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ノーマライゼーションとは?介護現場での実践方法と8つの原理を簡単に解説

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ノーマライゼーションとは?介護現場での実践方法と8つの原理を簡単に解説

ノーマライゼーションの基本理念と歴史

ノーマライゼーションの定義

ノーマライゼーションとは、障がい者や高齢者を含むすべての人々が、障がいの有無にかかわらず普通の生活を送れる社会を目指す理念で、支援が必要な人を社会から分離して扱いするのではなく、支援の必要がない人と同じように地域社会で生活できる環境を整えることを目的としています。

現在、人口全体に占める65歳以上の高齢者人口は2024年時点で29.3%となっており、過去最高を記録しています。また、推計によればこの割合は上昇を続けていく見込みで、2040年には34.8%、2045年には36.3%になるといわれています。

出典:総務省統計局「統計からみた我が国の高齢者」を基に作成

こうした急速な高齢化が進む中で、ノーマライゼーションの理念はすべての人々にとってより重要性を増しています。

日本政府(厚生労働省)は、ノーマライゼーションを「障がいのある人もない人も、互いに支え合い、地域で生き生きと明るく豊かに暮らしていける社会」と定義しています。つまり、誰もが地域の一員として尊重され、自分らしい当たり前の暮らしを営める社会を築くための基本理念といえます。

ノーマライゼーションという言葉は「ノーマル(normal=普通)」から派生したもので、英語のnormalize(正常化する)を名詞化したものです。

ノーマライゼーションを具体化する取り組みとして、以下のような考え方があります。

バリアフリー:物理的・制度的な障壁を除去すること ユニバーサルデザイン:最初から誰もが使いやすい設計にすること

この理念は障がい者基本法にも反映されており、障がいの有無にかかわらず等しく基本的人権を享有するかけがえのない個人として尊重されるべきことが、社会の基本として位置づけられています。

ノーマライゼーションの歴史的背景と日本での導入

ノーマライゼーションの考え方は、1950年代のデンマークで誕生しました。知的障がい児の親たちと行政官ニルス・バンク=ミケルセンの運動により、1959年に世界初の知的障がい者福祉法が制定されたことにより、ノーマライゼーションの理念が法的に取り入れられました。

その後、この理念は北欧や北米に広がり、1960年代末〜1970年代初頭にはスウェーデンのベンクト・ニィリエが8つの原理として理論化しました。これは現在でも、ノーマライゼーション実践の基本指針として活用されています。

日本では、1981年の国際障がい者年を契機に、ノーマライゼーションへの注目が高まりました。この年を境に、障がい者福祉施策の基本的な理念として取り入れられるようになったのです。

日本におけるノーマライゼーション導入の具体的な変遷をみてみましょう。

1970年:「心身障がい者対策基本法」制定(身体・知的障がい者のみが対象) 1980年代:在宅福祉サービスの推進開始 1993年:「障がい者基本法」への改正(精神障がい者を含む共生理念が明確化) 2006年:「障害者自立支援法」の施行 2016年:「障害者差別解消法」の施行

2000年代頃からは、障がい者が施設ではなく住み慣れた家庭や地域で暮らせるよう、在宅福祉サービスが積極的に推進されました。

実際、2024年時点での介護サービス受給者数をみると、居宅介護支援・居宅サービスが大きな割合を占めている状況が確認できます。

高齢者福祉の分野でも、施設中心から地域生活中心へと方針転換が進み、地域包括ケアシステムなど「住み慣れた地域で最期まで暮らす」取り組みが広がっているのです。

介護サービスにおけるノーマライゼーションの必要性

介護現場では、ノーマライゼーションの理念がサービス提供の基本となっています。具体的には、利用者が住み慣れた家や地域で可能な限り暮らし続けられるよう支援することが中心となります。

日本の高齢者介護は制度開始当初、施設介護が中心でしたが、2000年の介護保険制度創設以降、在宅介護へ軸足が移っています。大きな環境変化を強いる入所よりも、自宅や地域で暮らし続ける方が生活能力や意欲を保ちやすく、生活環境の変化が少ないため、比較的ストレスが少ない状態で介護サービスを受けることができます。

障がい者福祉分野でも、1980年代頃からノーマライゼーションの浸透により、自宅・地域で暮らせるよう在宅サービスが整備されてきました。これにより、従来の施設中心のケアから、より個人の尊厳を重視したケアへと転換が進んでいます。

介護職には主に次のような姿勢が求められます。

利用者の自己選択の尊重 行政や施設側の一方的な決定を避ける 利用者自身がサービス内容や生活スタイルを決められるよう支援

例えば、デイサービス利用の曜日や時間を本人の希望に合わせたり、可能な範囲で家庭的な生活リズムを維持するなど、利用者主体のケアがノーマライゼーション実現につながるでしょう。

このように介護サービス全体を「特別な場」ではなく、地域での普通の暮らしの延長として提供することが重要なのです。

介護におけるノーマライゼーションの8つの原理

ノーマライゼーションの8つの原理一覧と介護現場で求められる能力

ノーマライゼーションの理念は、スウェーデンのベンクト・ニィリエによって8つの原理として体系化されました。これらは障がいのある人々に「普通の生活条件」を保障するための具体的指針となっています。

1日のノーマルなリズム

一日の生活リズム(食事・仕事・休息・睡眠など)が一般の人々と同様に営まれること

1週間のノーマルなリズム

平日と休日を含む一週間の生活パターンが、障がいのない人とほぼ同じであること

1年間のノーマルなリズム

季節行事や長期休暇など一年を通じた生活サイクルを享受できること

ライフサイクルにおけるノーマルな発達的経験

幼少期から高齢期まで、その人の年齢相応の成長過程(進学、就職、結婚など)の機会が保障されること

ノーマルな個人の尊厳と自己決定権

個人がもつ当たり前の欲求やこだわりが十分に尊重されること

ノーマルな性的関係

障がい者も障がいのない人と同様に恋愛や結婚、家庭生活を営む機会をもてること

ノーマルな経済水準

障がいの有無によって経済的な生活水準が不当に低くならず、社会一般の水準に近い暮らしが保障されること

ノーマルな環境水準

地域の他の市民と同じ施設・制度を利用でき、住環境の質も特別扱いではなく地域標準に近いレベルが確保されること

これらの原理は、障がい者が社会から隔離されてしまうことを防ぐために、環境だけでなく人々の意識や制度の変革まで求める包括的な理念といえます。ノーマライゼーションは単なる物理的な環境整備に留まらず、社会全体の価値観や制度を「当たり前」に変えていくことを意味しています。

介護施設におけるノーマライゼーションの実践方法

施設ケアの場でも、ノーマライゼーション実践の工夫が拡大しています。従来の大規模な老人ホームでは画一的な集団生活になりがちでしたが、現在ではユニットケアと呼ばれる小規模単位のケア手法が普及しています。

これは概ね10人以下の個室と共同リビングを一つのユニットとし、自宅のような雰囲気の中で生活リズムを尊重したケアを行う方法です。

例えば、特別養護老人ホームでは、ユニットごとに固定の職員を配置し、利用者が自分のペースで過ごせるよう支援しているケースがみられます。施設に居ながら家庭的な生活を維持することにより、利用者一人ひとりの個性やペースを大切にしたケアが可能になります。

施設内でのノーマライゼーションの具体的な実践例としては下記のようなものがあげられます。

起床・就寝時間の個別調整 入浴・食事のタイミングを個人の希望に合わせる 全室個室によるプライバシー確保 居室を自分の好きな家具や写真で飾る自由

さらに、施設と地域社会の交流も積極的に奨励されています。地域のイベントに利用者が参加したり、地元ボランティアを受け入れて一緒に活動するなど、施設の中に閉じこもらず地域の一員として関われる機会をつくることも、ノーマライゼーション実践の重要な要素です。

これらの取り組みにより、施設での生活であっても、可能な限り普通の生活に近い環境を提供できます。

介護福祉士に求められるノーマライゼーションの実践能力

介護福祉士をはじめとする介護職には、ノーマライゼーションの理念を日々のケアで実現する重要な役割が求められます。

介護職員の必要数は年々増加の一途をたどり、2026年度には約240万人に、さらに2040年度には約272万人に達すると推計されており、増加する介護人材需要に対応するためにも、これらの能力を持つ人材の確保・育成が急務となっています。

出典:厚生労働省「第9期介護保険事業計画に基づく介護職員の必要数について」を基に作成

利用者の尊厳と自己決定の尊重 介護福祉士は利用者一人ひとりの基本的人権を擁護し、意思決定を最大限に尊重する姿勢が求められます。例えば入浴や外出の可否を本人の希望に沿って決めるなど、利用者本位の対応を徹底することが重要です。 自立支援の視点 単にお世話をするのではなく、利用者ができることは自分で行い、できない部分を支援するという自立支援の考え方が重要です。過度な介助は避け、利用者の能力を引き出すケアが求められます。 代弁・擁護する力 利用者が自ら意思表明できない場合には、真のニーズを汲み取り、代わりにそれを発信・擁護する力も必要です。また、現場で気付いた利用者の要望や不満を他職種や行政に伝え、環境改善につなげることも介護職の大切な役割です。 多職種・地域連携能力 利用者に最適な生活を提供するには、医療・リハビリ・行政など関連職種や地域の社会資源と積極的に連携する協調性が不可欠です。地域包括ケアの一員として情報共有し、包括的な支援体制を築く力が求められます。

ノーマライゼーションの課題と介護現場での解決策

ノーマライゼーション実践における問題点

ノーマライゼーションの理想を現場で実践するには、いくつかの深刻な課題が存在します。これらの問題を理解し、適切に対処することが求められています。

最も大きな課題の一つは、社会全体の意識改革の遅れです。障がい者や要介護高齢者に対し、依然として「障がいがあり、助けが必要な人」といった先入観を持つ見方が残っています。このような心理的バリアがあると、当事者を対等な社会の一員として受け入れる妨げになってしまいます。

物理的な課題としては、バリアフリー環境の整備が不十分であることが挙げられます。車椅子利用者にとって段差や狭い通路は依然として大きな障壁であり、段差・狭い道・未整備の道路など、移動の自由を妨げる要因が多く残っています。

もう一つの課題は、理念自体の浸透不足です。障がいのある人や高齢者の能力・可能性を高め自立を促すという視点が一般化しておらず、支援が画一的・過保護的になってしまうケースも少なくありません。

世間一般的な課題と合わせて、以下のような介護現場特有の課題も存在します。

人手不足による個別ケアの困難さ 予算制約による一律対応の常態化 安全確保を優先した活動制限

こうした課題解決に向け、現場に対しては待遇向上や人材の獲得、利用者に対しては個別リスクアセスメントを行い、可視化したうえで自己決定を支援するなど、社会の意識啓発や法制度の整備による環境向上とともに、現場レベルでの創意工夫が求められているのです。

例えば、地域ボランティアの活用やICT機器による見守り強化など、限られた資源の中で解決方法が模索されています。

介護における個別性尊重とノーマライゼーションの両立

ノーマライゼーションを推進する上で重要なのは、利用者一人ひとりの個別性を尊重することです。

例えば、夜型の生活リズムの高齢者には無理に早寝早起きを強要しない、食事も個人の嗜好になるべく合わせるといった柔軟な対応が求められるでしょう。これは単なる配慮ではなく、ノーマライゼーションの本質にかかわる重要な視点なのです。

福祉用具や在宅医療・介護サービスの発達により、個別ケアを行うための手段は飛躍的に拡充しています。

普段のケアを通じて利用者の生活歴や価値観を深く理解し、世間一般的な普通の基準を当てはめるのではなく、「本人にとっての普通」を基準に考えることが重要です。

地域社会と連携したノーマライゼーションの推進事例

ノーマライゼーションを地域で推進するには、行政や地域住民と連携した取り組みが非常に効果的です。海外の成功事例として、北欧スウェーデンで実現したバリアフリーの街づくりがあります。

ストックホルムでは地下鉄駅を中心に、介護付き住宅や商店、映画館、図書館、警察署、職業安定所など生活に必要な施設を集約した街区を造成しました。

区域内は車両進入を禁止し段差を排除するなど、車椅子や高齢者でも安心して移動できるバリアフリー空間としています。

このように行政主導でインフラを整備し、地域社会全体で高齢者・障がい者を支える環境を作った事例は、ノーマライゼーション社会のモデルといえるでしょう。

また、日本でも各地で地域ぐるみの取り組みが積極的に進んでいます。実際、サービス種類別に介護サービスの受給者数をみてみると、居宅サービスや居宅介護支援の利用者が多いことから、地域で受けるケアが主流となっていることが読み取れます。

出典:厚生労働省「令和5年度 介護給付費等実態統計の概況」を基に作成

例えば神奈川県川崎市では、「障がいのある人もない人も、互いを尊重しながら共に支えあう、自立と共生の地域社会」の実現を掲げ、2021年から2026年度の第5次かわさきノーマライゼーションプランを策定し以下のような取り組みを行っています。

相談支援体制の充実 「心のバリアフリー」の推進 地域相談窓口の整備 バリアフリー住宅やグループホームの拡充 障がい者と高齢者の交流イベント開催 学校教育での福祉学習

このように自治体・企業・住民が連携して共生のまちづくりに取り組む動きが、全国的に活発化しています。

これらの事例が示すように、行政・企業・市民が一体となって環境整備や意識啓発を進めることで、地域社会全体が支え合うノーマルな社会を実現していくことが可能となります。

各地域の特性を活かしながら、住民主体の取り組みを展開することが、持続可能なノーマライゼーション社会の実現につながるのです。

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