを持つことで、互いの希望や考えを共有し、将来の介護に備えることができます。
以下に、親との介護に関する話し合いのポイントを挙げます。
親との介護に関する話し合いのポイント
親の希望を聞く:どのような介護を望むか、自宅で過ごしたいか施設に入りたいかなど、親の希望をしっかりと聞きます。
家族の状況を説明する:家族の仕事や生活の状況を説明し、できることとできないことを明確にします。
介護保険制度について説明する:介護保険制度の仕組みや利用できるサービスについて説明し、制度の活用を提案します。
財産管理について話し合う:親の財産管理方法や、介護にかかる費用の負担方法について話し合います。
定期的に話し合いの機会を持つ:介護の状況は変化するため、定期的に話し合いの機会を持ち、方針を見直します。
親との話し合いは、時には感情的になることもあるかもしれません。しかし、お互いの立場を理解し合い、冷静に話し合うことが大切です。必要に応じて、ケアマネージャーなどの専門家に同席してもらうのも一つの方法です。
介護に関する法的責任と倫理的配慮
親の介護に関しては、法的な責任と倫理的な配慮の両面から考える必要があります。
まず、法的な観点からみると、民法第877条に「直系血族及び兄弟姉妹は、互いに扶養をする義務がある」と規定されています。これは、親の介護も扶養義務に含まれるという解釈が一般的です。
ただし、この扶養義務は絶対的なものではありません。扶養する側の生活が脅かされるほどの負担を強いるものではないと解釈されています。つまり、自分や自分の家族の生活を維持できなくなるほどの介護の負担は、法的には求められていないのです。
一方、倫理的な観点からは、親を介護することは社会的に期待される行為であり、多くの人が道徳的な義務感を感じています。しかし、この倫理的な期待と現実の介護の負担との間にはしばしば大きなギャップがあり、介護者のストレスや葛藤の原因となっています。
このような法的責任と倫理的配慮のバランスを取るためには、以下のような点に注意することが大切です。
法的責任と倫理的配慮のバランスを取るためのポイント
自分の限界を知る:自分にできることとできないことを明確にし、無理をしすぎないようにします。
介護保険サービスを活用する:専門的なサービスを利用することで、適切な介護を提供しつつ、自身の負担を軽減します。
家族や周囲の協力を得る:一人で抱え込まず、家族や周囲の人々の協力を得ることが重要です。
専門家に相談する:ケアマネージャーや介護の専門家に相談し、適切なアドバイスを受けましょう。
自分の生活も大切にする:介護者自身の健康や生活を犠牲にしないことが、長期的には良い介護につながります。
親の介護は確かに大きな負担となりますが、家族で協力し、社会のサポートを受けながら取り組むことで、その負担を軽減することができます。
親の介護をしたくないという気持ちはある意味自然なものですが、それを出発点として、どのように介護と向き合っていくかを考えることが大切です。
介護は長期にわたる取り組みです。一人で抱え込まず、家族や専門家、社会のサポートを受けながら、自分らしい介護のあり方を見つけていくことが重要です。
そして、介護をしながらも自分の人生を大切にし、豊かな人生を送ることができるよう、バランスを取っていくことが求められます。
最後に、介護に悩んだときは、一人で抱え込まず、周囲の人々や専門家に相談することをおすすめします。地域包括支援センターやケアマネージャー、介護経験者の集まりなど、さまざまな相談先があります。あなたの状況に合った支援を見つけ、より良い介護生活を送れることを願っています。